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http://www.morganstanley.co.jp/securities/jef/wib/030630/doc05.html
米国:住宅バブルに対する懸念は行き過ぎ
False Bubble Alarm / Richard Berner
市場主導の金利上昇により景気回復の足が大きく引っ張られる可能性は、目先、ありそうにない。
FRBは先日、追加金融緩和に踏み切ったが、イールド・カーブは大きくベアスティープ化した。市場参加者は、マスコミが伝えたFRBの言い回しから、利下げサイクルは終わるかもしれないと受け取った模様。市場参加者が、FRBによる長期債購入という希望的観測を捨て、レバレッジド・キャリートレードの解消を懸念し始めた中、10年物米財務省証券の利回りはこの2週間に40bp上昇している。
強気筋の大半は、景気の先行きに対して悲観的でデフレ・リスクが高いと考えており、利回りの上昇は自己制御型なものになると判断している。債券市場の突然の方向転換は、「金利が大きく上昇するようなことになれば、未だに足取りが脆弱な景気回復はたちまち雲散霧消してしまうのではないか」との懸念を、経済成長の力強い復活を期待していた向きにも抱かせる格好となっている。つまり、金利の上昇により住宅バブルの化けの皮が剥がれ、借金過剰の消費者の返済負担が増し、住宅所有者に二重の致命的なダメージを与える恐れがあると懸念されている。だが、筆者が思うに、こうした懸念はことさら大げさ過ぎる。以下、その訳を説明しよう。
金利はタイムラグを置いて実体経済に影響を及ぼすようになる。償還期限全般に亘って米財務省証券の利回りは現在、依然として2ヵ月前と比べると40〜50bp低い。筆者の見るところ、過去1年間の実質金利低下の影響はようやく出始めたばかりである。10年物実質金利の代理指標である、米財務省発行の10年物インフレ連動債(2002年7月中旬に発行されたもの)の利回りは、11ヵ月前と比較して100bp低いレベルにある。最も重要なのは、金融コンディションがこの9ヵ月間にさらに緩和されていることである。クレジット・スプレッドは縮小し、信用アベイラビリティーも大幅に改善している。さらに、ドル安、株価の上昇が進んでおり、追加財政刺激策もまもなく実施される。他の方面からも、来るべき景気回復を後押しする材料が見込まれる。景気回復により金利は幾分押し上げられることになるかもしれない。しかしながら、インフレ率は今後も低位安定する可能性が高く、FRBがデフレ・リスクと闘う意思を表明している。利回りを渇望する投資家の動きが当面、金利の上昇を抑制しよう。
だが、住宅バブルに関する議論は再び盛り上がりを見せている。「果てしなく続きそうに見える住宅価格の上昇スパイラルは、米国民の借金づけ体質の副産物に過ぎない――金利が上昇に転じれば、たちまち苦境に陥るのは目に見えている」と口やかましい向きは、かつてないほど自らの見方に自信を深めているようだ。しかし、筆者の見たところ、全米規模での住宅バブルなどそもそも生じてはいない。昨年、筆者は、「住宅価格の伸びは向こう数年間に2〜4%へ大幅に鈍化、あるいは実質ベースで伸び悩む可能性があるが、全米規模で住宅バブルが発生している兆候は微塵も見られない」と主張した。こうした見方は今も変わらない。住宅価格の上昇は減速しているが、住宅市場は地域的なもので、萎んでいるのはこれまで浮かれ気味だった地域である。第1四半期、カリフォルニア州のサンノゼにおいて住宅価格は下落、サンフランシスコ、ダラス、アトランタ、ヒューストンそしてデンバーでも上昇率は大きく鈍化した。
筆者の見たところ、住宅の「バリュエーション」は、過小評価のレベルからニュートラルな状態へ戻ったに過ぎない。住宅価格は向こう数年間に減速することはあっても崩壊することはないという筆者の見方通りに事は進んでいる。弊社のバリュエーション・メトリック――住宅版「P-Eレシオ」――も、そうした見方を裏付けている。弊社のバリュエーション・メトリックは、住宅価値を所有者の賃貸所得と関連付け、賃貸所得1ドルを得るために住宅所有者が支出する額がどの程度なものかを測定する。ここでは、住宅価格の代理指標として、OFHEO住宅価格指数、シングル・ファミリーによって所有されている住宅の数、および6万4,000ドル――価格指数の基準年である1980年当時の典型的な住宅の価値――を乗じたものを利用している。住宅からの「利益」については、米商務省に倣い、総賃貸所得から住宅ローン金利や固定資産税などの費用を控除した純賃貸所得を利用する。
この住宅版P-Eレシオを見る限り、バリュエーションは上昇しているが、過大評価されている気配は――特に、高インフレだった1970年代と比べた場合には――殆ど見られない。公表された賃貸所得統計を利用した場合、P-Eレシオはこの2年半の間に150%へ上昇した。これは、1990年代中盤より50%高いが、1980年代の300%――1989〜93年の住宅バブルの崩壊を予兆したレベル――に比べるとはるかに低い。商務省は、住宅ローンの借り換えに係わるコストを賃貸所得に対する前払費用と見なしている。大半の住宅ローンの借り手がしているように、そうしたコストが一定期間に亘って償却されるとするなら、P-Eレシオは150%ではなく135%となる。
住宅ローンが増加傾向にあるのは疑いの余地がなく、目下、可処分所得の78%を占めている。このため、「いったん金利が上昇に転じたら、返済負担が膨らみ、家計の債務は管理不能な状態に陥る」と懸念する向きは多い。だが、消費者は、固定金利型のローンを選択することにより金利を低水準にロックしている。このため、大半の消費者は、金利上昇の影響を受けない状態にある。住宅ローン全体に占める変動金利ローンの割合はこの6年間平均18%で、過去2年間について見た場合には僅か16%に過ぎない。住宅所有者は、この2年半の間に住宅ローン残高のうち6.2兆ドルを借り換えており、返済負担の軽減は公式統計が示唆する以上に大きいと推察できる。また、いわゆる変動金利型モーゲージ(ARM)の多くは、実際のところは固定と変動の組み合わせで、金利プロテクションは5〜7年続く。また純粋なARMの場合も、金利の上昇幅を制限するピリオディック・キャップが設けられている。
また、消費者は引き続き、高コストで税控除の対象にならない消費者ローンの代わりに住宅ローンを利用するようになっており、これにより返済負担は減少している。さらに、フレディマックが公表しているデータによると、消費者は向こう見ずにホーム・エクイティに依存している訳ではない。住宅価格の減速に合わせて、家計はキャッシュアウト型の借り換えのペースも減速させている。
以上の点を勘案すると、前述したように景気回復を後押しするような材料が散見される中、市場主導の金利上昇により景気回復の足が大きく引っ張られる展開は目先考えにくい。金利は、実体経済の成長ペースならびにインフレ動向に左右されよう。筆者が思うに、趨勢を上回る経済成長が続きデフレ・リスクが取り除かれたとFRBが確信できるようになるまで、金融政策運営の方向が変更されることはなさそうだ。金利が大幅に上昇するのは、市場がそうした政策転換の気配を感じ始めた時だろう。