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クリストファー・ディッキー(中東総局長)
マジアル・バハリ(テヘラン)
杯に注がれた毒を飲むような気持ちだ――88年にイラクとの停戦を決断したときの苦しい心境を、当時のイラン最高指導者ホメイニ師はそう語った。
そして今、ホメイニの後継者ハメネイ師が、体制に不満をもつ国民から同じ言葉を突きつけられている。先週、286人の国会議員のうち127人が連名でハメネイに送りつけた書簡は、まさに「毒杯を飲め」と迫るものだった。
いわく、民主化と自由を求める声に耳を傾けよ。さもなければアメリカの攻撃を許し、「イランの統一と独立」が脅かされる――。
この書簡からわかるのは、イランが神権的政治体制下にあろうと、サダム・フセイン時代のイラクよりはるかに民主的であるということだ(当時のイラクなら、議員はとっくに処刑されていただろう)。
同時に、民主化運動が勢いを増していることがうかがえる。いまイランに戦争をほのめかしたり、秘密工作を仕掛けたりすれば、改革派には追い風になるはずだ。イラン・イスラム共和国という国名から「イスラム」という文字が消える可能性すらある。
問題は、アメリカが何を望んでいるか、だ。ジョージ・W・ブッシュ米大統領は昨年、イランの改革派勢力にとって「アメリカは最良の友人になる」と明言した。
イランの民主化を後押しするというアメリカの目標は、今も変わらないのか。それとも、核兵器開発(と疑われる)計画を阻止し、アルカイダ幹部をかくまっている(とされる)ことを理由に、イランを攻撃するつもりなのか。
この二つの目標は必ずしも両立しない。民主国家イランは、核兵器を手に入れたいと思うかもしれない。一方、イランを攻撃すれば、民主化を邪魔しかねない。それでも、テロや核兵器に対するアメリカの警告は、開戦の合図のように聞こえる。
核保有も時間の問題か
ブッシュ政権がイラク戦争の「大義名分」を巧みに操作したとの疑いがもたれるなか、ワシントンの主張するイランの「体制崩壊」を支持するのは、米国民ですらむずかしいだろう。共同歩調を取ってきたイギリスも、対イランに関しては慎重な姿勢を示している。
だが、イランが核保有国になる日は近いかもしれない。すでに中部のナタンツ近郊に、核兵器開発にも転用できるウラン濃縮工場を建設。イラン政府は平和利用が目的だと主張しているが、国連査察官に抜き打ち検査を認める議定書への調印は拒否している。
イランとテロ組織とのつながりは古い。レバノンの過激派組織ヒズボラについては20年来支援している。それでも、アルカイダとなると話は別だ。5月12日に起きたサウジアラビア自爆テロの首謀者をかくまったとして、米政府の一部はイランを非難している。
イラク攻撃にいたったときと同様、国防総省の強硬派はCIA(Central Intelligence Agency:米中央情報局)の情報を信じていない。彼らはアルカイダ最高幹部のサイフ・アル・アデルと、ウサマ・ビンラディンの息子がイランに潜伏しているとみているが、信頼できるCIA筋の情報では、2人は拘束された可能性が高い。
ハメネイはどんな決断を下すのか。「残された時間はわずかだ」と、国会議員は警告している。改革を進めるか、さもなくば死か。「一般市民が希望を失っているのに、エリートたちは国外に移住したり、口を閉ざしている」
そんなイランに、アメリカが手をこまねいているはずはない。
ニューズウィーク日本版
2003年6月11日号 P.34