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カネ余りの空虚なパーティー
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各国の低金利政策でだぶついた巨額の資本が
投資先を求めて飛び回り、世界のあちこちで謎のミニバブルが
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カレン・ラウリー・ミラー(ブリュッセル)
今の世界経済がかかえる最大の問題はカネ余りだ――モルガン・スタンレーのエコノミスト謝国忠(シエ・クオチョン)は先日、そう主張した。
謝の言葉は、IT(Information Technology:情報技術)バブル崩壊後の奇妙な現象を的確に表現している。2000年前半から始まった世界経済の後退では何兆ドルもの富が消えたが、一方ではそれより巨額の行き場を失った資金を生み出した。
主要先進国は軒並み長期不況に陥り、安全な運用先や有利な投資案件に事欠くようになった。
そこで投資家は米国株からまず債券に走り、続いて中国のIT株やチェコの不動産、果ては南アフリカの金鉱と、忙しく投資先を物色している。こうして、モルガン・スタンレーのスティーブン・ローチが言う「際限なきバブル」という構図が生まれた。
バブルが崩壊した後には、たいてい複数の「ミニバブル」が発生し、それが回復への糸口になることもある。だが、今回のサイクルはいつもと少し違う。前代未聞の流動資産量にもかかわらず、世界経済の回復は3回も失速した。欧米や日本の中央銀行は、極端な低金利政策で通貨供給量を増やし続けてきたが、景気回復に必要なだけの投資は呼び起こせていない。
大手投資銀行UBSによると、通貨供給量の伸び率は世界経済の成長率を大きく上回っており、その差は20年ぶりの高水準にある。だぶついた資金の多くは、さまざまな投資対象をはしごして各種の市場を次々と高騰させている。
リスキーな投機に向かう
バブルは、実際にはじけるまで、好況との見分けがつきにくい。企業の株価が、その企業の収益からは説明できない水準に達したとき、専門家はバブルの危険を警告しはじめる。
エール大学の経済学者ロバート・シラーは、米国株の株価収益率(PER:Price Earnings Ratio)の平均値はバブル時代からあまり変わっていないと指摘する。現在の米国株のPERは約40倍で、長期的な平均値の15倍を大幅に上回る。
低利の資金があふれているのに経済成長率が上向かないのは、ITバブルの後遺症があるからだ。FRB(Federal Reserve Board /Board of Governors of the Federal Reserve System:米連邦準備理事会)は世界経済の後退を懸念して、消費が過熱している最中も利上げを行わなかった。そしてその後は、景気刺激策として低金利政策に転じた(あまり効果は出ていない)。
株式市場から流出した資金の多くは不動産に流れた。住宅ローンの借り換えが昨年ピークを迎えると、今度は債券市場に資金が集中。2001年5月には6%だった10年物米国債の利回りは、今年6月には3%近くまで下落した。
7月に見られた景気回復のかすかな兆候を受け、投資家は再び株式市場に群がった。だが消費者は負債をかかえすぎ、企業も設備過剰で積極的な設備投資に乗り出せない。「FRBは常習的なバブルの仕掛人になったようなものだ」と、ローチは言う。
好況だった10年前でさえ、カネ余り現象などは想像できなかった。94年当時は、むしろ資本不足が懸念されていた。欧米では金利が上昇し、旧共産圏や中南米、東南アジアなどの新興市場は、さらに資金を必要とすると思われていた。
当時恐れられていた流動性不足が起こらなかったのは、金融市場が「資金を外部に供給し続けるポンプのような役割」を果たしたからだと、ニューヨーク大学で金融学を教えるロイ・スミスは言う。
10年前は誰も、90年代後半の世界的な金融市場の大成長を予測できなかった。昨年だけでも、銀行融資や有価証券の発行を通じて5.3兆ドルの流動資本が生まれた。2001年の5.4兆ドルよりはわずかに減ったが、90年の1兆ドルと比べればすさまじい伸びだ。
各国は金融市場の規制緩和に踏み切り、資本の流動性は年々増している。外国為替市場では毎日2兆ドルが動く。中国へ生産拠点を移した企業が浮かせた資金を加えれば、世界には「燃やすほどカネがある」と謝は言う。
問題は、こうしてだぶついた資金の大半が泡と消える危険性があることだ。かつてケインズが言ったように、有望な投資対象が見つからない不況時には、穴を掘って埋めるだけの事業でも景気対策として役立つことがある。
だがケインズが生きた時代には、数十億ドルもの資金が瞬時に世界を動き回ることなどありえなかった。今日のエコノミストが懸念するのは、ビル建設であれ企業買収であれ、発作的な投機熱のために巨額の資金が一瞬にして失われかねないことだ。マイクロソフトの株主も、490億ドルを超える同社の余裕資金の再投資先が見当たらないことに気をもんでいる。
世界の誰も止められない
巨大な国際的資本の出所は、年金基金や投資銀行、各国の財政当局だ。その資金の流れにあらがえる国や指導者はもう存在しない。アメリカや、FRBのアラン・グリーンスパン議長でさえもだ。
米国債相場は、2001年夏に上がりはじめた。企業倒産や債務不履行が空前の水準に達し、エンロンなどの企業不祥事が相次ぐなか、投資家が「質への逃避」に走ったのがきっかけだった。
「欲と恐怖心の間で揺れ動く投資家心理は、大きく恐怖のほうにシフトした」と、スミスは言う。 米国債バブルは、グリーンスパンが低金利を維持する(債券価格を高く保つ)と誓ったために加速した。だが、「マエストロ(名指揮者)」と絶賛されたグリーンスパンの度重なる保証にもかかわらず、米国債バブルははじけた。
今や資金は、自らの意思に従いはじめた。イラク情勢が緊迫の度を強めていた昨年、投資家はおなじみの有事シフトで金を買いはじめた。金価格の上昇は新たな買いを呼び、金価格は2001年4月の1トロイオンス=225ドルから今年第1四半期の380ドルまで急騰した(1トロイオンスは約31グラム)。
年金までが高リスク投資
伝統的な避難先である不動産への回帰も起こった。すでに2000年からバブルを疑われていたニューヨークやカリフォルニアでさえ、地価は年率10%を上回るペースで上がり続けている。
イギリスでは地価の上昇テンポがさらに速かった。しかも投資先は国内にとどまらない。内戦で疲弊したスリランカは、外国人の土地所有に対する規制の緩和とともに「第二のバリ」になりつつある。南部の古い港町ゴールでは、別荘の価格が3倍にはね上がった。
ポーランドやハンガリー、チェコなどの中欧諸国では、EU(The European Union:欧州連合)加盟をにらんだ西側の富裕層が一等地を買いあさっている。
投資家が恐怖から立ち直り、再び欲に傾くのにも時間はそうかからなかった。信用度の低い企業が発行する高利回り社債(ジャンク債)の人気が復活している。ジャンク債の発行額は昨年から急増、今年はすでに830億ドルを超えて98年の記録を塗り替える勢いだ。投資信託評価会社モーニングスターのマーク・セラーズによれば、1年前には倒産の瀬戸際にあったエネルギー会社までがジャンク債を発行している。
ナスダック(米店頭市場)総合指数は昨年10月の底値から約50%回復した。ネット関連株も、eベイ、ヤフー、アマゾン・ドット・コムの3大人気銘柄に引っ張られる形で上げている。
バイオテクノロジー関連では、ジェネンテックやアムジェンといった有力企業の株価でさえ「常軌を逸した高さ」で、半導体関連株にいたっては「ファンダメンタルズとの乖離もいいところだ」と、セラーズは言う。
90年代の株高で儲け損ね、次は決して乗り遅れまいとしている投資家の一群も、株価を押し上げている。「いったんバブルがはじけたら、決して元には戻らない」と、セラーズは警告する。
バブル崩壊の損失を取り戻そうと必死の年金基金も、リスクの高い投資に手を出しはじめた。昨年10月以降、大型の年金基金がアルゼンチンやブラジル、ロシアの債券を買いはじめたのもその例だ。
世界中の年金基金が今、支払い債務が資産をはるかに上回るという爆弾をかかえている。これを解消するには、「より大きなリスクを取るしかない」と、米投信会社GMOで新興市場株を担当するアルジュン・ディベチャは言う。
理由もなく為替が倍に
GMOは今年、アルゼンチンで63%、ベネズエラで60%という驚異的な運用成績を上げている。米国債の利回りが5%を切る今、年7〜10%の予定利率を達成しなければならない年金基金は、こうしたリスクの高い投資をせざるをえない。「それでも不足分はまだ埋まらない」とディベチャは言う。
新興市場の通貨は、タイに端を発した90年代後半の通貨危機に懲りて、当時ほど無防備ではなくなった。投機的な短期資金(ホットマネー)に翻弄された経験で、各国政府が用心深くなったからだ。
おかげで通貨バブルの破壊力は減ったが、通貨バブルが発生しなくなったわけではない。昨年、南アフリカの国債や金鉱に外国資金が流入し、通貨ランドは2倍近くに高騰した。南ア国民自身が理解に苦しんだこのブームの理由は、おそらく他によい投資先がなかったことだ。とくに好材料があったわけではないが、悪材料もなかったことが好感されたわけだ。
ホットマネーは今、新興株式市場に移っている。6月以降、13億ドルがアジア株ファンドに流れ込んだ。タイ証券取引所(SET)指数は年初から約50%上昇し、7月には1日の売買代金が5億ドルに達した。金融危機前の1億7000万ドルを大幅に上回る水準だ。
インドでは、鉄鋼やセメントなどのオールドエコノミー銘柄や、インド最大の自動車メーカーであるマルチ・ウドヨグ(日本のスズキとの合弁会社)の政府放出株に外国人の買いが殺到した。
これらがまだバブルでないとしても、ナスダックに上場している中国のインターネット・ポータル企業の株価は明らかにバブルだ。年初から7月下旬にかけて、網易(ネットイーズ)の株価は4倍、新浪網(サイナ)は5倍、捜狐(ソーフー)は6倍になった。
政府債務がはじけたら
さまよえる世界の投資家たちは、失われたはずのロシアや日本さえ再発見した。ロシア株は改革への期待で今年7月までの2年間に4倍に上昇。東京の日経平均株価も、外国人の買いに押し上げられて4月末から35%上昇した。帝国データバンク情報部の中森貴和課長は、景気回復の証拠は乏しく、この株高は単なる「マネーゲームにすぎない」と言う。
ゲームの目的は、もちろんそれなりの投資収益を得ることだ。安定収益をもたらす金利が上がらないかぎりゲームに勝つのはむずかしいが、景気回復が確かなものになるまでFRBは利上げしないだろう。「FRBは自ら苦境にはまった」と、香港の投資アドバイザー、マルク・ファーバーは言う。
低金利が生むミニバブルは「世界経済を不況から救うための代償だ」と、ロイヤル・スコットランド銀行のグローバルストラテジスト、キット・ジュークスは言う。だがだぶついた低利資金が、経済成長になんの貢献も果たさない高リスクの投資に流れ続ければ、バブルはふくらむ一方だ。
なかでも最大のバブルは、膨張を続ける米政府の債務だ。「いつも不安で仕方がない」と、ゴールドマン・サックスのエコノミスト、ジム・オニールは言う。
この最大のバブルがはじければ、2003年に余裕資金などもっていたことを、誰もが後悔することになるだろう。
バブル崩壊による
損失の回復に
必死の年金基金も
ハイリスク投資に
手を出しはじめた
だぶついた資金が
経済成長になんの
貢献もしない
高リスク投資に
つぎ込まれ続ける
ニューズウィーク日本版
2003年9月3日号 P.30
★資本主義が加熱する中、一部のものへの富の集中と、それによって起こる貨幣退蔵および通貨棄損は資本主義そのものを崩壊させようとしている。なんという矛盾であろうか!