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(回答先: 「マネー敗戦の政治経済学」吉川元忠著(新書館) 投稿者 読まずに死ねるか 日時 2003 年 8 月 13 日 21:54:47)
マネー敗戦の政治経済学
吉川元忠
四六判上製 本体1800円
日本はあらゆる金融資源を投入して米ドルの価値を最終的に維持しなければならないという立場におかれている。これが「マネー敗戦の構造」と呼べるものであり、経済政策の自主性を失わせている。長期にわたる経済の惨状の原因でもある。一方、アメリカはこのような日本の存在を前提とし、つまりその金融資源を自由に費消することによって長期好況を演出することも可能となっている……
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著者紹介
吉川元忠(きっかわ もとただ)
1934年兵庫県生まれ。58年東京大学法学部卒業後、日本興業銀行に入行。同行産業調査部副部長、サセックス大学客員教授、コロンビア大学客員研究員などを経て、95年より神奈川大学経済学部教授。『マネー敗戦』(文春新書、98年)で、日本経済の「失われた20年」を日米マネー戦争の敗北の結果であると論じ、大きな話題となる。その他の著書に『情報エコノミー』(文春新書)、『経済覇権』(PHP研究所)など。
目次
序章 国民経済学への道
一 マネー敗戦論争
二 経済学の貧困
第一章 世界のデフレ・トップランナーに
一 資産デフレの核心、不動産
二 国際基準が加速した株式下落
三 複合デフレへの道
第二章 迷走する経済政策
一 景気政策論争とマネー敗戦論
二 橋本「失政」から「オブチノミクス」へ
三 小泉「改革路線」と不良債券処理の「加速」
第三章 世界経済の座標軸転換
一 中国の抬頭と人民元
二 日本の対外赤字化
三 ニュー・エコノミー後のアメリカ経済とドル
四 結局世界経済はどこへ向かうのか
第四章 国民経済復権への指針
一 大債権国の特質を生かす
二 インフレ目標か、金融自立か
三 日本にできる仕事は何か
終章 明日の国民経済のために
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書評
<毎日新聞 朝刊 2003年3月2日(日)> 伊東光晴・評
◇米英のエゴにゆがむわが金融政策
日本経済分析の芥川賞といわれるエコノミスト賞を、九〇年代、金融研究が多く受賞した。「金融論栄えて金融滅ぶ」である。今日はどうか。
あいかわらず、金融政策――現時点では通貨増加政策――で不況を乗り切ることができるという主張がやたらと多い。
官庁エコノミストがこのような主張をする理由は理解できる。経済企画庁が内閣府の中に入り、従来の客観的分析から、政府の政策擁護に変った。元経済企画庁次官赤羽隆夫氏の書くところによれば、(「エコノミスト」一月十四日号)、不況を物価の持続的低下とし、日銀の通貨政策に責任を求めようというのである。責任は政府にはない、と。
これに対して、吉川氏は現在の金融政策の背後にあるアメリカとの関係をとりあげ、日本の金融政策がドルの桎梏下にあることを強調する。
一九八〇年代日本は世界最大の債権国家になり、巨額の資金がアメリカに流れた。それはドル建てゆえに、ドルの為替変動と、アメリカの金利水準によって動くものとなった。氏は大債権国が自国通貨建てで資金を提供できないのをマネー敗戦の第一と考える。その結果一九八五年、一ドル=二四〇円から、いっきょに、円高に向かうと、海外資産価値は半減していく。
吉川氏が見ているものの典型は、サマーズ国務長官のとったドル高政策であろう。国際収支が赤字のアメリカが、外国から資金を流入させ、ドル高とアメリカ国内の株高を演出した。日本の資金は大量に流れた。これを可能にするため、日本の金利水準をアメリカより数%低くすることを要求し続けた。この結果、日本は低金利、通貨供給が過剰になり金利政策の自由を失っていく。日本から流れる資金を利用してアメリカの投資銀行が国際的に投機を行うのを加えてもよいだろう。
日本の銀行を縛ったBIS規制――一九八八年、バーゼルにある国際決済銀行(BIS)の集りで、国際業務を行う銀行は、貸出しの八%以上の自己資本を持たねばならないという規制――は、ドルによる円支配であると吉川氏は考える。イギリス、アメリカのように銀行が長期資金を提供しない国ならともかく、日本やドイツの銀行のように長期資金を提供する国は今まで四%程度で運営していたところから、ドイツは強く反対したが、日本は英米に同調して、その後の苦況を招いた。
考えてみれば、BISは、第一次大戦後のドイツ賠償処理機関として設立され、IMF設立時、廃止されるとされたものである。それを復活させ、大きな権限を与え、日独の金融を制約させることに成功したアングロサクソン連合には、吉川氏ならずとも、政治経済学の必要を認めざるをえないであろう。吉川氏はインフレ・ターゲット論にも、もちろん反対である。氏は、グルーグマンの「日本の通貨量を増やすことは、ドルの下落を抑えるために役立つ」という言葉を引用している。金利を引き上げるべきであるという主張も注目すべきである。
本書は不況に対処する政策を論じたものではない。金融政策の背後にかくれているナショナリズムの政治力学に私たちの目を向けさせるものである。だが不況対策との関連で言うならば、今日、インフレ・ターゲットを主張している論者の多くは、九〇年代初頭、金利引き下げを主張し、それが景気回復効果を持たないと、日銀がマネーサプライを増加させないからだといい、これも効果がないとインフレ・ターゲットに逃げこんだのである。このことを読者は忘れてはいない。