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From : ビル・トッテン
Subject : EUを訴えた米の意図
Number : OW580
Date : 2003年6月27日
ヨーロッパとアメリカの間で、遺伝子組替作物に関する熱い討論が繰り広げられている。遺伝子組替作物を絶賛するアメリカに対しヨーロッパ諸国は、この遺伝子操作によって生まれた食品は本当に安全なのかどうか証拠を求めている。最近の討論でブッシュ大統領は、ヨーロッパ諸国が遺伝子組替作物に対し停止猶予(モラトリアム)を行うことは、アフリカでの飢餓問題を助長することだと発言した。しかしヨーロッパの評論家は、ブッシュ大統領の発言は世界的飢餓を解消するよりかはバイオ技術事業を推進するようなもの、と批判した。
(ビル・トッテン)
EUを訴えた米の意図
5月半ばにアメリカ政府は遺伝子組み換え食品の輸入規制を行った欧州連合(EU)を違法だとして世界貿易機関(WTO)に提訴した。遺伝子組み換え食品は世界の飢えた人々に栄養を与えて健康を改善し、土壌の侵食と農薬使用量を減らして環境を保護するもので、それを禁じることは世界の農民や消費者に大きな恩恵をもたらす技術を妨げる貿易障壁だと米高官は述べた。
さらにブッシュ大統領は、EUは非科学的で根拠のない恐怖心から組み換え作物を拒否し、アフリカ諸国が欧州市場から遮断されることを恐れてバイオテクノロジー(バイテク)への投資を避けることで結果的にアフリカの飢餓を増やしていると非難した。
事実、ザンビアやジンバブエなどはアメリカからの食糧援助を拒否している。なぜならその中に遺伝子組み換えのトウモロコシが含まれていたからで、トウモロコシは牛の飼料となり、その牛はアフリカの人々の口に入るのではなくヨーロッパへ輸出されるからだ。
しかしアメリカがEUを提訴した本当の理由はアフリカの飢餓ではなく、輸入規制が自国の経済にマイナスになるためである。飢餓は遺伝子組み換え作物で解決されるものではなく、余剰農作物がある国でも多くの栄養不良の子供たちが存在する。
耕作される作物の4分の1以上は人間ではなく家畜の飼料となり、その肉は先進国に輸出されるからだ。地球の貧困問題は遺伝子組み換えかどうかではなく、世界規模のアグリビジネス企業にコントロールされているために起きているともいえる。
遺伝子組み換え作物は開発したバイテク企業が特許を持っているために、農民は翌年まく種子をとっておくことができず、バイテク会社にその種子の特許料を支払ってからでないと翌年の作物を作ることができない。これによってバイテク企業が大きな利益を上げる仕組みになっている。
現在アメリカは世界の遺伝子組み換え作物の3分の2を生産している。このEUの規制によって、トウモロコシだけで年間約3億ドルの損失になるという。アメリカ政府は遺伝子組み換えにかかわるバイテク企業と大規模農家のためにWTOへの提訴を行ったに等しい。ファストフード中心のアメリカ人には理解できないかもしれないが、ヨーロッパでは食べるものを選ぶことは極めて大切なことであり、食と文化が深く結び付いている。
1990年代後半、遺伝子組み換えに対する消費者の不安が高まったため、オーストリアやフランス、イタリアなどでは既に認可されていた遺伝子組み換え作物を禁止した。また健康への不安だけでなく環境への影響に対する懸念も加わり、環境保護団体はEUの従来型農業と有機農業を汚染から守るためのキャンペーンも開始している。
今回ブッシュ政権がWTOに提訴したのは、強力なロビー団体アメリカ外国貿易協議会(NFTC)の圧力によるといわれる。アメリカ農務省はNFTCの報告書をホームページに掲載しているが、そこには遺伝子組み換え作物規制は偽装した貿易障壁であり、自国の産業を保護するために国家基準と規則を使っていると書かれている。
しかしアメリカ自身、その発展途上において貿易障壁を極めてうまく利用してきた。国内産業を保護するために1816年には大部分の輸入製品の税金を35%とし、1820年には40%、製品によっては50%もの高関税をかけてきた。1913年までアメリカの産業は高い輸入関税で保護され、国内産業を急成長させた。これは日本も同様で、先進国の仲間入りができたのも自由貿易ではなく保護主義による。韓国や台湾も、自国の産業の発展を脅かす海外製品を阻害する課税や法律を利用し、輸出の補助金を認めて成長を遂げてきた。
こうした輸入障壁は、どれも現在WTOやIMFが禁止している事柄である。アフリカのような途上国はこのために自由競争にさらされ、安い労働力と資源を先進国に提供する地位に甘んじ、余剰農産物があっても国民は飢えているという状況に置かれている。つまり問題は、世界のさまざまな規則や法律を先進国だけが決め、またアメリカのようにその規制を自国の利益になるように利用しているからである。
遺伝子組み換えに話を戻すと日本は表示義務を定めているが、安全性はアメリカ食品医薬品局の基準にのっとって、それに準拠していれば安全と宣言している。つまり日本独自で遺伝子組み換え食品の第三者機関の臨床試験などは一切行わず、アメリカのメーカーが提出する書類の審査結果をうのみにするという現状である。
アメリカは世界最大の食糧輸出国で、フランスはじめEU諸国は食料自給率向上を国家戦略として掲げている。日本といえば自給率は40%を切り飼料用穀物を含めると20%台しかない。日本市場はアメリカにとってまさにドル箱である。
日本政府は遺伝子組み換え食品に限らず国家戦略として食糧政策を見直し、日本の技術を農業に生かして国家安全保障を確立すべきだ。さもなければ、遺伝子組み換え作物はいらないと、言いたくても言えない日が来ないとは限らない。
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著作:株式会社 アシスト 代表取締役 ビル・トッテン
発行/翻訳/編集:株式会社 アシスト
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