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帝国の野望
デビッド・バーサミアンによる、ノーム・チョムスキーへのインタビュー
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2003年5月 マンスリーレビュー第55号
http://www.monthlyreview.org/0503chomsky.htm
デビッド・バーサミアン(以下DB):アメリカのイラク侵攻・占領が中東にもたらす影響はどんなものでしょうか?
ノーム・チョムスキー(以下NC):イラク侵攻は中東だけでなく世界中で、アメリカ政府にとって武力行使への規範づくりのための格好のテストケースだったと正しくとらえられていると考えます。武力行使の規範については、昨年9月に総括的に宣言されています。昨年9月、米国国家安全保障戦略が発表されました。その中には武力行使に関する、かなり新奇で非常に極端なドクトリンが見られました。この発表と符合するかのようにイラク戦争への気運が高まっていったことを無視するのは困難です。またこれと同時に、米国中間選挙が始まりました。すべてが関係し合っているのです。
新ドクトリンは国連憲章の拡大解釈内にある先制攻撃に関するものではなく、むしろ国際法にはなかった、予防戦争に関するものでした。あなたも覚えているとおり、そのドクトリンとは、アメリカが武力によって世界を支配し、もしその支配にとって何らかの障害と感じられるものがあれば、たとえその障害が遠かろうがでっち上げであろうが空想の産物であろうが、その障害が脅威となる前にアメリカがそれを破壊する権利を持つというものです。これは予防戦争であって、先制戦争ではありません。
また仮にドクトリンを発表したいと思っても、いわゆる新しい規範をつくることができるのは強力な国家ということになります。ですからもしインドが、パキスタンの残虐行為に終止符を打つためにパキスタンに侵攻しても、それは規範ではありません。しかしもしアメリカが勝手な理由をつけてセルビアを爆撃すれば、それは規範になります。力がものを言うのです。
だからもし新しい規範をうち立てたいなら、何かことを起こさなければなりません。一番簡単な方法は、まったく無防備なターゲットを選び出すことです。そうすれば、人類史上最大の武力をもって完全に制圧することができます。しかし、確実にこれをやろうと思えば、少なくとも自国民を恐怖に陥れなければなりません。つまり無防備なターゲットは、恐ろしい脅威にならなければならないのです。9月11日に関係があって、再びアメリカを攻撃する準備があり、そして・・・、という具合に。そしてそれが実際に行われたのです。昨年9月を発端として、多大な努力がなされ、世界で唯一、アメリカ人たちに、サダム・フセインは暴君であるだけでなくアメリカにとって脅威でもあると信じさせることにおおむね成功しました。これが10月の国会決議と、それ以降の諸々のあらすじです。世論調査を見ればわかるでしょう。現在、人口の約半数が、フセインが9月11日の首謀者だと信じてさえいるのです。
これらすべての要素がすべてうまく組み合わさりました。まずブッシュ・ドクトリンが発表され、お手軽な相手を敵に新しい規範が打ち出されました。国民はパニック状態に追い込まれ、世界で唯一、こんな作り話を信じ込んで、自衛のための武力行使を支持するようになりました。ブッシュ政権の言うことを鵜呑みにすれば、たしかに自衛と言えるでしょう。こうして侵略のお手本のようなモデルケースができあがりまた。そこには次なる侵略の範囲を拡大しようという意図があります。簡単な相手が片づいたら、次はもっと手強い相手へと進めるわけです。
こういうわけで世界の多くの国々が戦争に反対したのです。これが単なるイラクに対する攻撃ではないことを、つまりこれがなにを意図しているかを多くの人が正確に把握していました。気をつけろ、これで終わりじゃないぜ、という警告ととったのです。だから今、世界のおそらく大多数の人たちが、アメリカを平和への最大の脅威だと考えているのです。ジョージ・ブッシュは一年もしないうちに自国を、大いに恐れられ、嫌われ、憎悪さえされる国に変えてしまいました。
DB:ポルトアレグレで行われた世界社会フォーラムであなたは、ブッシュ大統領とその側近を「帝国的暴力」に手を染めている「急進的ナショナリスト」だと言っておられましたが、ブッシュ政権は実質的に父ブッシュ政権と異なっているとお考えですか?
NC:歴史的視点を持つのはいいことです。ブッシュと政治的に最も遠い位置にあった、ケネディ時代の自由主義を見てみましょう。1963年にブッシュの国家安全保障戦略と大差ないドクトリンが発表されています。1963年のことです。古参の政治家でケネディ政権の上級顧問をしていたディーン・アチソンが、アメリカ国際法学会への講演で、米国がその地位、特権及び権威を脅かすものに応戦した場合、いかなる法的問題も生じないと示唆したのです。ほぼこのような言い回しを使いました。アチソンは何のことを言っていたのでしょう?アメリカのテロ戦争とキューバとの経済戦争のことを言っていたのです。絶妙のタイミングでした。なぜならこの講演は、世界を核戦争の一歩手前に追い込んだミサイル危機のすぐ後だったからです。そしてこれは、ミサイル輸送を招いた主要因である、今の言葉で政権交代と呼ぶものに焦点を当てた、大規模な国際テロキャンペーンの主たる結果だったのです。ミサイル危機の直後に、ケネディは国際テロキャンペーンに乗り出し、アチソンは国際法学会で、アメリカが、存在を脅かされていない場合でも、地位や特権への挑戦さえあれば、予防戦争を始める権利を持っていると主張したのです。
だが大局的にとらえれば、これはディーン・アチソンの発言であって、正式な政策発表ではありません。それにこの種の発言の最初のものでも最後のものでもありません。が、昨年9月の戦略は、その厚顔無恥さ加減に加え、単なる高官の発言ではなく、正式な政策発表であった点も類を見ません。
DB:平和行進で必ず耳にするスローガンに「石油のために血を流すな」というのがありますが、石油問題はしばしば、アメリカのイラク攻撃・占領の影の原動力だと言われています。石油はアメリカの戦略にとってどのような位置にあるのでしょうか?
NC:間違いなく中心にあります。まともな人なら誰もそのことを疑わないでしょう。湾岸は第2次大戦以来、世界の主なエネルギー産出地域です。あと1世代はそうあり続けて欲しいところです。戦略的力と物質的富の巨大な源泉です。そしてイラクはまさにその中心なのです。原油埋蔵量世界第2位、しかも掘削しやすく安価です。イラクを手中に入れることは、原油価格と生産量を高すぎず低すぎないレベルに決定し、OPECの土台を揺るがせ、世界に国力を誇示できる非常に有力な地位を占めることになります。これは第2次世界大戦以来の真実です。石油へのアクセスとは特に関係ありません。実はアメリカには、石油にアクセスしようという意図はないのです。意図しているのは支配です。これが背景にあったのです。もしイラクという国が中央アフリカにあったならば、今回のテストケースには選ばれなかったでしょう。背景にはたしかにこういうことがあるのです。中央アジアのように重要度の低い地域にもあるように。しかし、このことは今回の開戦時期の説明にはなりません。これは前々からの思惑だったからです。
DB:1945年の国務省文書には中東の石油は「並はずれた戦略的力の源泉であり、世界史上最大の物質的富である」と書かれています。アメリカは原油の15%をベネズエラから輸入しています。コロンビアとナイジェリアからも輸入しています。この3国はおそらく、ワシントンから見れば、現在問題があると考えられます。ベネズエラのウゴ・チャベス、コロンビアでの激しい内戦、ナイジェリアでの暴動が、石油供給を脅かしています。こういった要素についてどうお考えですか?
NC:非常に的を射ています。この3国はアメリカが実際にアクセスしようと意図している地域です。中東は支配したい地域です。しかし、少なくとも情報機関の予測によれば、アメリカはより安定した大西洋沿岸地域に重点を置きたいようです。大西洋沿岸地域とは、西アフリカと西半球で、難しい中東よりもより全体を支配下においています。だから予測は、中東を支配下におきながらも、大西洋沿岸地域、先ほど挙がった3国を含めた国々へのアクセスを維持するという内容です。そうすれば、この地域で足並みが揃わず何らかの形で混乱が生じた場合、重大な脅威となり、ペンタゴンの文民立案者の思惑通りにことが進めば、イラクの第2弾となる可能性が大いにあります。そして戦闘なしに容易に勝利を収め、民主的と呼ぶ新政権を確立し、大した混乱がなければ、これ幸いと次なるステップへと進むことになるでしょう。
次のステップは、さまざまな可能性が考えられます。その一つがアンデス山脈地域です。現在この地域のあちこちにアメリカ軍の基地があります。兵力があるのです。コロンビアとベネズエラ両国は、特にベネズエラは主要な産油国で、ほかにもエクアドルやブラジルにも石油があります。そうです。一度いわゆる「規範」が確立され、容認されれば、予防戦争キャンペーンの次のステップはこの地域でしょう。もうひとつの可能性として、イランがあります。
DB:やはりイランですね。アメリカはほかでもないあのブッシュ氏が「平和の人」と呼ぶシャロン首相に、イラクが「片づいたら」イランを追えとアドバイスされましたが、イランはどうですか?言わずとしれた「悪の枢軸」国家で、しかも石油が豊富ですが。
NC:イスラエルに関する限り、イラクは大した問題ではなかったのです。楽に戦える相手だと思っています。しかしイランとなると話が別です。イランの軍事力、経済力は強大です。何年もの間、イスラエルはアメリカがイランと対戦するよう圧力をかけてきました。イランは大きすぎてイスラエルには攻撃できないから、兄貴分にやってもらいたがっているのです。既に戦争が水面下で起こっているということも大いにあり得えます。一年前、イスラエルの空軍の1割以上がトルコ東部に駐留すると伝えられました。トルコ東部にはアメリカの巨大な軍事基地があります。そしてイラン国境付近を偵察飛行していると伝えられています。加えて、信頼できる筋からの報道によると、アメリカとトルコとイスラエルが共同で、イラン人の一部をアゼルバイジャン勢力と結託させるために、イラン北部のアゼリー人民族主義者軍の攪乱を試みているということです。ここにはイランに対抗するアメリカ−トルコ−イスラエルの枢軸軍があり、最終的にはおそらく、イランを分裂させ軍事攻撃を行うことになるでしょう。軍事攻撃が行われるのはイランが基本的に無防備であることが明らかになった場合に限りますが。彼らは反撃できるような相手を侵略したりしないのです。
DB:アメリカ軍がトルコや中央アジアの基地に加えて、アフガニスタンとイラクに駐留している現在、イランは文字通り四面楚歌の状態です。こうした客観的状況ではイラン国内に自衛のための核兵器開発を、もし彼らがまだ持っていないとすれば、進めることになりませんか?
NC:大いにあり得る話です。ちょっとした証拠を入手しているのですが、内容は重大です。1981年のイスラエルによるオシラク原子炉爆撃がおそらく、イラクの核兵器開発計画のきっかけとなり、推進することになったと思われます。イラクは核プラントを建設してはいましたが、内部は誰にもわかりません。爆撃のあと、ハーバード大学の有名な物理学者が土壌を調査しました。確か当時、ハーバードの物理学部長だった人です。彼は分析結果を最新の科学雑誌ネイチャーに掲載しました。分析によるとやはり発電所だったのです。彼はこの方面の専門家でしたから。またほかの情報源である亡命者によると、大したことは行われていなかったと証言しています。誰にも証明はできませんが。核兵器というアイデアをもてあそんでいただけかもしれないのに、そこを爆撃されたことが核兵器計画のきっかけになったと言っています。証明できませんが、証拠からはそう考えられます。非常に妥当な話です。真実でなくてもいいのです。あなたが言ったことは大いにあり得る話です。もしあなたが「やい、お前の国を攻撃するぞ」と言うとします。相手が通常兵器による防衛力を持っ
いないことを知っていれば、事実上、相手に大量破壊兵器を開発しテロを組織する
う命令していることになります。目には見えません。まさにこういう理由から、CIAやほかの誰もが予言したのです。
DB:イラク戦争と占領がパレスチナにとって意味するのは何でしょうか?
NC:大惨事です。
DB:平和へのロードマップはないのですか?
NC:読むのはおもしろい。ジャーナリズムのルールの1つに、こういうのがあります。どのようにこのルールが確立されたかはっきりとは知らないのですが、絶対的な一貫性を持って守られているルールです。そのルールとは、ジョージ・ブッシュの名前を記事に出すときは、見出しは彼のビジョンを語り、記事は彼の夢について語るものでなければならない、というものです。そのすぐ横には、遠くを見つめる彼の写真も入ることでしょう。ブッシュの夢とビジョンの1つは、いつかどこかに、どこでもいい、もしかしたら砂漠の中に、パレスチナ国家を建設することです。国民はこれをすばらしいビジョンとして崇拝し賞賛することになっています。これがジャーナリストの慣習となっているのです。3月21日のウォールストリートジャーナルの一面記事には、「ビジョン」と「夢」という言葉が約10回登場しました。
そのビジョンと夢は、ほとんど例外なく世界中の他の国々が、何らかの実現可能な政治的解決をもたらそうと長期にわたって積み重ねてきた努力をすべて無駄にするのをアメリカがたぶんやめるだろうというものです。現在までの過去25〜30年の間、アメリカは常に妨害してきました。ブッシュ政権は単なる妨害だけですませなませんでした。時にはかなり極端なやり方に走ったため、報道さえされなかったほどです。
たとえば、昨年12月、国連でブッシュ政権は初めて対イスラエル政策を転換させました。現在までアメリカは、少なくとも原則的には東エルサレムの併合及び占領・入植政策を無効にするようイスラエルに命ずる1968年の国連安全保障理事会の決議案に従っているはずだったのです。それを昨年12月にブッシュ政権が転換させてしまいました。意義深い政治的解決への可能性を無に帰そうとしたケースの1つと言えます。これを偽るためにビジョンと呼ばれ、これを追求する努力がアメリカの主導権と呼ばれています。実際には、歴史にほんの少しでも注意を払う人なら誰でもわかるように、ヨーロッパとアラブの長年の努力に追いつき、彼らの存在意義をおとしめるために切り捨てようとしているのです。アメリカ国内でシャロンを偉大な政治家として賞賛する声が高いのは面白い現象です。彼は実のところ、過去50年にわたる世界のテロリスト指揮者の一人なのですが。この現象はプロパガンダの大成功を示しています。シャロンを祭り上げるような作り話全体がプロパガンダのたまものです。き
わめて危険ですね。
3月中旬にブッシュは初の中東、つまりアラブ・イスラエル問題に関する重大発言と呼ばれるものを行いました。彼の演説は大きな見出しで報道されました。在任以来初の重大発言だったのです。読めばわかるでしょうが陳腐な内容でした。ただし1文を除いては。その1文をよく見れば、彼のロードマップが見えてきます。「和平プロセスの進展に伴い、イスラエルは新入植計画を終了するものとする」。これは何を意味するのでしょうか?これはつまり、和平プロセスがブッシュの認める地点に到達するまでは、つまりいつとは言えない遠い将来のある時まで、イスラエルは入植しつづけることを意味しています。これは政策転換です。アメリカは現在まで、少なくとも公式には、政治的解決を不可能にする不法な入植計画の拡大に反対してきました。しかしブッシュは今、このまま入植を続けろ、と逆のことを言っています。そして和平プロセスがある一定のラインに達するまで、我々がその資金を払い続けることになるのです。そう、これはさらなる侵略と国際法の無視と平和への可能性を無にする行為に向かう重大な転換です。演説でこう言っていたわけではないが、言葉遣いをよく見てください。
DB:イラク戦争に抗議反対する市民のレベルをあなたは「前例がない」と表現されました。開戦前にこれだけの反対があったことはかつてありません。あの反対運動はどこへ向かうのでしょうか?
NC:人のすることを予言することはできません。反対運動は、人々が思う方向へ向かうでしょう。たくさんの可能性があります。より激しくなるかもしれません。目標がさらに大きく、中身が濃くなっています。その1方で、より困難にもなっています。なぜなら、この攻撃は帝国の野望計画の単なる一面であって、次にどんな面が現れてくるかわかりません。そんな先の長い野望計画への反対運動よりも、軍事攻撃への反対運動の方が、心理的に楽だからです。より深く考え、もっと時間と精力を傾け、長期間にわたって活動することが必要になってきます。よし、長期的にこれに関わっていこう、とするか、よし、明日デモに行って家に帰ろう、とするか、決心の違いです。どちらを選ぶかです。市民権運動にしても女性運動にしても同じことです。
DB:移民や市民の一斉検挙など、戦争反対者に対するアメリカ国内での圧力と脅迫についてお話しいただけますか?
NC:移民など、弱い立場にいる人々のことは確かに気にかけなくてはなりません。現政権はどんな前例をも越える権利を主張しています。戦時には多少あることですが見苦しいものです。1942年の日系人一斉検挙や、第1次世界大戦中のウィルソンの行いなどは、ひどいものでした。しかし今現政権が主張しているのはまったく前例のない権利です。何の罪もない市民を逮捕し、家族や弁護士にも会わせないで無期限に勾留するというのです。移民など弱い立場の人たちは気をつけた方がいいでしょう。一方、私やあなたのように特権を持つ市民にも脅威はありますが、世界のほとんどの地域で人々が直面している脅威に比べればかすり傷のようなものであって、いちいち目くじらを立てるのは困難です。私は2度目のトルコ行きとコロンビアから戻ったばかりですが、両国で人々が直面している脅威に比べたら、我々は天国にいるようなものです。それに彼らは悩んでいません。いや、明らかに悩んではいるのですが、それをさらりと受け流しているのです。
DB:ヨーロッパと東アジアはアメリカに対抗する勢力として頭角を現しつつあるとお考えですか?
NC:確かにそうです。ヨーロッパとアジアが北アメリカにほぼ匹敵する経済勢力であり、固有の利害を持っていることは疑問の余地がありません。それは単にアメリカの命令に従うだけではありません。互いに強く関係し合っています。ですからたとえば、ヨーロッパとアメリカとアジアの大部分にある法人部門は共通の利害を持っています。しかしその一方で、別々の利害もあり、そのことが特にヨーロッパにとって、歴史をさかのぼる問題となるのです。アメリカは常にヨーロッパに対して曖昧な立場をとってきました。アメリカ企業にとって効率のよい巨大な市場となるため、ヨーロッパの連合を望む一方で、ヨーロッパが独自の進路をとるのではないかと常に気をもんできました。東欧諸国のEU加盟に関する多くの問題は、このことと関係があります。アメリカは加盟に強く賛成しています。なぜならこれら東欧諸国がよりアメリカの影響を受けやすくなり、ヨーロッパの核であるフランスとドイツという、独自路線を歩みかねない工業大国の土台を根底から揺るがすことができるだろうという思惑があるからです。またこの背景にはアメリカが、高賃金・好条件で恩恵の多いヨーロッパ市場システムをずっと嫌悪してきたといういきさつがあります。これはアメリカのシステムとは非常に異なっています。ヨーロッパのシステムは危険なので存続してほしくないと考えています。人々が変な考えを持つというのです。東欧諸国がEUに加盟すれば、低賃金で肉体労働に従事させられるため、西ヨーロッパの社会基準や労働基準を揺るがすことになり、それがアメリカにとって大きな利益になる、と明言しています。
DB:アメリカ経済は悪化を続け解雇が増えていますが、ブッシュ政権はどのような方策で、多くの国と常に戦争しそれを占領するいわゆる「軍事国家」を維持していくつもりなのでしょうか?どうやって持ちこたえていくつもりなのでしょうか?
NC:あと6年は持ちこたえなければなりません。6年後までには、制度化した非常に反動的なプログラムがアメリカ国内にできあがっているはずだと見込んでいるからです。経済は巨額の赤字を抱えた非常に深刻な状態に保たれているでしょう。1980年代にやったこととほぼ同じです。その間に社会改革を進め、決定権を一般市民から一定の個人の手に移すことで、彼らの嫌う民主主義を消滅させてしまうでしょう。そこに至る手口はあまりに巧妙で見分けがつかないはずです。つらく困難な遺産は内部に残すことになります。これは国民の大多数にとっての問題です。彼らが気にかけている人々は、無法者のようにうまくやることでしょう。レーガン時代と非常に似ています。そもそも同じ人たちなのですから。国際的には、武力と予防戦争を選択肢にすることで、帝国支配のドクトリンを制度化するでしょう。現在アメリカの軍事費はおそらく、世界中の国家の軍事費を合計したよりも多く、さらに高度化し、宇宙空間など、非常に危険な方向へ向かっています。彼らはアメリカ経済に何が起ころうとも、強大な軍事力をかさに人々を思い通りに動かせるだろうと考えているように、私には思われます。
DB:イラク侵攻を防ごうと長期間にわたって活動してきた平和運動家達は今怒りと悲しみを感じています。彼らにどんな言葉をかけますか?
NC:現実的になりなさい。奴隷廃止論者達のことを思ってみなさい。進歩が見られるまでにどれだけの期間戦いを続けたでしょう?欲しいものがすぐに手に入らないと言ってそのたびにあきらめていたら、最悪のことが起こると保証することになるだけです。長く激しい戦いです。実際、この2ヶ月間に起こったことは、いたって前向きに考えなければなりません。平和と正義を求める運動は今後さらに困難な任務を担っていくことでしょう。その拡大と発展のための基盤は既にできているのです。こういった運動はこのように進んでいくものです。容易ではありません。
(翻訳 乾 真由美/TUP)