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イラクの石油を管理しているのは誰か。
アメリカとイギリスはイラク統治の費用を補うためにイラクの石油を利用する権利をある程度は持っているが、法的には石油の所有権はイラク国民が持っていると国際法学者は主張している。占領当局がイラクの油田を開発したり、私有化したりするような長期的な計画を決定することに法的正統性があるかどうかは疑わしい。多くの専門家は、そのような計画の決定は、国際的に正統性を認められたイラクの新政府が樹立されてから下されるべきだと指摘している。
現在、イラクの石油産業に関して実際に意思決定を行っているのは誰か。
日々の業務に関する決定はイラク人、特にタミル・ガドバン石油相代行とサダム・フセイン政権下で石油輸出を独占管理していたイラク国営石油公社(SOMO)の上層部が下しているだろうと石油産業の専門家は考えている。また、シェル石油の元社長兼CEOだったフィリップ・キャロルがイラクの石油省のアドバイザーを務めている。エネルギー産業に関する情報を提供するエネルギー・インテリジェンス社のシニア・エディターであるカレン・マツシックによれば、アメリカのイラク戦後復興計画では、キャロルはイラクの石油産業を監督する国際委員会の委員長を務めることになっていたが、最近になって連合軍はその構想を捨て、イラク国民自身に石油産業を管理する大きな権限を認めることにしたようだ。
イラクの石油をめぐる諸問題に関わる国際法は何か。
国際人道法(IHL)だ。これは戦争のルールを規定し、占領軍の義務を定めた様々な条約と慣習法の総称で、占領した国の天然資源の利用に関する問題は、特に一九〇七年のハーグ規則と一九四九年のジュネーブ四条約で触れられている。これに加えて、二〇〇三年五月に採択された国連安保理決議一四八三はアメリカとイギリスを連合当局と認め、イラクの石油売却に関する規則についても細かく定めている。
占領者は、占領した土地であらゆる資産を利用できるか。
できない。一般に、私有財産や宗教施設、慈善事業関連の施設、教育施設の資産を補償なしに没収、破壊することは禁じられている。
イラク国有の油田のような公的資産に関しては、私有資産とは異なる規則が適用される。人権NGOであるヒューマン・ライツ・ウォッチが発表したリポートによれば、武器やトラックのような軍事目的に使用できる政府の「動かすことのできる」財産は「戦利品」とみなされ、補償なしに没収することができる。一方、国有の建物や不動産、天然資源のような「動かすことができない」財産に関しては、占領軍は没収、破壊してはいけないが、信託財産のように、占領の費用を補うために使用することはできる。
占領軍は、石油売買で得た利潤を、自国の軍事支出のために利用することはできるか。
多くの国際法学者は、ハーグ規則の第四九項を引用し、占領に関する法律は、「占領のための軍事支出と占領地の統治に必要な」資金のために、占領軍が占領した国の資源を利用すること、さらには占領地の市民に税を課すことを認めていると指摘している。しかし、アメリカとイギリスは、安保理決議一四八三の採択に同意したことで、米英によるイラク統治を国際的に認めてもらう代わりに、この選択肢は放棄したようだ。
安保理決議一四八三では、イラクの石油収入の利用に関して、どのように定めているか。
安保理決議では、すべての石油収入はイラク中央銀行内に新設されたイラク開発基金に預けられ、イラク暫定統治機構との協議を行った上で、米英が管理することになっている。現在のところ、イラク暫定統治機構はイラク統治評議会のメンバー二十五人で構成されている。石油収入は「不透明な形で使用してはいけない」とされており、以下の目的でのみ使うことが認められている。
・イラク国民の人道的救済
・経済復興とインフラの修復
・イラクの継続的な武装解除
・イラクの文民による統治機構の費用
・「イラク国民の利益となる他の目的」
国連の「石油と食糧の交換計画」の下での石油売却はいまでも行われているのか。
行われていない。一九九一年の湾岸戦争後に課された国連による制裁の下、イラクの合法的な石油売却はすべて石油と食糧の交換計画で管理されることになった。これは食糧、医薬品、その他の民生品を購入する費用を得るためだけに目的を限定して石油輸出を認めるものだ。国連の報道官イアン・スティールによれば、三月のアメリカの侵攻前に国連スタッフがイラクから撤退した時点で、石油と食糧の交換計画による石油売却管理も中止になった。安保理決議一四八三により、石油と食糧の交換計画はイラク戦争開始以前から所有していた約百億ドルの資金を引き続き使用していくことが認められ、特にイラク国民のための食糧と必需品を中心に物資を購入していくこととなった。ただし、二〇〇三年十一月二十一日でこの計画は完全に終了し、残った資金は連合当局が管理するイラク開発基金に移されることになっている。
イラクにはどれほどの石油があるのか。
イラクはサウジアラビアに次いで世界第二位の石油埋蔵量をほこり、その量は千百〜千百五十億バレルに達するといわれている。しかし長年の戦争と制裁によりイラクの国土の大部分はまだ調査されておらず、実際にはもっと多くの石油が埋蔵されている可能性もある。米エネルギー省によればすでに発見されているイラクの七十三の油田地帯のうち、開発が進んでいるのは十五の油田地帯だけで、近隣諸国と比べても、深い油田はまだほとんど採掘されていない。
戦争開始までに、イラクはどれほどの石油を産出していたか。
二〇〇三年の一月、二月にイラクは一日約二百五十万バレルの石油を産出していた。一九九一年の湾岸戦争前には、産出量は一日約二百八十万バレルだった。湾岸戦争により油田地帯に大きな損害を被り、また国連の制裁によって油田を修復・現代化する能力が制限されたため、九〇年代の石油産出の成長は妨げられた。
現在、イラクはどれほどの石油を産出しているのか。
一日に百二十〜百五十万バレルで、これは世界の石油総産出量の一・五%に相当するとイラクの役人は語っている。しかし、労働者による破壊行為や略奪、技術的な問題などにより、生産量はすぐに変化する。八月十五日には爆発が起こり、北部の都市キルクークと地中海に面するトルコのジェイハンを結ぶ六百マイルのパイプラインが使用できなくなった。修復作業は現在も継続中だ。これに加え、イラクで連合軍の司令官を務めるリカルド・サンチェス中将は八月中旬、密輸業者がパイプラインに穴を開け、一日二千五百トンもの石油を盗んでいると指摘している。
石油産出の目標量はどれくらいか。
アメリカ、イラクの役人は、目標は来年初頭までに一日二百五十万バレルの石油を産出できるようになることだと語っている。しかし最近イラクを訪れた産業の専門家は、現在の悲惨な状況を考えると、そのような目標は楽観的だと指摘している。石油産出を戦争開始前の量に戻すため、米陸軍工兵隊は、二〇〇四年三月三十一日までに油田の生産性を改善する総額十一億四千万ドルに達する契約を入札にかけている。これまで石油に関する事業の契約はケロッグ・ブラウン&ルート社(KBR)と米陸軍の間で交わされていたが、これはイラク戦争開始以前に秘密裏に交わされたもので、批判も多かった。今回の契約はこの契約に代わるものとなるだろう。
これまでKBRはイラクで何をしたのか。
KBRは油田火災の消火、油田とパイプラインの修復を行ってきた。KBRはまた、米軍の占領本部でクリーニング屋と理容室も経営しており、契約が柔軟なものであったことを利用して本来の業務とは関係のない仕事まで手を広げて利益を得ていると非難されている。米陸軍によれば、この契約は七十億ドルに値するもののようだ。KBRの親会社であるハリバートンは一九九五〜二〇〇〇年に現米副大統領のディック・チェイニーが最高経営責任者(CEO)を務めていた。ハリバートンは第二・四半期に三億二千四百万ドルの利益をイラクでの事業から得ている。
イラクは石油売却を開始したか。
開始している。戦争が終わって以降、SOMOは約三千四百万バレルの石油の売却に関する契約を世界の大手石油会社との間に交わしている。契約を交わした会社の中には、ブリティッシュ・ペトロレアム、ロイヤル・ダッチ・シェル・グループ、シェブロン・テキサコ、ブラジル国営石油会社、中国の中化国際貿易公司、フランスのトタルフィナエルフなどが含まれている。この石油の大部分はイラク南部の油田地帯で生産され、ペルシャ湾に面する輸出港ミナ・アル・バクルのタンカーまで輸送されている。
イラクの石油は標準的な石油価格より安い値段で取引されているのか。
取引の正確な条件は公開されていないが、産業の専門家は、イラクの石油も標準的な価格で売られているし、取引に関してアメリカの企業だけが優遇されていることもないだろうと述べている。マツシックは「SOMOは売買契約は純粋に商業的な目的で行われており、政治的な事情で契約の条件が変化することはないと言っているし、私にもそう見える」と語っている。実際、まだ契約を勝ち取っていないロシアの企業を除けば、最近の石油売買の透明性に対して異議を唱える企業はほとんどない。石油産業調査財団の副会長であるロナルド・ゴールドは、石油と食糧の交換計画の下では、かなりの量の石油はロシアの転売商人に流れていたが、現在SOMOは石油精錬業者に対して直接売ろうとしていると指摘している。
イラクの原油が再び市場に参入することで、世界の石油市場にはどれほどの影響があるのか。
しばらくの間はそれほどの影響はないだろうと産業の専門家は指摘している。石油産業調査財団の議長であるジョン・リヒトブラウは、たとえイラクが一日二百万バレルの原油を産出するようになったとしても、それは世界の原油産出の二・五%に過ぎず、これによって世界の原油価格が一バレルあたり二、三ドル下がることはあるかもしれないが、それ以上の影響はないと述べている。イラクは石油輸出国機構(OPEC)の加盟国であるが、一九九一年の湾岸戦争以降、OPECの原油生産枠割り当てには参加していない。ただし、イラクの現在の原油産出能力は非常に低いため、OPECの生産枠割り当てを適用されても、当面は問題がないだろう。このところ、イラクはOPECに代表を派遣していないが、イラク統治評議会は現在、OPECに派遣する代表を選んでいるといわれている。アブラハム・スペンサー米エネルギー省長官は八月七日、イラクがOPECから離脱するかしないかは「イラク国民自身によって決定されることになるだろう」と述べている。
石油産業に関するイラクの長期的な計画はどのようなものか。
まだ決まっていない。多くの専門家は、将来、イラク国営の油田に対する海外からの民間投資が、特に新たな油田の開発やイラクの企業と協力して行われる事業などの分野で認められるようになるだろうと考えている。しかし、国際的に正統性を認められた政府がイラクに誕生するまでは、いかなる長期的な計画も練るべきではないと主張する専門家もいる。ペルシャ湾の石油がこれまで国有だったという歴史的経緯、イラクへのアメリカの関与に対してあらゆるところから投げかけられている疑いの目を考えれば、イラクの石油産業が完全に民営化される可能性も低いだろう。リヒトブラウも「外国企業によるイラクの石油企業の買収が行われるとは思わない。ワシントンはそのような買収によってアメリカに対する悪い印象を持たれることは避けたいと思っているからだ」と語っている。
将来、イラクの石油収入の一部がイラク国民に分配される可能性はあるのか。
イラク暫定占領当局代表のポール・ブレマーは何度も石油からの利益をイラク国民に分配する信託基金を作るよう主張してきた。この方式のモデルとなるのはアラスカで行われているものだ。アラスカでは石油収益の一%を小切手の形で六十三万人の住民に直接配分している。去年、アラスカの住民は一人あたり千五百四十ドル受け取った。しかし、石油専門家の中には、イラク国民が二千四百万人もいることを考えると、少なくとも短期的にはこの方式はイラクでは実行できないだろうと指摘する者もいる。イラクの政治状況は依然として混沌としている上に石油売却からの利益は限定されているのに対し、分配金に対する需要ははるかに大きい。たとえ二〇〇四年に百四十億ドルという連合軍のもっとも楽観的な予測に沿った石油産出が可能になっても、ブレマーが推定した千億ドルというイラク再建費用全体にはほど遠い。
http://www.foreignaffairsj.co.jp/source/Iraq/IraqToday.htm