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平成15年7月26日(土)
社説 イラク特措法可決 疑問残る憲法との整合性
イラク復興支援特別措置法案が二十五日の参院外交防衛委員会で可決された。この法律自体は、イラクの復興支援で自衛隊の派遣を可能にするという時限立法だが、本質は日本の安全保障の基本にかかわる重要な内容をはらんでいる。特に、自衛隊を海外に派遣する際の原則、言い換えれば憲法の根幹にも触れかねない側面を持っている。
自衛隊の海外での活動は、これまでも段階的に広げられてきた。国連平和維持活動(PKO)、テロ対策特別措置法による対テロ作戦への支援がそうだ。ただ、今回はその二つとは事情が異なる。PKO活動は停戦合意を前提とし、対テロ作戦は主に洋上からの支援活動で、国際社会からも歓迎された。
今回のイラク復興支援は、正当性をめぐって国際世論が割れた戦争の後始末でもある。イラク全土が依然危険な状況にあり、小規模とはいえ戦闘は続いている。実質的には占領行政下にあるイラクへの自衛隊派遣は、憲法が禁じる海外での武力行使や武力行使との一体化が避けられないのではないか、これが常識的な見方だろう。もし、そうだとすれば憲法からの逸脱であり、少なくともその可能性まで否定するのは難しい。
イラクの復興は急務であり、国際社会の一員である日本が支援活動に汗を流すのは当然である。イラクをはじめ中東地域の和平は日本の国益にもかなう。ただ、その目的を実現させるためには、前提条件の検証が不可欠だ。憲法との整合性をはじめ派遣の緊急性・必要性、自衛隊員の安全確保、さらには開戦の正当性や、それを支持した政府の判断根拠も説明されなければならない。
その場が国会である。審議はほぼ一カ月に及んだが、残念ながら、国民が得心のいく説明が尽くされたとは言い難い。質疑でもかみ合っていない場面が少なくなかった。
論点は主に二つあった。まず、自衛隊の派遣が武力の行使、武力行使との一体化に当たるかどうかだ。質疑では、小泉純一郎首相が「戦闘行為には参加しない。戦闘地域にも行かない」と言明、石破茂防衛庁長官も「憲法の要請に従い自衛隊の活動は非戦闘地域で行う」と答弁した。
戦闘地域には行かない、と言うのであれば、戦闘地域、非戦闘地域の選別が可能であるという現状分析ぐらいは示す必要があるが、「色分けができるできないの問題ではなく、非戦闘地域で行動することを法的に担保しているということ」(防衛庁長官)「私に聞かれたって分かるわけない」「自衛隊が標的にされる可能性を論ずればきりがない」(小泉首相)など、丁寧さに欠ける説明が目立った。まず法律で枠組みを決め、その後の調査や情報収集をもとに派遣地域や活動内容を決めていく段取りだとしても、「イラク全土が戦闘状態」(現地司令官)という現状からすれば、こんな不誠実な答弁で納得できるわけがない。
論点のもう一つは、開戦の正当性と政府が支持した根拠だった。
政府側は(1)湾岸戦争での対イラクの武力行使を容認した国連安保理決議六七八(2)大量破壊兵器などの査察受け入れを条件にした湾岸戦争の停戦決議六八七(3)イラクが六八七などに違反していることを指摘した一四四一―の三決議を支持の根拠にし、国連決議を守らないイラクの非協力的な姿勢が招いた結果とした。
ただ、開戦の大義名分とされた大量破壊兵器はいまだ発見に至っていない。米英両国でさえ、情報操作があったのではないかと問題になっている。ここで大事なことは、大量破壊兵器が見つかれば正当性が証明されるということでもなく、「疑惑の段階」で、しかも査察継続・強化の余地が残っていながら米英が開戦に踏み切ったこと、そしてそれを日本がいち早く支持したことである。
「フセインだって見つかっていない」という小泉流の言い回しは論外だが、それまで「武力行使には新しい決議が望ましい」と国際協調を唱えてきた政府が、どんな理由で「過去の国連決議で攻撃の理屈は通る」(首相官邸筋)という考え方に転じたのか、委員会質疑ではいま一つはっきりしなかった。
同法の成立を受け、基本計画を閣議決定。それをもとに実施要項が定められる。その中で、活動区域や活動内容が具体的に決まる。政府が一連の答弁で約束したことがきちんと担保されるかどうか、今後注視していく必要がある。それにしても、国会で政府と野党の論議がかみ合わないまま重要な法律が決まっていく現状は、どう見ても正常とは思えない。
http://www.kumanichi.co.jp/iken/iken20030726.html