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《11》 浮沈で学ぶ経営のありかた
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投稿者 hou 日時 2003 年 8 月 26 日 20:59:06:HWYlsG4gs5FRk

http://www008.upp.so-net.ne.jp/bigbam/zoku11.html

商社では、実にいろいろな商品を担当する。

わたしは機械部門にいて、工作機械の対米輸出を担当したことがあった。工作機械というのは、
金属のかたまりを切削したり、金属の板をプレスして型通りにする機械で、モノづくりには欠かせない。
その精度や汎用性、耐久性の良し悪しが、その国の工業水準を決めるともいう。

1980年代、日本の工作機械の対米輸出は、自動車と同様に敵なしの様相だった。
日本の工作機械業界の年間の生産額はせいぜい1兆円規模で、自動車産業の足下にも及ばない。
輸出依存度が50%強と高い業界とはいえ、絶対額からすれば、アメリカにとって、
それほどの大きな輸入額ではないはずだった。ところが、
自国の防衛産業が日本の工作機械に極度に依存する事態を憂えた当時のレーガン大統領が、
日本政府に善処を申し入れるほど大きな問題に発展した。自動車などにつづき、
新たな貿易摩擦*を心配した通産省が指導に乗り出し、業界は渋々ながら、
VRA(輸出の自主規制)を受け入れた。アメリカの工作機械業界を再生させるためのもので、
自由貿易を否定するものでない、という苦しい注釈がついた。ちょうど、円高も急激に進んだ頃で、
業界は、円高と輸出規制の、いわゆる「ダブルパンチ」に苦しんだ。わたしの所属した工作機械部が、
このあおりで不採算になり、お取りつぶしの憂き目に遭ったのも苦い思い出だ。
http://www.geocities.co.jp/EpicureanTable/4630/stories/st1-catfeed.html

その後、日本の業界は「ダブルパンチ」を克服して健在だ。古い話だが、何故、自主規制を迫られるほど、
日本の工作機械がアメリカを脅かしたのかを振り返ると、
技術と不可分のメーカーを経営するスタイルに日米の違いがあり、興味深い教訓にぶつかる。

第一の要因として、経営者の経営への取り組み姿勢に違いがあった。
日本の工作機械メーカーの経営者は、設備投資が冷え込んで需要が落ち込むと、とにもかくにも、
工場を動かしつづけることを考えた。仕事がないので、工場の草取りをした、などという話もある。
多くは、商社などを頼って、輸出に活路を積極的に求め、技術力を温存しつつ経営をつづけた。いわば、
景気の先の回復を見越しての緊急避難*だ。中小規模の会社が多いので、それを可能にする基盤と、
経営者の強い支配力があったことも事実だろう。当時は、2、3年も待てば、景気が回復した。

対して、アメリカの経営者は、日本の工作機械の攻勢で徐々に力を失い、不採算が決定的になると、
ほぼ躊躇することなく、工場をまるごと売り払う傾向が顕著だった。株主の厳しい目が、
そうさせるのだろう。その結果、熟練の作業員が、翌日からタクシードライバーに職替えするなど、
温存すべき技術は継承されることなく雲散霧消する。お取りつぶしを選んだわたしのいた商社も、
どうやら、これに近い選択をしたといえるが、広く浅く関わり、逃げ足も速いのが商社の特徴で、
失うものは多くないとはいえる。

第二の要因は、価格や品質、納期、納入後のサービスが生む優劣にあった。
国内で鍛えられた日本のメーカーは、価格や品質もそれなりで、納期は必ず厳守するし、
遠近をいとわない誠実で細やかなサービスが、
やや荒削りで緩慢な対応のアメリカのメーカーに大きな差をつけた。アメリカという国が、
想像できないほど広いのは、誰もが承知だが、衝撃を嫌うデリケートな工作機械だけに、
運送に細心の注意が必要、納期の厳守はもちろん、サービス体制の維持は、並みの苦労でない。
わたしが担当したメーカーのなかのU社の例では、全米に20台ほどの縦型旋盤の納入実績しかなく、
同社としては、採算に乗るレベルの商売ではなかった。しかし、重要な市場として将来に夢を抱いていた。
全米をカバーするには不足とはいえ、一人のサービスマンを常駐させ、
ユーザーの満足度をほぼ十分に保っていた。サービスマンが、ことあるごとに、
マンハッタンの川向こうのロングアイランドに置いた拠点から、飛行機を乗り継ぎ、
レンタカーを駆ってユーザーを訪ねるのだが、なによりも本体の価格がリーズナブルで、
納期も確実だったし、性能も期待通りで満足度が高い。突発的な故障の際も、どんな田舎へも、
電話一本で二日も待てば来てくれるという安心感があった(日本国内では、2日も待ってくれないが、
アメリカでは、来てくれるだけでも評価された)。風のごとく現れ、修理を完璧に終えると、
風のごとく去って行くと評判で、不満をいえば、サービスマンとの意思疎通が欠けるというものだった。
つまり、当時のやや大らかなアメリカのユーザーも、自国のメーカーの緩慢な対応に失望するうちに、
日本のメーカーを必然的に選ぶ結果になったのだ。

この古い話は、製造から納入後のサービスまで、
技術という特異な資産を切り離せないメーカーの経営のありかたについて、
一つの教訓として忘れることができない。

アメリカの工作機械業界が再生したかどうか、定かではない。恐らく、「ダブルパンチ」を浴びるなか、
素早く現地法人化した日系メーカーが、供給のための重要な役割を担っているのだろう。

つづく

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