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世界が恐れる「日本病」の伝染
アメリカやドイツにも危険信号
グローバル化に伴う国際競争の激化で
世界規模のデフレ危機が目前に迫っている
トニー・エマソン
米議会で先日、心配顔の議員がFRB(Federal Reserve Board /Board of Governors of the Federal Reserve System:米連邦準備理事会)のアラン・グリーンスパン議長に質問した。アメリカは日本化しつつある、あるいはすでに日本化したという「極論」をどうなだめるのか。
グリーンスパンは、独特のもって回った言い回しで答えをはぐらかしたが、一方で「日本の状況を目のあたりにするまで、誰も本当にデフレが起きるとは思わなかった」ともらす場面もあった。
米経済がデフレになるリスクはまだ小さいが、「細心の注意を払って監視する」ことが必要だと、グリーンスパンは警告した。
前回、世界がデフレの脅威にさらされたのは1930年代。今では日本に加え、アメリカやドイツなどでも危険な兆候が強まっている。今週の主要国首脳会議(エビアン・サミット)でも、参加者の関心は「デフレのわな」を回避できるかどうかに集まっていた。
確かに今のアメリカは、バブル後の日本と不気味なほど似ている。2001年初め以降の米株式市場の落ち込みは、89年以降の日本を思わせる。アメリカ人も日本人と同様、以前ほど豊かではなくなったと感じている。
さらに深刻なのは、米経済の成長が鈍化していることだ。金利は限りなくゼロに近づいているのに、である。こうなると、金利引き下げが景気後退の特効薬としての効果を失い、通常の景気悪化がデフレ・スパイラルに発展する危険性が一気に高まる。
IMF(International Monetary Fund:国際通貨基金)は4月30日、世界のデフレ・リスクに関する調査報告を初めて発表。それによると、主要35カ国の物価変動を調べた結果、2000〜2002年には全体の13%以上の月で物価下落が確認された(80〜84年には、物価が下落した月は全体の0.9%にすぎなかった)。
インフレの鈍化傾向はさらに顕著で、世界的なデフレ危機が間近に迫っていることを示している。
デフレ圧力の一部は、グローバル化の影響とみなすことができる。国際競争の激化、とくに製造業における中国の台頭と小売り部門におけるウォルマートの躍進が、世界の物価を大幅に引き下げている。ネット商取引の拡大が続き、消費者がさまざまな商品を比較できるようになったことも、物価の下落につながっている。
もっとも、この種の物価下落は「良性のデフレ」とされている。物価を押し下げた要因は技術の進歩と供給の拡大であり、需要が急激に低下する「悪性デフレ」とは違うからだ。
それでも近年の株価下落や、9.11テロとその後の原油価格の上昇などが、すべて需要を収縮させる方向に働いていることは明らかだ。一部には製造業の製品価格の低下が、グローバル競争の時代に突入しつつあるサービス業に波及しかねないとの悲観論もある。
「良性デフレ」が「悪性」に変わるおそれは十分にあると、クレアモント・マッケナ大学(カリフォルニア州)の経済学者リチャード・バーデキンは指摘する。
金融政策で「治療」可能?
日本のデフレを分析したFRBの調査は、二つの重要な教訓を浮き彫りにした。まず、デフレはどんな代償を払っても未然に阻止しなければならないこと。いったんデフレになれば、抑え込むのはインフレ以上にむずかしい。金融当局は理論上、金利を無制限に引き上げられるが、金利をゼロ以下に引き下げることは不可能だ。
二つ目の教訓は、政府が「断固たる」姿勢を示し、紙幣の増刷を含む「非常手段」に訴えてでも通貨の供給量を増やせば、デフレは抑え込めるということだ。
「今ではデフレは通貨政策上の現象であり、中央銀行の施策で『治療』できるという認識が広がっている」と、IMFのチーフエコノミストを務めるケネス・ロゴフは言う。
米経済の現状はまだ予断を許さないが、明るい兆候も見えている。消費者物価指数は前年同月比でわずか2.2%のプラスだが、98年の日本と違ってマイナスにはなっていない。株式市場では2001年以降、およそ5兆ドルが失われた計算になるが、ここ1年で時価総額は約5%増えている。
住宅市場にはバブルの兆しが見えるが、80年代の日本とは比較にならないほど小規模だ。債券市場の動向も、投資家がアメリカでは今後もインフレが続くとみていることを示している。
ドル安容認は両刃の剣
そのためIMFも、アメリカがデフレに陥る危険性は「あまりない」と結論づけている。その大きな要因は、政府が「きわめて柔軟な」対応を見せ、素早く手を打ったことだ。「米当局者は、デフレが単なる『日本病』ではないことを知っている」と、米国際経済研究所のアダム・ポーゼンは言う。
アメリカではFRBがデフレ阻止を口にする一方、ジョン・スノー財務長官はドル安容認に踏み込んだ発言を行っている。
ドル安になると、米国内で輸入品の価格がはね上がり、デフレ・リスクは一気に小さくなるが、逆に外国ではアメリカ製品の価格が下がり、デフレ圧力が強まる。ドル安が米経済の早期回復につながり、世界経済もデフレ基調が定着する前に成長軌道に乗る、というのが理想のシナリオだろう。
現時点で最も心配なのはヨーロッパだ。とくにドイツは、記録的な倒産件数、住宅市場の冷え込み、急激な信用収縮など、日本とよく似た危険な兆候が表れている。
FRBによると、デフレのターニングポイントは物価の下落が始まったときではなく、消費者がデフレの到来を予感したときだ。その結果、消費者が買い控えに動けば、企業収益が落ち込む。そうなれば企業は人員削減に走り、需要のさらなる減退を招き、デフレ・スパイラルが本格化していく。
「いま市場に広がりはじめているのは、こうした現象が(アメリカでも)起きるという感触ではない」と、グリーンスパンは米議会で証言した。それでも最善のデフレ対策は、未然にデフレ要因を「たたきつぶす」ことだとつけ加えるのも忘れなかった。
それに失敗した国が、第2の日本になる。
ニューズウィーク日本版
2003年6月11日号 P.22
JAPAN◇デフレ