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image りそなを「破綻」させたアメリカの狙い
経済 取材・文:草薙厚子 取材:島田健弘
次々と国民監視強化の法案が国会を通過していく。経済力を失った日本は有事即応体制を敷いてアメリカの番犬になろうというのだろうか。少なくとも小泉首相はブッシュ大統領の“ポチ”化しているように見える。りそな国有化に際しても、その裏にはアメリカの圧力が存在した。しかし、その経済政策も両首脳にとって再選戦略の一環として繰り出されただけなのである。
■ アメリカ大使に呼びつけられた大物たち
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勝田泰久りそなホールディングス前社長(中央)の豪腕も虚しく
日米首脳会談、エビアンサミットと外遊続きの小泉純一郎首相だが、上機嫌が継続している。同行の日本人記者団に対しても、秋の自民党総裁選への自信にみなぎった言葉が口をついて飛び出している。内閣支持率の回復もさることながら、ブッシュ大統領にテキサスの牧場に招かれたことが、その背景にあるようだ。
「余計なことをさせないように封じ込めろ」
5月17日の「りそな国有化」発表を前に、ワシントンのホワイトハウスからベーカー駐日大使に指令が下ったのは5月13日のこと。翌日にはベーカー大使は、中曽根康弘元首相、森喜朗前首相、古賀誠前自民党幹事長を大使公邸に呼び込んだ。
「12日にホワイトハウスに日本から連絡が入り、りそな国有化の話が伝わりました。その際、抵抗勢力を封じ込めたほうが、アメリカのためということになりました。ワシントンと日本は13時間の時差があるので日本の13日にホワイトハウスから連絡があり、翌日、日本の政治家の方たちを呼びました」(アメリカ大使館関係者)
ベーカー大使から「りそな国有化への協力と小泉首相の再選支持」を要請された3人は、「唖然として固まったと同時に“アメリカあっての日本”ということを改めて実感したんではないでしょうか」(アメリカ大使館関係者)。
結局、日本政府は、りそなグループに2兆円の公的資金の資本注入を決めた。国民一人当たり2万円、りそなの行員一人当たりに1億円をプレゼントする形になった。
公的資金注入が明らかになると、「公的資金はドブに捨てることになりかねない」(亀井静香前政調会長)「竹中金融大臣はやり方が間違っていた」(野中元幹事長)と“ちらほら”と竹中批判が出てきてはいたが、抵抗勢力による小泉批判はなぜかトーンダウンしていた。
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国有化で当面の金融危機は回避できたものの
アメリカはインフレターゲットとデフレ克服策をも日本に迫っている。インフレ目標の導入に消極的な見解を示していた日本銀行の福井俊彦総裁までもが、徐々に軟化しはじめた。6月1日に行われた日本金融学会の講演会では「インフレ目標のような手法を金融政策に組み込む余地があるか真剣に検討したい」と述べており、物価が上昇に転じた場合、インフレ目標や、日銀が望ましい物価上昇率を示すインフレ参照値などを導入することに前向きな姿勢も示している。
「アメリカが日本に景気回復を迫るのはブッシュ再選のためだけといっていいでしょう。日本発で金融恐慌が起きたら困りますし、日本をデフレから脱却させておかなかったらアメリカの経済も悪くなるからです。イラク戦争が終結を見たので、来年の大統領選に向けた人気浮揚のためには経済を良くしないといけないと必死なんです。ブッシュはそのためならなんでもする考えなんです。一方、小泉はブッシュの言うことを喜んで聞くという構造です。もちろん小泉も延命策です。ブッシュの後ろ盾なしでは、秋の総裁選で勝てません」(外国通信記者)
■ 不良債権処理の加速は「ハゲタカファンドの餌食」
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金融庁内部でも旧大蔵主計派と改革派が対立
UFJ総合研究所の森永卓郎氏の分析に耳を傾けてみよう。
「りそな国有化は日米首脳会談に向けての手土産ではなかったのかと思えて仕方がないんです。なぜならこれから2兆円弱の普通株を入れて、国がりそなの議決権を取るわけです。つまり経営権を握るわけですから、何でもできるようになる。そこで小泉内閣がずっと言い続けて来た不良債権処理の加速化です。これが、さっさとハゲタカファンドに売れという要求を貫徹する第一歩で、りそなをやったら、同じことを次々と残りのメガバンクでもできるようになるわけです。1年前には、りそなも自己資本比率が8%あったわけです。それが4%割れまで一気に追いこむことができました。これは明らかに政府が故意にやったのです。去年の10月末に政府が金融再生プログラムを竹中―木村ラインで仕組んだからです。ハゲタカに売ったあと、デフレからインフレ切り替えのスイッチを押すんですよ。それはブッシュ大統領が押すと思いますけどね」
りそな国有化は外資系ハゲタカファンドのために強行されたとする陰謀説だ。
とはいえ、アメリカ系のハゲタカファンドの関係者は日本の銀行を現時点では全部買い占める気はないと否定する。
「日米首脳会談と重なったのは、単なる偶然だと思いますよ。日本には魅力はありませんから。考えてみれば分かると思いますが、日本の銀行を買ったのはみなファンドです。一つの株式会社が買うわけではないのです。投資家から集められた資金を専門の特別目的会社(SPC)が運用し、その成果を出資額に応じて投資家に還元するものなのです。ですから、必ず、数年後には、そのSPCが投資した会社を市場に株式公開させるか、合併させるか、第三者に売り渡すかになるんです。約5年のものが多いです」
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「金融システムに影響はない」?
実は、デフレ傾向にあるアメリカは経済を持ち直そうと躍起である。米連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン議長は、5月21日にワシントンで「デフレの危険性は小さいが、FRBが警戒を続けるのに十分なほど深刻な問題」と発言している。
「アメリカからは日本側に金融危機の回避、デフレ脱却のシナリオの提出を迫っています。IMFのデービッド・バートン・アジア太平洋局長は日本で中期2%の物価が上昇するようにインフレ・ターゲットを求めています。また今回のりそなホールディングズの国有化に対して、アメリカ政府から小泉総理、竹中金融・経済相らのやり方に反対を唱えている抵抗勢力に対して早い時期に『余計なことをしないように』という指示を出し、抵抗勢力の影響を排除したのは事実です」(アメリカ財務省関係者)
アメリカ教に帰依している竹中大臣と小泉首相にとっては、アメリカの支持・指示が全てで、抵抗勢力や批判の声は耳には入ってこないのだ。
「亀井、麻生、野中が言っていることはいまの時点では正しいんです。ただ、いままでのイメージが悪すぎて、残念ながらいくら正論を言っても誰もついてこない。さらに、アメリカは本当はドル安に持っていきたい。デフレから脱却するときには必ず自国通貨安を経由します。アメリカは円高ドル安にしていって、ますます日本のデフレを続けさせて、次のターゲットを追いこむというのをやってるんだと思います。円高になるということはドルが安くなるわけですから、アメリカにとっては追い風になるわけです。輸出が増え、貿易赤字も解消される。今回のイラク戦争ではっきりしたんですが、日本はポチなんですよ。いいようになんでもハイハイと言った上に、(ブッシュ大統領の)牧場にまで連れて行かれてしまった」(前出・森永氏)
■ RCCは不良債権のゴミ溜めになる
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100人態勢のRCCが入居するビル
5月26日に発表された大手銀行7グループの2003年3月期の連結決算は総額で4兆6,000億円の赤字。この3月期決算では、竹中大臣の金融再生プログラムの影響で、各大手銀行もりそなと同様「税効果資本」への依存度が5割を超していることが明らかになった。
次なる国有化銀行出現も時間の問題である。
「国有化は終わりじゃなくて、これからが始まりなんです。このりそなは完全に国の機関銀行になりますよ。竹中大臣始め、行政側は地方銀行でおかしくなるところの受け皿にしようと思っています。銀行が多すぎるので、ダメになったところをりそなに持っていくことによって他のところがよくなる。アメリカの期待に答えて回復を狙っているのですが、自信があるわけではないようです」(ある外国銀行幹部)
アメリカが押しつけた対策で、日本経済が回復する保証はない。
「日本発の恐慌が起きる可能性だってありますよ。日本がバカなんです。国や経営監視チームが乗り出してきたら、そんなに安くは不良債権を売りに出さないから、外資系ファンドも買いません。売れ残ったカスの不良債権は、ぜんぶRCC(整理回収機構)に持ち込まれます。それでRCCは大量の不良債権を抱えたままでそのままずっと持ち続けます。りそなだけ再建できるようにキレイになりますが、片方でRCCが不良債権の溜まり場になって、国民の税金の多くがRCCにいきます。だからある時点でRCCが不良債権を叩き売らなければならない時期がきますよ」(大手新聞経済部記者)
いずれRCCが叩き売りに出た時に、ハゲタカファンドが群がってくるのは間違いない。
つまり、りそな国有化は問題の先送りが繰り返されたのにすぎないのだ。再選のための“その場しのぎ”しか考えていない日米両首脳には国民の痛みなど痛くも痒くもないだろう。
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