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【永遠に失われた最古の都市文明】ロバート・フィスク
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投稿者 TUP速報 日時 2003 年 7 月 06 日 18:15:45:DlnF7rlwhj5Xo

[TUP-Bulletin] TUP速報124号 03年7月6日 
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遺跡の略奪をめぐって人間のあさましさを思い知らされる悲しい記事です。何という
ことをしてくれたのかと思う一方、今となってはなす術がないのがやりきれません。
危険を認識していたアメリカが手を打っておけばなす術はあったのだと思うと、なお
さらやりきれません。

なお、原文別冊表紙のタイトルは「歴史の陵辱」となっていて、記事本文表紙にいま
も続く略奪(墓荒らし)の現場写真が使われているそうです。(覆面をして作業する
略奪者、カラシニコフを持った見張りなどが写っているもの)

(川井孝子/TUP翻訳メンバー)

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永遠に失われた最古の都市文明
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2003年6月4日 インディペンデント紙別冊「レビュー」
ロバート・フィスク

「さそりの母」と呼ばれたイラク南部の都市ウムアルカラブは、まるでB52の絨毯爆
撃を受けたように16km四方にわたり跡形もなくなっていた。略奪者たちがすべてを打
ち壊し、盗み尽くしていたのだ。粉々にされたシュメール文化の至宝にくるぶしまで
埋まりながら歩きまわっていた私は、緑色の美しい壷を見て4000年以上前の作り手を
思ったが、手に取るとこれも真っ二つに割れていた。

略奪者たちの狙いは今から5500年前の遺物であり、それより新しいものは紀元前2000
年の品といえどもガラクタだ。ガラクタを投げ捨てるのには60秒もかからなかったに
違いない。60進法による時間の区分を発明したシュメールの文化に対し、略奪者たち
が示した敬意といえば、シュメールという名のたばこの空き箱を現場に捨てていった
ことだけだった。

これは4月に組織的に行われたバグダッド考古学博物館略奪事件をはるかに上回る、
史上稀に見る文化的犯罪だ。文明発祥の地での文化遺産喪失は、人類の人間性の喪失
だ。このような由々しい事態が、これまで世界のどの報道機関でも報道されてこな
かったのである。

ナシリヤの考古学博物館の副館長エクバル・カゼムは、ついこの間まで無傷だった遺
物の破片の中で悲嘆にくれている。湾岸戦争時のシーア派の蜂起に際し(蜂起は父
ブッシュの裏切りによって潰えたが)、カゼムは身の危険を冒して展示物を守ったも
のだ。その展示物も今回瓦礫と化してしまった。しかし、博物館幹部を務めるバース
党の規則に縛られ、カゼムは遺物のかけらさえ持ち出すこともできない。略奪者たち
は大型トラックで略奪品を持ち去ったというのにだ。

略奪のプロの大型トラックは付近のウンマも襲い11km四方以上がウムアルカラブ同様
に破壊されている。ここでは略奪はまだ続いている。略奪者たちとジョークを飛ばし
あっているのは武装警備員だが、警備員も略奪に加担しているのではないか。「掘っ
て出てきたものを売るだけさ」とひとりは言うが実際にはそれだけではない。目当て
の品が壁に埋めこまれていれば、貴重な美術品である壁さえ崩し、建物全体までも破
壊してしまうほどの略奪者たちだ。

仏考古学誌の研究員で戦後の大量盗掘を調査しているジョアン・ファーカフは、考古
学史上これほどの規模の損害は過去1000年で初めてのことだという。シュメール文明
でも有数の重要都市であるウムアルカラブとウンマが事実上消滅してしまったのだ。
これは膨大な蔵書数を誇ったかのアレクサンドリア大図書館の焼失被害にも匹敵す
る。

ファーカフによれば、アメリカをはじめとしてヨーロッパ、中近東、日本などのコレ
クターは、自分のコレクションに欠落しているアイテムを捜している。アッカド王朝
の陶器とバビロニア、シュメール中期・後期の品々を持っているコレクターならば、
略奪者はその「注文書」に従って、シュメール初期のものだけを盗み、その他のもの
は破壊していったのだ。

今回のイラク戦争では、開戦が避けられないと見られた昨年秋から、イラクとアメリ
カ双方の考古学者がメソポタミア文明の文化的遺産の保護につとめ、金製品や宝石を
中央銀行やその他の秘密の隠し場所に移動するなど尽力した。いっぽう国防総省は、
シカゴ大学東洋研究所のマクガイア・ギブソンら専門家たちからの助言を受け、歴史
的価値のある地域については開戦前から認識していた。にもかかわらず、情けない責
任逃れに終始するアメリカ政府高官たち。ラムズフェルド国防長官は「そういうこと
もある!」と言い捨て、ブルックス作戦副本部長(カタールの米中東司令部スポーク
スマン)は「イラク国民が自国の宝を略奪するなど、思いもよらなかった」と筋の通
らないことを言っている。終戦後の住民の暴徒化は湾岸戦争のときに経験済みのはず
だ。しかも、アメリカ人を含め欲にかられた外国人コレクターの指示でこの文化的虐
殺に係ったイラク国民に責任を負わせるとは、人種差別的でさえある。

問題を認識していなかったなどと言わせはしない。学者の助言とは別に、3月8日付ヘ
ラルド・トリビューン紙や1月12日付インディペンデント紙の記事をはじめとして、略
奪の危険と対策の必要性については数々の指摘がなされていた。極め付きは米軍兵士
ならだれでも読んでいる軍機関紙スターズアンドストライプだ。開戦から5日、3月23
日付の文明への脅威と題した記事で、「4000点もの遺物が失われた湾岸戦争の経験か
ら爆撃停止後の略奪の危険」に対するギブソンの警告を掲載し、4万年前の石器や火
打石から5000年前の円筒印章、4500年前の金のイヤリングなど、値段のつけようもな
いほど貴重な遺物の数々を紹介している。これでもブルックス作戦副本部長は「思い
もよらなかった」などといえるのか?

ファーカフのみるところによれば、バグダッドの事件は内部の犯行だ。遅きに失した
とはいえ調査を行っているアメリカ人専門家も同意見で、ウルクの壷など特に有名な
品は、開戦以前から国際的コレクターの「注文」を受けていた可能性も高いという。
「公開できもしない盗掘品を集める自分勝手なコレクターたち。自分さえ満足できれ
ばいいというコレクターの際限のない欲望のために、ウムアルカラブとウンマまでも
破壊されてしまった」。

これに対しFBI、CIA、陸軍諜報部からなる司法チームは犯人の刑事訴追を考えていな
いのだ。犯人は、バグダッドで逮捕されても遺物を返却しさえすれば自由の身とな
る。イギリスはブリュッセルで密輸防止法を骨抜きにしようとした。ロンドンやジュ
ネーブやニューヨークのディーラーたち、それに各国のコレクターたちはますますや
りたい放題だ。

2週間前、略奪から1ヶ月以上経っていたが、アメリカ軍の調査担当上級将校マシュー
・ボグダノス大佐は、作業がなかなか進まないのをこぼしていた。博物館の記録がコ
ンピュータ化されていなかったことと、博物館組織にバース党員が入りこんでいたこ
とが原因だ。調査チームが防空壕に隠されていた遺物を発見して博物館に返還しよう
としても、新組織となるまでは信用できないと、地元住民が返還に反対するのだ。

住民の心配も無理はない。先週も上司と部下が言い争いをしていたが、バース党に任
命されたその上司は、フセイン政権下では、部下についてのレポートをイラク軍諜報
部に提出していた。学芸員のなかにはこのレポートが原因で兄弟が死刑になったと信
じている者もいるが、内容と署名者の開示は未だに拒否されている。アメリカ軍に訴
えても協力は得られなかった。

ボグダノス大佐によれば、盗まれた42点の重要品のうち9点が戻されたが、残りの33
点にウルクの壷やバシットゥキの彫刻が含まれている。壮麗なウルの黄金の竪琴その
他の15点は破損している。保管室にあった2100点のうち800点は戻ってきたというも
のの「1点が必ずしも彫刻1体というわけではなく、ほんの小さな破片のこともあるの
で、あまり喜ぶわけにはいかない」と別の情報将校は言う。

アメリカは、イラク軍兵士が最後の戦闘に博物館を使った証拠を見つけたと主張して
いる。手榴弾その他の遺留品や血痕も見つかっている。私が4月11日に足を踏み入れ
たときにも塹壕の跡が残されていた。略奪者は兵士が去った後に来たらしい。

そして彼らは博物館の鍵を持っていた。「以前には博物館内に隠されていた鍵、ギリ
シャ、ローマ、ヘレニズム時代のコインが収納されている保管キャビネット用の鍵を
持っていた」とボグダノス大佐は言う。皮肉なことに、略奪者たちは鍵を落としてし
まい、暗闇で探し出すことができずに結局キャビネットは開けることができなかっ
た。

シュメールの2都市に対する蛮行が発覚する以前でさえ、イラク国民は誰もが、国内
の文化遺産破壊についてアメリカが重大な責任を負っていると考えていた。アメリカ
でも専門の学者ならこれに疑いをはさむ者は少ない。しかし、国際法では占領軍の義
務について曖昧にしか述べられていない。1907年の第4次ハーグ条約では「略奪は正
式に禁止する」とされており、これが1949年のジュネーブ条約に取り入れられてい
る。ただし、「武力紛争時の文化財保護」条項を含むこのジュネーブ条約追加議定書
に、アメリカは今もって署名していない。

ところで、占領軍の足元でなおも続く略奪は、美術品市場に奇妙な現象を引き起こし
ている。市場に窃盗品が大量に出回れば価格は下がるのが普通だが、現在メソポタミ
ア文明のお宝は値上がりし続けている。コレクターたちが次から次へと買い漁るため
だ。それでも貪欲な国際コレクターが法の網にかかることはない。占領軍はほぼ何の
対策も取っていない。当たり前だ。今となっては心配するだけ無駄なのだ。ふたつの
都市はもう消滅してしまっているのだから。

(抄訳 川井孝子/TUP)

http://news.independent.co.uk/world/fisk/story.jsp?story=411845

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