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鹿児島県の最南端に位置する与論島で、海の恵みを生かした取り組みが、静かに進んでいる。「タラソテラピー(海洋療法)」と呼ばれる自然療法。観光客の減少に悩む南海の小島は、癒やしブームの中、“切り札”として期待をかけている。
◆心も体もリラックス
海水のプールで水中運動に励む患者たち
「ワン、ツー、ワン、ツー」。インストラクターの掛け声が、プールサイドに響く。与論町茶花地区にあるホテル。海水をたたえたプールで「アクアエクササイズ」(水中運動)に励むのは、肥満やぜんそく、アトピーなどを抱えた患者たちだ。
傍らで、この健康教室を主催する古川誠二医師(54)が優しく語りかける。「海水は、実は羊水と同じ成分。だから、つかれば、無意識のうちにリラックスできるのです」
タラソテラピーは、海水や海藻などの海洋環境を活用し、人が本来備えている治癒力を高める自然療法の1つ。海水中で行うウオーキングや海藻パック、マッサージなど様々で、外傷や皮膚病はもちろん、免疫異常、神経症などにも効果があるとされている。
10年ほど前、この療法を島に持ち込んだ古川医師は、久留米大医学部に在学中から離島・へき地医療を志し、1988年から3年間、与論町立診療所長を務めた。その後、「骨をうずめる覚悟」で、診療所を開設。95年には、農家や陶芸家、ホテル関係者に協力を呼びかけ、「与論健康村」を設立した。
露天ぶろの効用を語る古川医師(右)
患者向けに安価な宿とバランスのとれた食事を提供し、ときには陶芸にいそしんでもらう。「ミネラルなどを潤沢に含んだエアゾール(海塩粒子)を吸いながら、海辺を散策し、波の音に耳を傾ける。それだけで、心を癒やす効果が期待できる」と古川医師。
1週間から数か月、患者は診療所に通いながら療養生活を送り、多くが元気を取り戻して帰っていくという。
◆民間主導の試みを町が後押し
この取り組みは、行政にも大きな刺激となった。
与論島はマリンスポーツの名所として知られ、70年代後半のピーク時には年間約15万人の観光客でにぎわった。しかし、海外志向の高まりもあって、ここ数年は半数以下の約7万人にまで激減している。
町は1昨年度にスタートした「総合振興10か年計画」の中で、タラソテラピーを軸にした「ゆんぬ(与論)ふれあい交流プラン」を戦略プロジェクトの1つに掲げ、民間主導の試みを後押しする体制を整えた。
町企画調整課の沖野一雄係長は、「ハコものをつくる財政的な余裕はありません。しかし、情報や技術の収集、普及などソフト面で支援し、将来的には『医療観光』とでも言えるようなスタイルを確立したい」と意気込む。
世は「癒やし」の時代。その象徴ともいえるタラソテラピーに着目した動きは、全国に広がりつつある。
しかし、古川医師に焦りは見られない。いずれも「ハコもの先行」で、島全体を実践の場と位置づける与論のようなケースは見あたらない、というのがその理由だ。
「東京のど真ん中で『自然治癒力』を説いたところで、何の説得力もないでしょう。与論で語るから、患者さんの心にしみ入るものがある」
この言葉には、過疎、高齢化に頭を悩ませる離島・へき地の「あるべき姿」を考えるヒントが凝縮されているようにも思う。(文・写真 秋吉直美)
与論島 サンゴ礁に囲まれた山や川のない低平な地形が特徴の島で、外周約22キロ。美しい自然を生かした観光業のほか、サトウキビや花き園芸、肉用牛などの農畜産業が主産業。人口約6000人。
http://kyushu.yomiuri.co.jp/spe-3/rupo03/rupo030618.htm
●必死で考え、行動する地域にパイオニアがいます。