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http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news_i/20030814so14.htm
社会の高齢化で増え続けると予想されるがん。日本でも本格的ながん予防への取り組みが始まる。編集委員 平山 定夫
◆禁煙、薬研究など柱に総合戦略
がん予防といえば予防薬が夢だが、米国では２種類のがん予防薬が認可されている。いずれも一般の人が飲むわけではない。大腸がんならポリープができやすいなど、様々な背景から、がんになる危険性が高い人が対象である。
乳がんの治療、予防の両方に使われるタモキシフェンは、乳がん発生を半分近くに抑える。子宮がんが増えるなど副作用もあるが、乳がんの危険性の方がずっと高ければメリットはある。家族性大腸がん予防のセレコキシブでは、がんにつながるポリープの発生が３０％近く減るという。
もちろん、予防薬だけが、がんの予防法ではない。富永祐民・愛知県がんセンター前総長の推計によると、日本のがん患者とがん死亡者を合わせ、３分の１以上が予防可能という。喫煙率の半減、肝炎ウイルスなど感染症対策、塩分・動物性脂肪の摂取量を減らすなど１次予防（がんにならない）で２５％、主ながんの検診受診率を３０％に上げるなど２次予防（早期発見）で１０％程度は減る計算だ。
１人１人の自覚、努力も大事だということだが、がん予防薬など新しい予防方法が加われば、効果はさらに大きなものになる。
日本でも、予防に本格的に取り組む機運が盛り上がってきた。来年度から始まる「第３次対がん１０か年総合戦略」（厚生労働省、文部科学省）の目標は「がんの罹患（りかん）率と死亡率の激減を目指して」。あまり重視されてこなかった予防を強く打ち出している。
１９８４年に始まった対がん１０か年総合戦略、次のがん克服新１０か年戦略は、どちらかといえば基礎研究が中心。がんの正体解明が進み、診断・治療技術の開発でも成果はあった。しかし、年間約３０万人ががんで死亡、１０年後には４０万人と推定される。がんは依然、難敵のままである。
今回の総合戦略をまとめた有識者会議の杉村隆座長（国立がんセンター名誉総長）は「がんは遺伝子の異常だとわかったが、関係する遺伝子が３００種類も見つかってきた。がんになる遺伝子異常の組み合わせは無数になる」という。
同じ部位のがんでも人により違うとなれば、治癒率の向上にも限界はある。がんの基礎研究から、がんの複雑さ、予防の重要性が浮かび上がってきたともいえる。
総合戦略で一段と力を入れるのは喫煙対策。「これがすべての予防の出発点。禁煙をがん予防１２か条のトップに持っていく」と垣添忠生・国立がんセンター総長。今の１２か条では「脂肪は控えめに」などの後の４番目。効果的な禁煙方法の開発も計画している。
予防薬では解熱鎮痛薬アスピリンが第１候補になりそうだ。予防の詳しい仕組みは不明だが、欧米では、大腸、肺、すい臓、乳がんなどへの効果が報告されている。若林敬二・同センター研究所副所長は「アスピリンは安価で、副作用もわかっている。国内での比較試験で大腸ポリープの予防効果を調べたい」と話す。ただ、アスピリンは出血傾向を高める。勝手に長期服用するのは危険だ。
肝炎ウイルス（Ｂ、Ｃ型）と肝がん、ピロリ菌と胃がんなど、がんの原因になっている感染症への対策も柱の１つ。早期診断に役立つ画期的な診断マーカーの探索、がんになりやすさを遺伝子から調べる研究、食べ物や環境中の発がん物質の危険度評価など、多彩な研究も盛り込まれている。
１人１人の予防の心がけ、画期的な予防技術の開発とともに、がん予防薬を保険で認めるなど、予防重視への行政の発想の転換も必要だ。三者が一体となれば、総合戦略の目標、１０年後のがん激減も決して不可能ではない。
(2003年8月14日 読売新聞 無断転載禁止)
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