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「トヨタにシマ渡さぬ」。
追い込まれ牙むく
六月十八日、米テキサス州サンアントニオ。米フォード・モーターは生まれて初めてテキサス入りする社長のニック・シェイラ(59)を筆頭に、百人以上の社員をこの南部の都市に集結させた。創業百年祭の祝宴を華やかに繰り広げた二日前までとは一転し、全員厳しい現実を直視する表情だ。
フォードは二〇〇一年、二〇〇二年の二年間で六十四億三千万ドル(約七千六百億円)の赤字を計上、今年は赤字脱却を狙う。成否は八月末に販売を始める主力の小型ピックアップトラック「F―150」にかかる。
フォードがサンアントニオをF―150のデモ現場に選んだ理由は二つ。テキサスは全米最大のピックアップ市場で、中でもサンアントニオはフォードが四二%と圧倒的なシェアを誇る。
もう一つの理由はトヨタ自動車への対抗心だ。トヨタはこの地にピックアップ生産の新工場を建設する。今秋着工し、稼働は二〇〇六年とまだ先だが、フォードは「サンアントニオはフォードのシマだ」という強いメッセージをたたきつけた。
トヨタとフォード。因縁は半世紀前の一九五〇年にさかのぼる。世界で初めて大量生産方式を編み出し、自動車を大衆商品へと変えたフォード。生産担当取締役に就任したばかりの豊田英二(現最高顧問)はこの年、大量生産の仕組みを学ぶため渡米し、当時の社長兼最高経営責任者(CEO)であるヘンリー・フォード二世から生産のみならず、近代経営のノウハウも吸収した。
半世紀で主客は入れ替わった。トヨタは大量生産を「カンバン方式」でムダのない生産(リーンプロダクション)へ進化させた。世界生産台数は〇三年一―三月期にトヨタはグループで約百六十八万台と、約百七十三万台のフォードを射程にとらえた。時価総額ではビッグスリーの合計額をも上回る規模になった。
「ルージュ工場は大量生産の二十世紀を代表するアイコン(偶像)だった。最新鋭に生まれ変わり二十一世紀のアイコンになる」。フォード会長のウィリアム・フォードは工場から逆襲を開始すると宣言する。ミシガン州ディアボーンにあるルージュ工場は一九一七年に開業、大量生産を初めて実現した最古の生産拠点だ。フォードは二十億ドルかけ、来夏にも最新鋭の工場に変ぼうさせ、F―150を生産する。混流生産を可能にし、最高の生産効率を目指す。
「誇りをもって模倣せよ」。フォードはさらにマツダからも開発手法を学ぶ。前社長のジャック・ナッサー時代に招いた品質低下を取り返すにはなりふり構っていられない。GMがトヨタから生産性・品質向上を学んだように、フォードもマツダから日本車の良さを吸収する狙いだ。
シェイラはマツダで新車開発の実績をあげたフィル・マーテンスを商品担当副社長に抜てき。マツダの開発担当リーダーだったマーテンスは昨年三月、シェイラから本社に呼び戻された際、「開発速度を上げるにはマツダにならうしか近道はない」と強調した。
創業百年祭の期間中、「新車がない」とうるさいメディアに対し、フォードは参加したジャーナリスト全員からカメラを預けさせたうえで、今後三年以内に投入する新型車十四車種を披露した。うち四車種は乗用車、二〇〇六年以降はマツダ車ベースが続々と出る。
フォードが最後のとりでのピックアップでシェアを落とすことになれば、経営危機に直結する。試乗には、ゼネラル・モーターズ(GM)車、クライスラー車だけでなくトヨタのピックアップ「タンドラ」もあえて用意。新型車に対する自信と同時に、不退転の決意をにじませた。
フォード「百年」の逆襲は王者のプライドをかなぐり捨てることから始まる。=敬称略
【図・写真】トヨタ工場進出予定地のサンアントニオで新型ピックアップトラックを披露するシェイラ・フォード社長