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「危機と改革」の歴史を繰り返すな
http://www.nwj.ne.jp/
韓国の経済改革は深刻な危機によって火がついたが
日本が同じ道を歩めば世界経済が大混乱になる
リー・ブランステッター
この5月、アメリカを訪れた韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の歓迎晩餐会に参加したときのことだ。私が日本を専門とする経済学者だと自己紹介すると、その場の話題は最近の日本と韓国の経済の比較になった。
「日本はなぜ韓国のように、厳しい決断を下すことができないのか。それが繁栄をもたらすはずなのに」と、韓国育ちのアメリカ人記者が私に尋ねた。
最近この手の質問をよく受けるのだが、人々が見落としている点が一つある。前代未聞の経済危機に見舞われるまでは、韓国も「厳しい決断」を下せなかったということだ。
そのため一般に思われているほど、韓国は日本の手本にはなりえない。それどころか、日本が景気回復のために韓国とまったく同じ道をたどらざるをえないなら、世界経済は大変な打撃を受ける可能性がある。
97〜98年のアジア金融危機の前から、一部の韓国政府高官は、自国経済が深刻な構造的問題をかかえていることに気づいていた。経済活動が財閥に集中しすぎていたのだ。
長年にわたって政府から優遇貸し付けを受けてきた財閥は、過剰な投資と事業拡大を行った。その結果、上位30の財閥の債務は、96年までに平均で株価の時価総額の6倍以上にふくれ上がっていた。
改革の中身は参考になるが
盧泰愚(ノ・テウ)と金泳三(キム・ヨンサム)は大統領時代に、金融自由化と経済改革を最優先課題に据えていた。だが大企業は、力を結集して改革を妨害。政界の内紛と利益団体の策略によって、改革は何年も頓挫していた。日本人にとっては、あまりにもなじみ深い展開だ。
日本における改革の遅れの代償は、10年に及ぶ経済の停滞だった。だが韓国は、改革の遅れによって経済崩壊の瀬戸際に立たされた。危機が深刻化すると、97年時点で5%だった韓国の実質経済成長率は、翌98年にはマイナス7%近くに急落。企業倒産が相次ぎ、失業者が急増した。
韓国はIMF(International Monetary Fund:国際通貨基金)の融資に頼らざるをえなくなった。その結果、外国のエコノミストが策定・監視する経済改革案に従う羽目に陥り、国民のプライドは大きく傷ついた。自力ではやれなかった改革を、外から押しつけられたのだから。
だが韓国は勇気を奮い起こし、一致団結して難題に立ち向かった。政府と国民は、IMFによる改革計画を精力的に実行していった。その中身の多くは、今の日本でも実行されるべきものだ。
国民の苦労と犠牲が報われて、韓国経済はめざましい復活を遂げた。なかでも成功したのは、将来性のない銀行とノンバンク系金融機関を思い切って閉鎖し、金融市場を蘇生させたことだ。破綻した金融機関の整理に消極的な日本の姿勢とは、まったく対照的と言っていい。
しかし、韓国が外国の干渉を受け入れ、大胆な変革に踏み出すことができたのは、危機のおかげだ。危機がなければ、韓国の改革はこれほど大がかりで効果的なものにはならなかっただろう。
日本は債権国であり、外国からの投資に依存していない。日本における経済危機は、韓国をのみ込んだ危機とはまったく異なるものになるだろう。世界経済の不安定化要因となる可能性も、はるかに大きいはずだ。
むしろ韓国から教訓を学べ
10年余りの経済停滞を経た今も、日本経済の規模は韓国のほぼ10倍だ。韓国並みの危機が日本の規模で起これば、世界経済を道連れにしかねない。
危機のさなかで、韓国の通貨ウォンは1ドル=800ウォンから2000ウォン近くまで下がった。もし日本円が同じように1ドル=230円に暴落したら、アジア諸国がどうなるか考えてみるといい。
この円安は日本の輸出業に恩恵をもたらすだろうし、日本の経済成長を後押しすることだろう。しかし、これほどの通貨下落が起これば、世界の輸出産業は大変な状況に追い込まれる。西ヨーロッパから中国まで、世界中が影響をこうむるはずだ。
専門家の間には、日本には膨大な富の蓄積があるために改革を先送りしても危機は訪れず、また深刻な危機が避けられなくなるまで真の改革はできないという見方がある。
事態はそのとおりに動いているようにみえるが、彼らの見方がまちがっていることを祈ろう。日本の指導者が、韓国が経験した危機と改革の歴史を繰り返すのではなく、そこから教訓を学ぶことを祈りたい。日本が韓国の例にならえば、世界中が代償を払うことになる。
Lee G. Branstetter
コロンビア大学ビジネススクール准教授(国際経済学)。専門は日本を中心とする東アジア経済で、現在は外国直接投資、技術移転、技術育成政策を研究。
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ニューズウィーク日本版
2003年6月25日号 P.11