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スクープ
Al Qaeda's Summer Plans
アルカイダが仕掛けるテロの夏
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今後1〜3カ月以内に
米本土へのテロ攻撃が起こる?
情報当局の内部文書やテロリストの
交信から真の危険度を探った
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マイケル・イジコフ、ダニエル・クレードマン
エバン・トーマス(ワシントン)
「アルサハ・ドット・コム」は、アラブ首長国連邦のアブダビで運営されているウェブサイト。「妻求む」の広告があり、スポーツ談議からジハード(聖戦)の意味に関する議論まで、雑多なメッセージが掲出されている。
だが9.11テロ以降、CIA(Central Intelligence Agency:米中央情報局)とFBI(Federal Bureau of Investigation:米連邦捜査局)はこのサイトを「テロ攻撃の予告版」として監視し続けている。2001年9月9日付のメッセージに、2日以内にサウジアラビアのアシール地方から「世界を驚かせる事件」が起きると書かれていたからだ。アシールは、9.11テロのハイジャック実行犯の多くを生んだ土地である。
先週、本誌が知りえたところによれば、米情報当局はアルサハのサイトで再び暗号めいたメモを見つけていた。「今後48時間以内に、さらなる攻撃が行われる。ニューヨークやボストンなど、海沿いの都市に住む善良なイスラム教徒は退避せよ」
これは潜伏中の末端組織に行動を促す合図なのか。それとも、アメリカ北東部に再び大惨事が起きるという予告なのか。
答えは、テロ対策の専門家たちにもわからない。CIAもFBIも、具体的な攻撃に関する情報を得ているわけではない。偽情報でパニックを起こそうというテロリスト側の作戦かもしれない。
しかし、テロリストたちの交信が増えているのは確かだ。世界中に散らばったアルカイダの工作員たちは、どうやら何か大きなことをたくらんでいるようだ。
ジョージ・W・ブッシュ米大統領には毎朝、テロの最新情報が伝えられる。あいまいなものもあれば、深夜の火災警報並みに差し迫ったものもある。
5月21日には、かなりけたたましい警報が鳴った。カタールの衛星テレビ局アルジャジーラが、アイマン・アル・ザワヒリ(ウサマ・ビンラディンの側近でアルカイダの頭脳とされる)のものとされる録音メッセージを流したのだ。
どこかの洞窟に潜んでいるらしいザワヒリの声明は、いつにもまして不気味だった。「十字軍兵士(アメリカ人)とユダヤ教徒には力の言語しか通じない。彼らには、いま一度棺おけを、権益の破壊を、高層ビルの炎上を、経済の破壊を見せてやるしかない」と、ザワヒリは「親愛なるイスラム教徒」に呼びかけた。「われらがイスラム戦士は敵を追いかけ、待ち伏せしている。あなた方の心の傷を癒やす朗報が来る日も近い」
「朗報」とは何か。背水の陣を敷くCIAとFBIは、対テロ戦争が新たな、より危険な段階に入ったと警告。複数の情報当局筋によれば、ある内部文書は「春から夏にかけて、世界規模の計画的な攻撃」を予告し、「1〜3カ月以内に米本土へのテロ攻撃が仕掛けられる可能性が高い」としている。拘束されたテロ容疑者らの供述によれば、地下鉄が標的になる可能性もあるという。
とりわけ懸念されるのが、「カナダ・コネクション」だ。
サウジアラビアで自爆テロを実行したグループのリーダー格であるアブドゥル・ラーマン・ジャバラは、カナダのパスポートを持っていた。また本誌が入手した英情報当局の文書には、2000年にカナダから密入国してロサンゼルス空港を爆破しようとした集団が、今も生きているとある。
サウジとモロッコの自爆テロでは、欧米の人間よりイスラム教徒のほうが多く犠牲になったと不満をもらすアルカイダ同調者の声も、米当局は傍受している。これに対して、アルカイダ幹部は「心配するな。いずれ逆転させてみせる」と答えていたという。
テロ警報は選挙戦略?
こうした状況を受けて、米政府は国内のテロ警戒水準を、上から2番目の「オレンジ」に引き上げた。捜査当局高官によれば、現状は「9.11直前の状況と不気味なくらい似ている」。
ブッシュ政権が警戒水準を上から3番目の「黄色」から「オレンジ」に引き上げたのは、この1年で4度目だ。2月のときは、生物・化学兵器テロにそなえて窓を目張りする粘着テープを用意しようという情報も飛び交った。
その後は、パキスタンでアルカイダの大物幹部が逮捕されたり、イラク戦争が早めに終わるなど、心強いニュースが続いた。ブッシュ大統領は意気揚々として空母のデッキに軍服姿で立ち、アルカイダは敗走したと宣言したものだ。
なのに、今またテロリストたちが墓場からよみがえったという。度重なる警告にうんざりしている国民は、素直には信じたがらない。警戒水準を引き上げたのは、何か起きた場合に政策責任者が自己弁護するための方便ではないか。テロリストはまだ健在だと有権者に言い聞かせることで、脅威に立ち向かう強い大統領の必要性を強調したいためではないのか。
完全な勝利は見込めない
だが、油断は禁物だ。実際のところ、アメリカは静かな、そして汚い戦争を続けているし、この先もずっと続けていくしかない。
この戦いの武器は、スパイ衛星やハイテク盗聴器、暗号解読用コンピュータ。そして絶えざる警戒体制と、関係各部局の密接な協調(9.11テロ以前はここに大きな問題があった)であり、外国の情報機関を味方につけるために大量にばらまく資金だ(こうした「ヤミ」予算は、過去2年間で1.5倍に増えたといわれている)。
当然、なかなか成果はあがらない。アルカイダはウイルスのように突然変異を繰り返している、と言うのは国務省高官のリチャード・ハース。「疫病と戦うようなものだ。恒久的もしくは完全な勝利はめったに期待できない」
バージニア州ラングリーにあるCIA本部。その奥に新設されたテロ脅威統合センターでは、アナリストたちが緊迫した表情でコンピュータ画面を見つめ、点と点を結ぼうとしている。
「勘と知識が要求される」と、情報当局高官は言う。知識より勘がものをいう場合もある。「断片的な情報ばかり。まさにパズルだ」
FBIやCIA、国務省、国防総省、そして新設の国土安全保障省(もともとが政府部内の関係各局の寄せ集めだ)から選抜されたアナリストたちは、たいてい「限界まで」働いている。今のアルカイダが「深手を負っている」のはまちがいないが、「手負いの野獣」ほど危険なものはない。
アナリストたちは、サウジの無差別自爆テロに衝撃を受けた。今までなら、サウジはアルカイダにとって人材や資金の調達場所であって、攻撃目標ではなかった。
アメリカ人8人を含む34人が犠牲になったテロの衝撃は、ときとして冷えぎみだった米サウジ関係を改善させる結果となった。サウジでは対アルカイダ強硬派と穏健派の間で議論が続いていたと、周辺国のある政府高官は言う。「リヤドでの自爆テロを受けて、強硬派の意見が勝った。全員が一致団結した」
かつて、サウジ国内にアルカイダはいないとし、9.11テロの責任は「ユダヤ人」にあると発言したナエフ・イブン・アブドルアジズ内相までが、CIAやFBIとの連携を強化。国内に潜伏中とされるアルカイダの「細胞」約五つ(各細胞に工作員12〜20人)の壊滅をめざしている。
サウジを敵に回したのは、アルカイダが自暴自棄になっている証拠だ。情報当局のある幹部が本誌に語ったところでは、「彼らは多くの幹部を失った。回復力を示す必要に迫られている」。
それには、アメリカ本土に再度テロ攻撃を仕掛けるのが最も効果的だ。それこそが彼らの望みであり、ねらいのようだが、今の彼らに9.11規模のテロを実行するだけの力があるだろうか。
組織というより「連合体」
アメリカがイラクに戦争を仕掛けて以来、アルカイダは「十字軍」への逆襲を誓うアラブの若者たちを調達しやすい状況にある。今のところ情報当局は証拠をつかんでいないが、アルカイダの工作員がサダム・フセインの兵器庫から、核物質や生物・化学兵器を持ち去った可能性もある。
もちろん、新人テロリストのなかには、いいかげんな連中もいる。イギリスの情報当局によれば、モロッコの連続自爆テロでは、標的をまちがえた男もいたらしい。
先週、サウジのジッダ空港で、モロッコ人3人が国際線の搭乗手続きをした。うち一人がテロ容疑者の手配リストに載っていたため、係官が残る2人に連れかと尋ねると、一人は否定したが、もう一人が認め、3人は逮捕された。ナイフを所持しており、ハイジャックを計画していたとみられている。
アルカイダは統制された組織というより、緩やかな連合体に近い。モロッコの連続自爆テロの犯人たちも、アルカイダの資金提供を受けていたが、亜流にすぎない。テロ実行能力もまちまちだ。
各国の情報当局は、あるイスラム聖職者の影響力を見極めようとしている。ロンドン在住のアブ・カタダだ。彼は未遂も含めた数々のテロ事件において、精神面で大きな役割を果たしたと、ヨーロッパ各国の当局はみている。
本誌が入手したイギリスの資料によれば、90年代半ばには、彼のファトワ(宗教令)を受けて、アルジェリア系の武装イスラム集団(GIA)が女性や子供を虐殺。ヨルダン当局は、アメリカ人旅行者を狙った99年末の「ミレニアム・テロ」計画への関与を疑っている。
2000年と2001年のフランスのストラスブールとパリでのテロ計画にも、「精神的助言」を与えたとされる。9.11テロ実行犯のリーダー格とされるモハメド・アタがドイツのハンブルクで住んでいたアパートからは、彼の説教を収めたテープ18本が発見されている。
すでに工作員は国内に
カタダのような男がいるかぎり、アルカイダの下部組織をつぶすのはむずかしい。
昨年10月以来、カタダはイギリスの刑務所に収監されている。本人はテロとのかかわりを否定しているが、イギリスの捜査当局によれば、彼はなんらかの方法でヨーロッパ各国に潜む工作員に指示を出し、毒薬リシンを使ったテロ攻撃の実行を命じている。すでにイギリス、フランス、スペインで合計数十人の工作員が逮捕されているが、まだ捕まっていない容疑者もいるという。
アメリカの情報当局は、アルカイダの幹部数人がイランに潜伏しているとみている。ただし、イランがアルカイダにとって快適な隠れ家なのか牢獄に近い場所なのかは、意見の分かれるところだ。
CIAは、アルカイダ幹部でエジプト人のサイフ・アル・アデルがイランで監禁されていると判断している。しかし国防総省のタカ派の間では、イランのイスラム過激派がアデルを(そしてビンラディンの息子サアドらを)支援していると考えられている。
イランはともかく、アルカイダにとってアメリカ本土の居心地はどうなのか。捜査当局の幹部によれば「確かなのは、彼らが国内にいるということだけ」だ。
9.11テロ以降も、アルカイダはアメリカ本土に潜入する方法を慎重に探ってきた。米軍が爆撃したアフガニスタンの洞窟で、米国内のインフラの弱点を詳細に検討した米会計検査院の報告書が発見されたこともある。
スパイや自爆テロリストを送り込む方法も、だいぶ工夫しているらしい。新たな人材供給源として彼らが目をつけたのは、カナダ国籍者や女性、アフリカ系アメリカ人など。もちろん、どの国の要注意人物リストにも載っていない「きれいな」パスポートを持つアラブ人も探している。
アメリカには毎年100万人が合法的に移住し、4200万人が入国する。このなかからテロ組織の工作員を探し出すのは困難な仕事だ。なかでも米情報当局が憂慮しているのは、アブドゥル・ラーマン・ジャバラのようなテロリストの存在だ。
サウジの自爆テロ実行犯のリーダー格とされるジャバラは、すでに逮捕されているハリド・シェイク・モハメドを師と仰いでいた。昨年、オマーンで捕まったジャバラの弟モハメドは、取り調べの中で兄とともにアルカイダの実行部隊に入った経緯を明かしている。
兄弟は成功したビジネスマンを父にもち、カナダで教育を受け、アフガニスタンのテロリスト養成施設で訓練を受けた。モハメドはビンラディンの付き人になった。本誌が入手した情報当局の報告書によれば、「(ジャバラは)自分は英語が上手で、カナダのパスポートを持っているとビンラディンに上申していた」。
聖戦は「終わりなき戦い」
捜査当局は、すでにアメリカ本土に潜伏するアルカイダ兵数人を特定している。本誌が得た情報によれば、ハリド・シェイク・モハメドは尋問中に、オハイオ州在住のトラック運転手の名をあげた。この運転手は逮捕されると協力的になり、捜査の突破口が開けた。男は橋の破壊と旅客機の爆破計画に関与していたとされる。
FBIとCIAはこれまでにないほど緊密な協調体制を取り、9.11以前よりはるかに効果的にテロの脅威に対応している。
逮捕されたアルカイダ幹部の多くは貴重な情報源となった。取り調べ中に仲間の身元やテロ計画の詳細を語った。テロリストは真実に嘘を混ぜることが多く、こうした情報をうのみにはできない。だが、データベースを作るための膨大な情報を手にしたことは確かだ。
国外からの助力も大きい。莫大な金をばらまいたおかげで、アラブ諸国の情報機関や密告者は米情報機関に積極的に協力するようになった。昨年秋、ドイツとフランスが国連でアメリカと対立していたときも、両国の治安機関は米情報当局と協力を続けた。ヨーロッパにとっても、アルカイダの脅威は他人事ではないからだ。
テロとの戦争では善玉と悪玉の判別がむずかしい。アルカイダはあちこちに協力者やスパイを潜り込ませている。
今年4月、イエメンで多くのアルカイダ幹部や工作員が脱獄するという事件があった。サウジアラビアでは警察のミスで、アルカイダのメンバーとみられる19人を取り逃がしてしまった。その1週間後に連続爆破テロが起こった。誰かが彼らに捜査情報をもらしたのかもしれない。
テロとの戦いに明確なルールはない。時間もかかる。「テロリストの時間の感覚は、われわれとは違う」と、ある情報当局者は言う。「彼らは十字軍の時代に生きている。彼らにとって、聖戦は終わりなき戦いなのだ」
内部文書は「計画的なテロ」の可能性を予測
CIAとFBIは対テロ戦争はより危険な段階に入ったと警告
「春から夏にかけて世界規模の計画的なテロが行われる」
「1〜3カ月以内に米本土が攻撃される可能性が高い」
と、ある内部文書には記されているという
インターネットにテロの「予告メッセージ」
同時多発テロ以来CIAとFBIが監視を続けているサイトに
先週、新たなメッセージが書き込まれているのが発見された
「同胞よ、今後48時間以内にさらなる攻撃が行われる」
「ニューヨークなど沿岸部に住むイスラム教徒は退避せよ」
米当局が傍受したテロリストの交信
サウジアラビアとモロッコで起きた自爆テロでは
欧米人よりイスラム教徒が多く犠牲になった――
そんな不満の声に、アルカイダ幹部はこう答えていた
「心配するな、いずれ逆転させてみせる」
ニューズウィーク日本版
2003年6月4日号 P.22