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イラク戦争は米軍の圧倒的な強さを見せつけると同時に、世界がいま、「攻撃」の容易さに比べると「防御」が困難な、「攻撃優位」の時代にあることを示した。
簡単に勝ってしまったという印象を与えた米国も、ひとたび防御に回ると、盤石とはいえない。イラク戦争で米軍が使用した精密誘導のミサイルはもとより、もっと精密度の劣る弾道ミサイルからも、自らを防御する能力を持っていない。
米国が、大量破壊兵器やテロリストの攻撃から自国を防御するため、として「先制攻撃」に踏み切ったのも、そんな攻撃優位時代の反映なのである。
近代の歴史を振り返ると、鉄道の開発が防御する側の軍隊の移動を容易にし、「防御優位」を生んだ。だが戦車が現れるとそれは崩れ、攻撃優位に戻った。そして強大な攻撃力を備えた核兵器の出現は、米ソ間に片方が核攻撃を仕掛ければ必ず双方が滅びるという「相互確証破壊」を生んだ。攻撃しても勝つことは出来ないという、防御優位に似た状況の中で、安定が生まれた。
一般に攻撃優位の状況下では、「攻撃した方が勝つ」という計算が働き、戦争の可能性は高くなる。先に仕掛けた方が有利という認識も広まるので、緊張が高まってから実際に戦争が始まるまでの時間は短くなり、外交交渉にかける時間的な余裕も少なくなる。そもそも相手を出し抜く必要に迫られるため、国家間の信頼醸成は難しくなる。もちろん誤解や事故による戦争の可能性も高まる。
実際、攻撃優位だった、あるいはそう信じられていた時代は、先を争って戦争に突き進んでいくケースが目立つ。第1次大戦は攻撃優位を信じた欧州各国が、動員時間の短縮に躍起になり、短期決戦の作戦を立てた。1時間の遅れが勝敗を分けると考えられ、ロシアがあせって呼び動員をかけ、それに呼応してドイツが競うように開戦した。
現在の攻撃優位の状況を作り出しているのは、弾道ミサイルの拡散だ。
冷戦後、入手が容易になったことに加え、弾頭に装填できる大量破壊兵器の拡散も進んでいる。イラクやイラン、北朝鮮などが、核兵器とその運搬手段である弾道ミサイルの開発に挑んでいる。インドとパキスタンは実際に核兵器を保有した。ただ、これらの国の核戦力は限定的なもので、「相互確証破壊」の状態にはない。米国はミサイル防御の開発を進めているが、防御優位を回復するほど有効なシステムは当分出来そうにない。
米国がイラクに対する「先制攻撃」を仕掛けたのも、今なら容易に勝てる確信があるが、イラクの核兵器開発が進んでしまったら、イラクあるいはイラクから核兵器を譲り受けたテロ組織の攻撃から、自らを防御する手だてがない、と判断したからだろう。
弾道ミサイルや大量破壊兵器の脅威に対し、「先制攻撃」がやむを得ない場合もある。しかし、長期的に見ると、攻撃優位とその結果生まれた先制攻撃の考え方は、国際社会を不安定にする。すでにインドがパキスタンに対する先制攻撃の可能性を示唆し、米国だけの専売特許ではない、という姿勢を見せている。
国際社会の安定のためには、攻撃優位がもたらす危険を一つひとつ、地道に潰していくしか方法はない。核兵器開発の査察体制の強化、ミサイル拡散の管理は、いっそう重要になる。本当に差し迫った脅威なのかどうかを冷静に見極め、対話の努力をあきらめないことも肝要だ。やむなく武力行使に踏み切る場合は国際社会の正当性が必要だ。逆に、正当性のない攻撃は罰し、「攻撃が割に合わない」という状況を作り出さなくてはいけない。