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03/6/16(第301号)
経済政策の混乱
堅牢な「壁」
政府の政策が混乱の極みという話はずっと本誌で行って来た。特に、最近の政治の動きは、世間の関心と遠いところにある(人々の一番の関心事は、やはり雇用や所得の不安であろう)。
ところが今日、政治で問題になっているのは税源移譲であり、三位一体の改革の話である。しかしこれらは、結果的に国の歳出を削ることが真の目的である。ちょうど小泉政権発足当初の改革の具体策が、公共事業費、交付金、補助金を夫々1兆円ずつ、合計で3兆円削ることであったことが思い出される。しかしこの時の本当の狙いは、国債の新規発行額を予定の33兆円から30兆円に3兆円減らすことであった。国債発行額の削減以外に、この小泉改革に何らかのポリシーがあったのではない。周りが勝手に色々な意味付けをしただけである。
ばかばかしいのは、30兆円に削ったはずの国債の新規発行額が、税収減で結果的には36兆円に増えたことである。小泉首相はこの公約違反を指摘されると「たいしたことではない」と強弁している。「三位一体の改革」も同じ結果に終わることは見えている。
日本経済がデフレ進行で窮地が続いているのに、政府や政治家は、わずかな財源の取合いでもめている。しかしこれを「改革」と言い張っておれば、政治が行われているという錯覚だけを人々に与えることができるのである。デフレの問題は、総供給と総需要の問題である。今日一生懸命議論されていることは、「分配」の問題であり、デフレの解決とは関係のないことである。政府もマスコミも全く危機感がないと言おうか、相当ズレている。
経済が沈みつつあることは誰でも承知している。しかし経済危機までには到っていない。まずこれには、超金融緩和政策が寄与していることは間違いない。ゼロ金利政策が、経済の腰折れを防いでいるのだ。そしてこれ以外の大きな要因の一つは、政府が財政赤字をどんどん増やしていることである。税収が減るほどには、増税や歳出カットを行っていない。したがって小泉政権は緊縮財政を標榜しているが、結果的には財政債務残高を大幅に増やしており、新規発行の国債も激増している。小泉首相は口では「積極財政への転換は亡国の行為」と切って捨てている。しかし政府の累積債務を大きく増やしているのは、まさに小泉経済政策である。本当のところ小泉政権は、中途半端で稚拙なケインズ政策を行っているのである。
国の債務残高が増えるから、さらに緊縮財政を行い、これによってまた税収減となる。そして税収減によってさらに国の債務残高が増えと言った悪循環に陥っている。しかしこのような経済政策が続けば、いずれ経済が危機に落込むことは橋本政権で既に実験済みのはずである。いつまでも賢くなれないのが、小泉首相などの財政再建論者達である。このような人々の頭には堅牢な「壁」があるため、説得しても無駄である。これは経済理論の問題ではなく、本人達の性格の問題である。
日本が破滅的状況に到らない第二の要因は、当局がさかんに市場に介入していることである。日銀の国債の買い切りオペに始まり、公的資金による株式の買上げ、つまりPKOである。日銀による銀行の保有株式の買取りもある。またりそな銀行へ2兆円の資本投入も行った。そして目立つのが為替市場への介入である。2月の2兆円の円売り・米ドル買い介入も大きかったが、5月は実に4兆円もの介入を行っている。とにかく財政支出という名が付かなければ、当局はどれだけでも公金を使うというスタンスである。
度重なる為替介入によって、外貨準備高は60兆円を越えた。もちろん断トツの世界一の金額である。本来、日本円は変動相場制を採っており、外貨準備は不要のはずである。決済尻は、為替レートが変動し、調整されるのである。ところでさかんに塩川財務大臣などは、円は購買力平価を考えると高過ぎると言っている。また訳の分らない経済学者は、景気の悪い日本の円が高くなるのはおかしいと言っている。しかし日本の経常収支は大きな黒字であり、円高になることは不思議でもなんでもない。つまり購買力平価を考えれば本来円安になるべきところが、間違った政策によって逆に円高に向かっていることが問題なのである。
特に、同時テロやイラク戦争、そしてSARS騒動で、海外旅行者が減った結果、旅行収支の赤字が小さくなっており、経常黒字は大きくなっている。また米国の経済はもたつき、金利も低くなっており、日本から資本が流出しにくくなっている。このような状況で、円が高くなるのが不思議と言っている人々は頭がおかしいのである。
輸出補助金
外貨準備の60兆円は、半永久的に日本には戻ってこない金である。もし戻って来るとしたなら、日本経済が壊滅的な状態になった時であろう。また通常の状態で60兆円もの米ドルを円転すれば、円の為替レートは50円を越えるような超超円高になると思われる。この場合も日本経済は壊滅状態になると考える。
つまり今日の円売り・米ドル買い介入資金は、一種の輸出企業への補助金とかわりない。財政支出を削減する一方で、為替介入を行って輸出企業を助けているのが、今日の日本政府である。これでは内需関連企業が死んで行くのを放っておき、輸出企業を育成していることと変わらない。まるで外需依存型経済を助長しているようなものである。たしかに今年の夏の輸出企業のボーナスは少し増えるらしい(社会保険料が増えるので手取りは減るが)。
筆者は、政府の市場への介入の全てを否定しない。たとえば市場が間違っていると判断する時には、介入も一つの政策と考えられる。しかし経常黒字が増えているのに、円売り・米ドル買いの介入を行うことはおかしい。本来は、円高に対して財政政策を行い、内需拡大を行うのが本筋の政策である。今日、行われている介入は、むしろ矛盾を蓄積させているようなものである。介入資金(これに民間の外債投資がプラスされ)が元本となって将来利子や配当を生み、これがまた次の円高圧力になるのである。
結局、現在行われている、当局の市場介入は、日本経済が危機状態になることを防いでいる反面、失政を続ける小泉政権を支えていることになる。問題は、今の政権には、全く将来の展望がないことである。人々は、少しずつ窮地に追込まれて行くのである。日本のエンゲル係数も大きくなっていると言う話を聞く。これまで考えられない事態が次々起っているのである。
小泉政権の支持率が高いと言われているが、これは極めていい加減なアンケート調査の結果である。これについては02/11/25(第275号)「小泉政権の支持率の怪」で取上げた。いい加減な調査結果が、今度は他の支持率調査に影響を与えていると考える。このようないい加減な調査が国の命運を左右するとは由々しき問題である。
しかし混乱しているのは、政府だけではない。与党も混乱しているし、野党政治家の考えはもっと混乱している。このように全国民が混乱している時には、経済理論の基本に立戻って、日本経済を眺めてみることが大切である。とにかく今日の経済政策の先には、何の展望もないことを理解することが重要である。
今週号は前段が長くなり、本題に入れなかった。来週号は、経済循環の基本である生産・所得・支出の三面等価を取上げたい。