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中東和平:
ヨルダン川西岸に分離壁 パレスチナ側に食い込む
イスラエルがヨルダン川西岸のパレスチナ人居住区と自国領との間に建設中の「分離壁」が、中東和平の新たな火種になっている。イスラエルはパレスチナ過激派の侵入を防ぐのに分離壁が必要だと主張。しかし、一部で高さ8メートルにもなるコンクリートの壁はパレスチナ側に大きく食い込む形で建設されているため、生活圏を遮断されるパレスチナの村が続出。自治政府は住民の生活基盤を破壊する行為だと強く非難している。米国も国境線が既成事実化され、中東和平のロードマップに影響することを懸念している。
ヨルダン川西岸北部のパレスチナ自治区トゥルカルムから、「グリーンライン」と呼ばれる軍事境界線に沿って車で10分ほど北上すると、道路と並行していた分離壁が突然、東側(パレスチナ側)へと大きくカーブする。
真っすぐに北上するグリーンラインと、東側に迂回(うかい)する分離壁との間に挟まれたパレスチナ人の村ナズラト・イサは、まるで陸の孤島のような存在になっていた。
村の主な出入り口は東西に2カ所ある。西側はグリーンライン上のイスラエル軍検問所。東側は隣村につながるが、道の先を分離壁が遮断してしまった。人口約2500人の小さな村はイスラエル軍に完全に通行権を握られていた。
「1年前に壁が出来てからこれまでに、3人の急病人が救急車の到着前に死んでしまった」と、村の評議会長を務めるサレムさんは悔しそうに語った。大きな病院はすべて壁に隔てられたパレスチナ側にある。壁が出現する前は10分ほどで村に救急車が到着したが、今では1時間半もかかることがあるという。
壁は村民の生活の糧も奪った。住民はある日突然、イスラエル軍当局者に建設予定地の地図を見せられ、有無を言わさず先祖伝来のオリーブ畑などを没収された。補償はなく、ナズラト・イサとその隣村の農民約4000人のうち約1000人が職を失ったという。
分離壁の形態はさまざま。ナズラト・イサ周辺は、高さ3メートルほどの鉄条網のフェンスになっている。高圧電流が流れ、触れると感知システムが作動する仕組みになっているといわれ、乗り越えるのは不可能だ。トゥルカルムやカルキリヤの近郊には高さ約8メートルのコンクリート製の壁がそびえ立ち、「ベルリンの壁」のような様相を呈している。
テロ対策としての分離壁の効果を疑問視する声もある。6月中旬にはカルキリヤ近くで、パレスチナ過激派が分離壁のすき間から道路に向けて発砲し、7歳のイスラエル人少女が射殺される事件が発生した。100キロ当たり10億シェケル(約270億円)とされる巨額の建設費がイスラエル経済にのしかかっていることも見逃せない。
最大の問題は、イスラエル政府がヨルダン川西岸に点在するユダヤ人入植地などを保護するため、自治区側の奥深くまで壁を食い込ませていることにある。欧州連合(EU)や米国などの調査結果によると、ナズラト・イサのようにグリーンラインと分離壁に囲まれた地域で不自由に暮らすパレスチナ人は約1万2000人に上り、深刻な社会問題に発展している。【ナズラト・イサ(ヨルダン川西岸北部)で、樋口直樹】
◇ロードマップに影響
ブッシュ米大統領は8日、イスラエルが建設中の分離壁について、パレスチナ自治区の地域的な連続性を阻害し、新中東和平案「ロードマップ」が目指す新国家の樹立と発展を困難にすることが「問題」という認識を記者団に示した。
またパウエル米国務長官は7日の記者会見で、米側は分離壁建設の「次の段階」に向けた問題点を具体的に指摘し、イスラエルは対応を考慮中だと説明した。
8日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、イスラエル側が米政府との協議がまとまるまで特定範囲で壁の建設を進めないことに同意したと報じた。実例として、パレスチナ自治区の奥深くに食い込み、ユダヤ人入植地を大きく囲い込む建設計画を挙げている。
分離壁問題でのこうした態度は、イスラエル寄りの姿勢が目立つブッシュ政権としては異例だ。もちろん、政権の看板政策の一つである「ロードマップ」の死活にかかわると見ているからだ。
ブッシュ大統領は6日にもこの問題で記者団の質問に答え、「和平のカギは当事者双方が必要な義務と責任を負い、人々が安全な暮らしと繁栄への展望を確信できる条件を作ることだ」とも語った。大統領もパウエル長官も、パレスチナ側のテロ根絶とイスラエル側の分離壁建設の中止をセットで求めている。
ブッシュ政権としてはパレスチナ自治政府のアッバス首相を盛り立てながらアラファト議長の影響力をそぎ、ハマスなどイスラム原理主義組織を解体に追い込みたいだけに、アッバス首相が最も強く非難している分離壁問題を放置するわけにはいかないようだ。
米政府はイスラエルが善処しない場合、分離壁の建設費用に相当する支援額を削減する懲罰的措置も辞さない構えを示唆している。【ワシントン中島哲夫】
◇分離壁とは
分離壁の建設は昨年6月から始まった。イスラエル側が「防護フェンス」と呼ぶように、その目的はパレスチナ過激派のイスラエル領への侵入を防ぎ、自爆テロを食い止めることにある。
00年9月末に起きたパレスチナとの衝突以来、イスラエル軍は再三、パレスチナ自治区への侵攻と再占領を繰り返したが、過激派を根絶できなかったため、シャロン・イスラエル政権は壁の建設でパレスチナと自国領を分離する道を選んだ。
計画によると、分離壁の総延長は67年の第3次中東戦争以前の軍事境界線である「グリーンライン」に沿った約630キロにも及ぶ。このうちヨルダン川西岸北部のジェニン近郊からカルキリヤ南部に至る約150キロ(一部エルサレム近郊を含む)の第1期工事が、今年7月末にほぼ完成した。
壁の多くはグリーンラインを越えてパレスチナ側を深くえぐるようなルートを取っている。国連安保理は第3次中東戦争後に採択した決議242で同ラインを前提にイスラエルに占領地からの撤退を求めたため、壁のルートは同決議に抵触すると指摘されている。
[毎日新聞8月10日] ( 2003-08-10-00:04 )
http://www.mainichi.co.jp/news/flash/kokusai/20030810k0000m030091000c.html