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中国では、地域間の所得格差が大きく、社会不安の要因になりかねないが、これを是正するためには、中央財政による地域間の税収移転が有効な手段であると考えられる。しかし、日本の経験が示しているように、行き過ぎた集権化は経済効率を低下させかねない。財政の分権化と集権化を軸に、効率と平等をいかに両立させるかは、日中両国にとって共通の政策課題になっているが、効率を優先し分権化の進んだ中国も、平等を重視し中央集権型の体制が出来上がった日本も、軌道修正を迫られている。
中国と比べて、日本では地域格差が小さい。これは「地方交付税制度」をはじめとする、地域間の財政移転が果たす役割が大きい。「地方交付税制度」とは、税収の一部を政府が国税として徴収した上で、 地方自治体の財源の調整及び保障の見地から一定の基準により再配分するものである。その狙いは、都道府県及び市町村など地方自治体間の税金などの収入面における格差を是正し、どの地方自治体においても一定の行政水準(ナショナル・ミニマム)を確保することにある。
中国でも、中央から地方への税収の移転が行われているが、今のところ、地域格差の是正には殆どつながっていない。地方への移転支出のうち、「税収返還」の割合が最も大きく全体の約50%と推計される。税収返還は、94年の分税制改革の際、地方政府の既得利益を守るために導入されたものである。その金額の計算は、バブル期である93年の地方政府の収入をベースとしているため、当時の不動産・株式投資ブームで多くの収入を上げた沿海の省には有利となっている。このため、裕福な省に対する税収返還が多く、貧しい省に対しては少なくなってしまった。上海から一旦中央財政に吸い上げられた税金が、ほぼ全額上海に還付されるようでは、再分配のメカニズムは働かない。もっとも、中央から地方への移転項目には、「税収返還」とは別に、所得再分配機能を持ち、貧困地域・少数民族地域を対象とする「過渡期移転支出」が含まれているが、その規模は小さく、実際にはほとんど機能していない。
このように、これまでの税制は、地域間の格差の縮小に寄与するよりも、むしろその拡大に拍車をかけている。豊かな地域では、中央からの還付を含めて税収が潤沢で、積極的にインフラに投資することができる。近年、上海はまさに、この税制の分権化のメリットを活かし、高成長を遂げたのである。これに対して、財政難に直面している一部の地方政府は、支出負担を軽減するために、その責任を末端の県・郷鎮といった下級政府に転嫁しようとしている。特に、義務教育や医療衛生等の負担は大きく、郷鎮政府が財源を増やすため、様々な名目で費用・料金を徴収(「乱収費」)しており、これは農民にとっての実質的な税負担を重くしている。
この状況を改めるために、中国政府が財政改革に乗り出した。2002年から法人と個人の所得税に分税制を導入して、2001年をベースとした基準額を上回った部分を2002年に中央:地方=5:5、2003年に中央:地方=6:4という割合で分け、中央分の全額を中西部など地方に交付することで、立ち後れた中西部に対する支援の強化を図っている。所得税は税収の増大が見込まれる分野であるだけに、今回の改革は94年の分税制改革を上回る地域間の再分配効果が期待される。
中国における集権化の動きに対して、日本では、進行中の「三位一体」の財政改革に象徴されるように、逆に分権化の方向が打ち出されている。確かに、中央政府を通じた地方政府への財政移転は、日本の国土の均衡ある発展に寄与してきた。しかし、多くの分野においてナショナル・ミニマムが達成された今日、地方交付税の仕組みは、地方歳出の財源保障を通じ、地方のコスト感覚を弱め、無駄な公共投資を増加させるとともに、中央に財政的に依存する状況を作り出すという問題を生んできた。「国庫補助金の廃止・縮小」、「地方交付税交付金の削減」、「財源の中央から地方への委譲」を同時に進める三位一体の財政改革の狙いは、まさに行き過ぎた集権化による弊害を是正することである。
集権化も分権化も、権力とそれに伴う利益の再分配を意味するので、それによって損失を被る人々や利益集団が反対するだろう。そのため、他の改革と同様、財政改革においても、既得権益との対立と妥協を繰り返しながら進めるしかない。目標へ向かって、まだ乗り越えなければならないハードルはたくさんあるが、日中両国とも、その第一歩を踏み出したと言えよう。
2003年6月27日掲載
http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/ssqs/030627ssqs.htm