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【リンチ上等兵を救え! 戦争とプロパガンダ】週刊金曜日
http://www.asyura.com/0306/war35/msg/991.html
投稿者 TUP速報 日時 2003 年 6 月 22 日 09:52:23:DlnF7rlwhj5Xo

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                   世界の環境ホットニュース(GEN)号 外
                     転載歓迎 03年6月22日・別処珠樹
リンチ上等兵を救え! 戦争とプロパガンダ

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以下は週刊金曜日の6月6日号からの転載です。転載の許可をもらっています。
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                                安濃一樹
                         ヤパーナ社会フォーラム
               http://www.kcn.ne.jp/~gauss/jsf/index.html

4月2日午前3時、カタールに派遣されていた各国の記者たちは、中央司令本部
からの電話で目を覚まされた。もしやサダム・フセインが捕まったのでは、と考
えた記者がいたのも無理はない。

つめかけた記者たちを前に、ビンセント・ブルックス准将が、米兵の救出に成功
したと告げた。イラク軍の捕虜となっていたのは第507整備補給部中隊のジェ
シカ・リンチ上等兵だという。9日前に中隊が襲撃を受け、行方不明になってい
た兵士の一人だ。下級兵はみな若い。ジェシカは19才だった。

午後、ビデオが公開された。特殊部隊による深夜作戦、イラク軍との激しい銃撃
戦、決死の突入を試みる兵士たち、救出された彼女を運ぶヘリコプター。ビデオ
が終わると、画面に彼女の写真が映し出された。傷ついたジェシカの胸に星条旗
がかけられていた。

戦争が始まってから、メディアがずっと待ち望んでいた「明るい」ニュースは全
米に伝えられた。しかし、ジェシカ・リンチの名声を決定的にしたのは、米ワシ
ントンポスト紙の第二報である。三日、同紙は「彼女は死を覚悟して戦いつづけ
た」という見出しで、次のように報じた。

 ──彼女は、銃弾がつきるまで勇敢に戦い、数人の敵を撃ち倒した。・・・仲
間たちが死んでいく。敵の銃弾に撃たれ、傷を負いながらも、彼女は銃を撃ちつ
づけた。

 ──死ぬまで戦うつもりだった。生きて捕虜となることを望まなかったからだ。

抵抗をする彼女をイラク兵がナイフで刺した、とも伝えている。記事は世界中を
駆けめぐり、ジェシカは「戦場のヒロイン」となった。
 
だが同日、この戦争ドラマに疑いが投げかけられる。ポスト紙の報道から数時間
後、ジェシカが収容された米軍病院の軍医が、上等兵は骨折しているけれど、銃
で撃たれた傷もナイフで刺された跡もないとコメントした(4日、APほか)。

やがて,彼女が「監禁」されていたナシリアの病院が取材されるこことになる。
加トロントスター紙(5月5日)などの報道によると、イラク人の医師たちは、
戦時下の病院にできる限りの治療を施していた。リンチ上等兵は、攻撃を受けて
車両が転倒した際に、片腕と大腿骨を骨折し、足首を脱臼していたという。担当
となった看護婦は、早くアメリカに帰りたいと訴える彼女を励ましつづけた。米
ニューズウイーク誌(4月14日号「ジェシカの解放」)が伝えたような虐待な
どなかった。フォックス・ニュースが示唆した拷問もなかった。

病院は、ラムズフェルド長官(4月3日、国防省会見)がいうような軍事施設で
はないし、イラク兵たちは、特殊部隊が「救出」にくる前に、街から姿を消して
いた。ビデオの戦闘場面は米軍の一人芝居だったことになる。

深夜の奇襲で、病院の関係者も患者もみんな驚き、恐怖を感じることになった。
英BBCニュース(5月15日)によると、医師のひとりが次の証言している。

 ──まるでハリウッド映画のようでした。兵士たちは、GO! GO! GO!
と叫びながら空砲を撃っていた。実弾ではありません。銃声と爆発の音。米軍が
病院を襲撃するというシーンが演じられた。シルベスター・スタローンやジャッ
キー・チェンのアクション映画と同じです。

BBCニュースが確認できた複数の証言によると、医師たちはリンチ上等兵のこ
とを米軍に通報していたし、検問地点の部隊までジェシカを送り届けようとさえ
した。だが、彼女を乗せた救急車は米軍の銃撃によって追い返されている。救出
作戦が敢行される二日前のことだった。

5月18日、BBCテレビが、現地での調査に基づき、救出劇はペンタゴンによ
るプロパガンダだったと結論した。特別番組のタイトルは「戦争のスピン」であ
る。スピンとは「情報操作」と訳されることが多いけれど、本来は「適当な作り
話をして人を煙に巻いてしまうこと」を意味する。報道対策の専門官はスピン・
ドクターと呼ばれている。

3月の末、ブッシュ政権は追い詰められていた。経済制裁のために弱り果てた貧
困国の軍隊が執拗な抵抗を見せた。米軍は何度もパニックに陥ったし、兵士は疲
れていた。作戦が批判された。「誤爆」や「誤射」が追求されもした。ジェシカ
救出劇は絶好のスピンとなった。

BBCによる綿密な調査報道の後でも、米NBCテレビが救出劇をテレビ映画に
する予定に変わりはない。ハリウッドでは、映画化の権利をめぐり激しい争奪戦
が続いている。

虐待されていたリンチ上等兵を救うために、命がけで米軍に情報を伝えたイラク
人がいたが(四月四日、ポスト紙「イラク人男性、すべてを賭けて米兵を救う」)、
妻子と共にアメリカへ亡命を果たしている。軍産関係の仕事も決まり、体験談の
出版権に50万ドルの値がついた(5月20日、LAタイムズ紙)。いま彼は一
切の取材やインタビューを拒絶している。

ジェシカが証言すれば、真実は明らかになだろう。しかし、軍医によると、上等
兵は襲撃されてからの記憶を失っている(5月15日、英ガーディアン紙など)。
記憶はもう戻らないかもしれないという。

5月19日、BBCテレビの調査報告を受けて、ペンタゴンの報道官ブライアン・
ホイットマンが、リンチ上等兵の救出は演出されたものだという批判は すべて
「事実無根であり、まったく馬鹿げている」とコメントした。メディアを席巻し
た憶測記事については、ペンタゴンが情報源ではないという(5月20日、BB
Cニュースほか)。

スピンの技術はすでの確立したもので、真実が明るみに出たとしても、致命傷と
はならない。全面否定するというスピンがある。責任をよそへ回すというという
手もある。市民の注意や関心を他へ向けるというスピンもある。どうにも無理が
利かなくなれば、何もなかったことにすればいい。

イラク侵略のために、数限りない スピンが 繰り広げられた。「大量破壊兵器」
「解放」「民主化」。みんな嘘(うそ)だと明らかになっても、ブッシュとタカ
派たちは切り抜けて見せるつもりだ。そのために最強のスピンが用意されている。
新たな戦争である。

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