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チャーリーがいたなら
酒井 啓子(アジア経済研究所員)
出世のことしか考えない上司と、足を引っ張り合う同僚、ケチで杓子
(しゃくし)定規(じょうぎ)な経理に囲まれながら、わが道を行くチャ
ーリー・マフィンは、フリーマントルが作り上げた英スパイ小説の主人公
だ。
一匹狼(おおかみ)の彼が諜報(ちょうほう)組織のなかで生き延びて
こられたのは、最後でどんでん返しの大成果を収めるからだが、現実社会
は、そうはいかない。スパイといえども上司には逆らえないし、予算は削
られる。政治家にケチをつけられれば、追いかけていたターゲットを見逃
さざるをえない。
そんな小説と現実のギャップを地でいくような立場に置かれているの
が、現在の米中央情報局(CIA)だ。
コトは、イラク問題。戦争の最大の原因だったはずの大量破壊兵器が、
なかなか見つからない。イラクの大量破壊兵器開発保有説はでっち上げだ
ったのではないか、という論議が、英米で盛りあがっている。情報の改ざ
ん、報告書への圧力を巡って、英国ではブレア首相が存亡の危機に立たさ
れているし、米国でも6月半ばから、議会の情報委員会で非公開調査が始
まった。
パウエル国務長官もライス大統領補佐官も、「諜報機関に圧力をかけた
ことはない」と強調し、CIA長官も改ざん疑惑を否定している。
しかし、当のCIA内に、くすぶる思いがあるのは確かだ。5月末に元
CIA分析官たちがブッシュ大統領に書簡を出したが、そこで彼らは、ブ
ッシュ政権が亡命イラク人の情報ばかり信用してイラク情勢を読み損ね
た、と批判する。「米軍は歓迎される」との情報に踊らされたあげく、激
しい反米抵抗に遭っているのは、政府がベテランCIAを無視していい加
減な情報に依存したからだ、と。
こうしたCIAの内部批判は、以前からある。20年以上CIAで工作
活動に従事したロバート・バエルは昨年、『シー・ノー・イーブル(見て
見ぬ振り)』という著書で、「CIAは政治的配慮だの経歴重視だのに侵
されて、組織的にダメになった」と指摘している。特に衛星写真など技術
革新に寄りかかりすぎて、現場の活動を軽視した。管理職には海外経験も
ないような人物がつき、「現場を踏むガッツもない」。こうした環境が
9・11を生んだ、と彼はクリントン政権を非難する。
じゃあ、それを反省したブッシュ政権はどうしたかというと、国防省内
に特殊計画局を設置して、CIAと別に独自の情報活動を展開する。それ
が、先のブッシュ批判文書のような不平不満につながった。みんなが「私
が一番知っている」競争に振り回され、どこに正確な情報があるか、わか
らなくなっているのではないか。
だが、あいまいな理由で開戦しても、結局は「勝てば官軍」になってし
まうのか。大量破壊兵器がなくても戦争は正しかった、とブッシュは言い
切る。大量破壊兵器の廃棄がなければ経済制裁は解除しない、と言ってき
た国連ですら、仏独も賛成してさっさと解除決議を採択した。
こうなると、律義に大量破壊兵器にこだわった英が一番損な役回りにも
見える。米の場当たり的な対応にカツを入れるチャーリー・マフィンは、
どこかにいないものか。
http://www.be.asahi.com/20030705/W12/0021.html