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平成15年6月4日
中国の「吐痰禁止条例」
前月コラムのフォローアップになる。あまり気持ちのいい話題ではないが、いのちに関わることでもあり、また文明の尺度としてみても重要、かつ珍しい現象なので再度取り上げることにする。
「Yomiuri Weekly」6月15日号の遠藤誉・筑波大学留学生センター教授の寄稿によると、センター施設のリノリューム敷きのきれいな床に痰を吐く学生がいるという。来日したばかりの中国人留学生だけがそういう行為をするのだそうだ。
また同教授が昨年、中国の一流ホテルのレストランで、立派な中年男性とたまたま同席した際、その人が食べる前に片鼻を押さえて大理石の床に「ビッ」と見事な手鼻をかんだので、即座に席を立ってレストランを出たという。
同教授は中国生まれで、半世紀前、天津で新中国の小学校に通ったことのある珍しい日本人だ。そのとき、なんと課外活動で「吐痰禁止運動」に参加させられたというから、以来50年の運動成果はなんだったのだろうか。
中国で新型肺炎が猛威を振るった5月中に、この悪習に関する記事が日本の主要新聞に現れたのはわずか2社4本だけだった。「もっとも先進的な上海ですら、歩道に使用済みマスクを捨てたり、たんや手鼻をまき散らす人は後を絶たない」(東京新聞、上海発、14日、写真付き)。「路上につばを吐いた11人がそれぞれ300シンガポールドル(約2万円)の罰金刑」(同、バンコク発、22日)。「中国各地で<中華伝統の悪習>である『たん吐き』を禁じる動きが広まっている」(読売、香港発、23日)。「伝統的悪習『たん吐き』禁止の動きが広がっている」(同、北京発、28日)。ほかに毎日が「香港で禁止条例」というニュースをネットで流したが、紙面には載せなかったようだ。
これらの記事と遠藤論文を総合すると、SARS流行を受けて、痰吐きに罰金を新設ないし厳しくした都市は9市と香港ということになる。「先進」の上海では84年からで、当初はわずか0.2元。それが次第に値上げされて、88年には10元、02年2月には「吐痰、戸外での大小便」に50元となった。それが現在、最高200元(2,800円)まで跳ね上がった上、車から外に向けての行為はさらに2倍になるという。
首都・北京でも吐痰禁止条例は82年に発布され、やはり今年5月からは最低50元、最高200元に値上げされている。ほかにゴミ捨てや野生動物の食用規制も打ち出しているが、限られた都市の政策だけというところに問題が潜んでいるのは確かであろう。膨大な農村地域に対しては、全く無力のように映る。
それにしても、日本のメディアはやはり中国に関しては遠慮(深謀?)が先に立つのだろうか? それともデスクが若すぎて「吐痰・手鼻」のイメージがもう湧かないのだろうか? 感染症との危険な関係に思いが至らないほど清潔な日本?
シンガポールでは従来から「つば吐き」は罰金というのが知られていたが、これは「Spit」の誤訳か遠慮訳(?)ではないかと思っていた。果たして上記東京新聞の写真では「DON'T SPIT」と大きくタテ書きになっている。英語だとどちらも「Spit」なのだが、意味するところは「吐痰禁止」なのだということを、中国人の習慣を知っていれば分かるはずだ。こんなところにも、日本のメディアの体質があらわれてしまうのだろう。
中国本土では急速に感染者が減ってきたというが、逆にトロントの感染者数はぶり返し、死者の数はシンガポールと並んできた。巨大な感染症輸出国となった中国がいつの日か衛生大国になる日が来るのか、それには何年、何十年かかるのか。何とも気の遠くなるような話といわざるを得ない。それにしても本当に日本では、また日本人の、感染者は一人も出ていないのだろうか? なぜ、どうして、、、?(03/06/04)
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/5562/yomu_kiru.html