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6月6日付・一日一言
2003年6月6日09:13
「奴隷の平和は選ばない」という小泉首相の言葉を聞きながら、二千年も前から続く果てしない論争を思い起こした。「悪い平和と良い戦争」なら、日本は良い戦争を選ぶのか。
参院の有事法制特別委員会は昨日で総括質疑を終了し、予定通りなら今日の昼に有事関連法案は成立する。後世の歴史家たちは「六月六日」を戦後日本の平和観が変わった日と見るかもしれない。
小泉首相が口にした勇ましいフレーズを昭和十六年十二月八日の太平洋戦争開戦の日にそのまま口にしたのは、後に日本を代表する評論家となる亀井勝一郎である。彼はその開戦を「奴隷の平和より戦争を!」と喜んだ。
亀井は当時弾圧を受けた共産主義からの転向者だったが、特殊な例ではない。フランス文学の大御所で東大教授だった辰野隆も「あの朝、感じたことは一言でザマアーミロです」といい、日本は反米思想で覆われていた。
本来からいえば、隷属より自由な死を望むことこそロマンチックな選択のはずだが、現代日本の指導者はまったく正反対に「戦争放棄」を宣言した平和憲法こそロマンスだという。ロマンスとは空想という意味である。
六十二年前のその朝に多くの日本人が確信した「現実的判断」が、実は世間知らずのロマンチックな思い込みだったことを、四年後の夏のキノコ雲によって日本人は思い知らされ、米国に隷属する平和を受け入れてきた。
紀元前一世紀のローマの哲学者キケロは「正しい戦争より悪しき平和を望む」といい、その百数十年後の歴史家タキツスは「悪しき平和は戦争より悪い」と反論した。日本はいま戦争と平和の真ん中にいる。