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イラク特措法案:陸自派遣仕切り直し 非戦闘地域 理解に差(毎日新聞)
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投稿者 彗星 日時 2003 年 7 月 26 日 02:28:47:HZN1pv7x5vK0M

イラク特措法案:
陸自派遣仕切り直し 非戦闘地域 理解に差


 「イラク特措法案について英語のパンフレットを作って米軍に説明するように」。16日夜、石破茂防衛庁長官は、イラクへの派遣計画をめぐる庁内協議の席で、内局幹部、陸海空自衛隊の幕僚に指示した。今月初め、米中東軍司令部(フロリダ州タンパ)から「治安の悪いバグダッド北方のバラドで米軍を後方支援してほしい」との要望が伝えられたことに衝撃を受けたためだ。

 バラドは米軍への襲撃が頻発している地域の一つ。法案で活動が禁じられた「戦闘地域」に当たる可能性があるうえ、武器使用に制約のある陸自にとって危険度が極めて高い。防衛庁幹部は「米国は日本の事情を理解していると思ったが違った。意思疎通ができていない状態で米軍支援に派遣するのはかえって危険だ」と述べ、自衛隊が活動できる「非戦闘地域」の認識の違いに驚きを隠さない。

 16日深夜まで続いた庁内協議は、結論が出ないまま17日に持ち越された。石川亨統合幕僚会議議長らが出張予定をキャンセルして臨んだ協議の結論は、それまで検討していた米軍支援中心の派遣計画を白紙に戻し、人道復興支援にシフトするという方針転換だった。

 イラク国内はバラドに限らず、米軍への襲撃が激しさを増しており、「治安が悪いというレベルを超えている」(防衛庁幹部)。陸自が米軍の後方支援を行えば「米軍と一体」とみなされる恐れがあることも考慮された。同庁は比較的治安のいいイラク南部に陸自部隊を派遣し、日本の政府開発援助(ODA)で建設された病院などで電力供給や給水活動を行うことを検討している。

 ただ、自衛隊のイラク派遣はいわば対米公約。「米軍支援はしばらく待ってくれということで、米側が納得するだろうか」(同庁幹部)との懸念も強い。米側から突き付けられた「踏み絵」への対処に苦慮せざるを得ない状況だ。

◇対戦車用武器、装甲車 「戦場」想定の武装化

 米中東軍司令官が「ゲリラ戦」と認めるイラク国内の治安状況。政府は「非戦闘地域」が安全とは限らないとの国会答弁を繰り返し、事実上の「戦場」派遣に備え、過去の国連平和維持活動(PKO)派遣より重武装化することを検討している。

 イラク特措法案には派遣部隊の武器・装備が明記されておらず、国会に報告される基本計画に盛り込まれる。石破長官は「相手が何を持っているのかに合わせて(武器を)持っていく。制限があるものではない」と国会で答弁し、「何でも持っていけるという誤解を与えたとしたら、お詫びして訂正する」と翌日に陳謝する場面もあった。

 陸自は過去のPKO派遣で経験のあるけん銃、小銃、機関銃に加え、対戦車用「84ミリ無反動砲」の携行を検討。相手からの攻撃に備え、重機関銃で武装した装甲車「82式指揮通信車」も持ち込む考えだ。派遣部隊の警備にあたる隊員はレンジャー、空挺団員ら陸自でも過酷な訓練を経験している者を中心に選抜し、銃撃戦に対応できるようにする方針だ。

 航空自衛隊はイラク国内と周辺国との間で米軍の物資や兵員、陸自の物資などをピストン輸送するため、C130輸送機を最大3機派遣する計画。だが16日にバグダッド国際空港上空で米軍のC130が地対空ミサイルで攻撃されたことに防衛庁の衝撃は大きく、金属片や熱源を射出して相手ミサイルの照準をそらす「チャフ・フレアー」装置のついた機体を初めて海外派遣に用いることを検討している。

 また、派遣する部隊が占領軍のイメージを持たれないように、イラク国民に対し、人道復興支援のために派遣されたことをアピールするチラシなどを事前配布することを計画している。当初は陸自隊員の服装を米軍と同じ砂漠用の迷彩にする予定だったが、「米軍と一体に見られる危険がある」として違う色にすることも検討している。こうした点でも米軍との差別化を図ろうと懸命になっている。

 国会会期を延長してイラク復興特措法案の成立を急いだ政府・与党。しかし、実際の陸上自衛隊派遣は時期も活動内容もメドが立たず、11月以降にずれ込みそうだ。イラク国内では米軍への襲撃が激化する。米軍支援を行えば自衛隊も一緒に標的にされかねない危機感も募り、派遣計画の検討作業はイラク国民への人道復興支援に軸足を移す方向で仕切り直されることになった。それでも自衛官に犠牲が出る懸念は消えず、「戦場」を想定した重装備化の準備も進む。「本当に自衛隊を派遣できるのか」(防衛庁幹部)との不安を抱えたまま、イラク復興支援が動き始める。【宮下正己】

◇特措法成立 米は歓迎

 【ワシントン佐藤千矢子】米ブッシュ政権はイラク特措法案が成立する運びになったことを歓迎している。開戦前の情報操作疑惑で「戦争の大義」に疑問が突きつけられる中、中東諸国と良好な関係にある日本のイラク復興への本格参加は、米軍主導の軍政の「正統性」強化に役立ち、さまざまな波及効果が期待できるからだ。自衛隊派遣は、米国にとって復興の「実質的需要」を満たしてくれるというよりは、「政治的意味」が大きい。

 米軍は、米兵の間に長期駐留や治安回復の遅れにいら立ちが募っていることから、負担軽減のため、パキスタン、トルコなどと派兵交渉を継続中だ。だが仏独両国が派兵には新国連決議が必要と主張したり、インドが派兵見送りを決めるなど、支援国獲得作戦は順調ではない。こうした状況下で日本が自衛隊派遣を決定することについて、米スティムソン・センターのベン・セルフ上級研究員は「非キリスト教国で、中東地域から好感の持たれる日本の参加は、米軍の活動に正統性を与える。日本の参加には特別な意味がある」と説明する。

◇衰えぬ反米、耐えぬ攻撃 首都近郊ラマディ

 「自衛隊が来て米軍に協力するなら、みんな殺してやる」。バグダッドの東約80キロにある小都市ラマディの飲食店主(57)は、首を切る仕草をしながら怒り始めた。話を聞く記者の周囲にたちまち人だかりができる。「占領軍は出て行け」「米軍は独裁者だ」。男たちは口々に米軍への怒りをぶちまける。元大統領の2人の息子の死亡が確認された後も、イラク国民の反米感情は衰えを知らない。【ラマディ斎藤義彦】

 男たちのほとんどはフセイン元大統領を嫌いながらも、フセイン政権を倒した米軍の占領にも反発する。「旧政権の独裁で苦しめられたのに、米国も同じだ。イラク人を支配しようとしている」。イラク特措法案を審議する日本に対し、飲食店主は「米軍が去った後に来るなら日本も歓迎だ」と付け加えた。

 ラマディは、旧政権で権力を握っていたイスラム教スンニ派が多数を占め、フセイン元大統領支持者も残る。先月末には、市中心部で米軍が警察官を募集中、歩道で待つ志願者の列に爆弾が仕掛けられ、20人以上が死亡した。

 23日早朝には郊外の高速道路で地雷が爆発、米兵1人が死亡した。路肩の一部は黒く焦げて穴が開き、爆発の強さを物語る。現場を見た元イラク治安部隊員(32)は「米軍の車列がよく休憩しているのを知った上での狙い撃ちだ。米軍はこの辺で無差別に家宅捜索したり、部族の指導者を理由もなく拘束し、住民の怒りを買っている。米軍への攻撃は今後も続くはずだ」と話した。

 市の中心部からは米兵の姿が消えている。米兵攻撃が目立ち始めたため、米軍は治安維持はイラク人警察官にできるだけ任せ、倉庫など一部重要施設の警備だけを行う方針に転換したのだ。

 だが、ラマディ郊外に1万人規模の駐屯地を構える米軍への反発は衰えていない。米軍が監視を緩めたことで、市内で略奪などが増え、反米感情を高める結果も招いているのが実情だ。米陸軍のスポークスマンは「イラクはまだまだ危険な状態だ。兵士とイラク市民双方の危険を最小限にする最良の方法を探っているところだ」と話す。

[毎日新聞7月26日] ( 2003-07-26-00:14 )

http://www.mainichi.co.jp/news/flash/seiji/20030726k0000m010134001c.html

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