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スイス(下)財産守るサラジン銀――リスク嫌う伝統と合致(SRI最前線)
掲載日:2003/07/18 媒体:日経金融新聞
「サラジンはサステナブル(持続可能性)投資のリーダーです」――。スイス・バーゼルで百六十年以上の歴史を持つプライベートバンク大手サラジン銀行。本社のショーウインドーには、売り物がサステナブル投資であることを示すパネルが貼られている。
スイス金融界に数多く存在するプライベートバンクは、一般の銀行と違い顧客との親密さに特長がある。資産家の全財産の管理を委託されるケースなどが多く、その使命は資産を増やすことよりも、減らさないことにあるとも言われる。
サラジンがサステナブル投資に乗り出したきっかけは、地元バーゼルで起きた公害事件だった。化学会社の事故でライン川を汚染、膨大な損害を出し、投資家も大きな損失を被った。環境意識の低い企業に投資した際、万が一のリスクが大きいことを身をもって痛感したのだ。
徹底してリスクを洗い出し、投資選別をするサステナブル投資は、まさにリスクを嫌うプライベートバンクの発想に合致していたわけだ。一九八九年にサステナブル投資を始め、その後急成長。二〇〇一年には資産総額が二十五億スイスフランに達した。昨年は株安で資産総額こそ減ったが、二十二億スイスフランと銀行全体が運用管理する資産の五%にあたる。
優良企業を厳選
同社のサステナブル投資の特徴は徹底した調査にある。「核エネルギー」「兵器」「たばこ」「自動車」「航空」などの産業は除外され、一切投資しない。約六百社の調査対象から持続可能性が高いと判断した四百社を「投資可能対象領域(ユニバース)」として、恒常的に調査を行う。実際に投資するのはその中の二百社前後だ。
四百社に絞り込む段階で、サラジンは投資対象をマトリクスに分類する。横軸に「産業の持続可能性」、縦軸に「企業自身の持続可能性」をとり、企業自体が優良企業でも産業の「持続可能性」が低い場合には投資できない仕組みだ。
ファンドマネジャーと調査アナリストが常に一体となって企業を選別するのがサラジン流。九人いるアナリストとファンドマネジャーのオフィスは隣接しており、常時顔を合わせる。
企業に直接訪問することも重視している。「単に投資するだけでなく、投資を通じて企業に変化を促すことが重要だ」とサステナブル投資運用責任者のガブリエレ・グレヴェ氏は言う。年間三十―四十社をアナリストらが訪問。持続可能性の観点から意見交換をしている。
統治にも影響力
「環境」「平和」「人権」――。従来のSRI投資の尺度に加え、このところ企業のガバナンスが働いているかどうかが重要なチェック項目になってきた。エンロン事件以降、スイスでも経営トップの暴走を懸念する声が強まり、経営の監視と執行の明確な分離を求める声が年金基金などの間からわき上がった。
昨年四月のクレディ・スイス・グループの株主総会は象徴的だった。かねて独裁色が強いと言われていたルーカス・ミューレマン会長兼最高経営責任者(CEO)の再選議案に、大手年金基金が反対票を投じたのだ。実はこの年金基金の行動の背後にサラジンのアドバイスがあったのだ。
総会ではミューレマン氏は再選されたものの、その後も非難の声は収まらず、結局、期半ばでの辞任に追い込まれた。
スイスも日本同様、公的年金の財政ひっ迫が深刻な問題だ。こうした中で企業年金や個人年金の運用手法に対する国民の関心も急速に高まっている。年金の受け取りが大幅に減るようでは老後の生活は成り立たない。年金は一段と「サステナブル(持続可能)」であることが求められている。
SRIの広がりは、保守的と言われてきたスイス企業に迅速な変化を迫っている。
(チューリヒ=磯山友幸)