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「弱いドル」が招く経済戦争の危険
歴史的視点をもつ人なら誰でも、米ブッシュ政権のドル安容認姿勢に不安を覚えるはずだ。
これも許容範囲内の経済政策、あるいは避けられない流れなのかもしれない。アメリカの巨額の貿易赤字(年間約5000億ドル)とともに、ドルは世界にあふれている。いずれかの時点で、かなりのドル下落は避けられないだろう。
だが、アメリカの輸出競争力を高めて他国の輸出を阻害するドル安には、「近隣窮乏化」政策の亡霊を思わせるものがある。
簡単に言えば、通貨の切り下げと貿易障壁、補助金、優遇措置により、他国を犠牲にして国内産業を保護する政策だ。これは自由貿易ではなく「政治的貿易」である。
30年代には、こうした経済ナショナリズムによる反ドイツ勢力の結束の乱れが第2次大戦の一因となった、とする見方もある。経済問題をめぐって国々が非難し合えば、国際協調はむずかしくなる。
私たちはこの歴史を思い出し、同じ過ちを避けなければならない。6月初めには、先進国首脳がサミットに集う。経済ナショナリズムの台頭を防ぐことこそ、今回のサミットの最重要課題であるはずだ。
すでにイラク戦争によって、アメリカと多くの国々の間に緊張が生じている。関係がさらにこじれれば、通商問題ばかりかあらゆる交渉に悪影響が及びかねない。
そうした事態を防ぐこと自体はむずかしくないのだが、状況を複雑にしている要因が二つある。世界経済がすでに弱っていることと、ドル安が多くの国の経済を脅かしていることだ。
欧州に広がる反米機運
各国の輸出に占める対米輸出の割合は、2001年の数字でカナダが88%、日本30%、韓国21%、中国20%、ドイツ11%、フランス9%だ。中国と韓国以外の各国が、ドル安の影響に脅かされている。
このドル安に対するヨーロッパの反応を見ると、イギリスのガーディアン紙は「アメリカが欧州に『大量破壊兵器』を発射、景気後退懸念広がる」と表現。フランスのルモンド紙も、「欧州、通貨戦争に敗北」と報じている。
こうした見出しは、政治的影響の強さを物語っている。ドル安は反米機運を招くのだ。だが経済の実態に目を向ければ、事はそれほど単純ではない。
まず第一に、ドル安を引き起こしたのはブッシュ政権ではない。ドル相場を押し下げたのは需給バランス、つまり対米輸出で得たドルを他の通貨に替えようとする動きが広がったからだ。
第二に、ドル相場は95年半ばから昨年初めにかけて34%上昇しており、このところの下落幅はその3分の1ほどにすぎない。
そして第三に、ヨーロッパ諸国(とその他の国々)は、ドル安の影響に対処することができる。たとえば内需刺激策だ。
「欧州中央銀行(ECB:the European Central Bank)には利下げの余地がある」と、カリフォルニア大学バークレー校のバリー・アイケングリーンは言う。政策金利を2.5%から1.5%に引き下げるべきだというのだ。
それでも、経済戦争の予兆はかなり広がっている。
アジアの国々は貿易黒字を確保するために、為替相場のコントロールを図っている。中国は実質的に対ドル固定相場制を取り、他の諸国は為替市場に介入している。
EU(The European Union:欧州連合)は、重商主義的傾向を強めている。遺伝子組み換え作物の輸入規制は、アメリカの農産物に対する差別措置だ。
世界貿易が崩壊する危険
世界経済がさらに下降すれば、ナショナリズムの圧力は強まる。30年代がそうだった(そして「世界の貿易システムが崩壊した」とアイケングリーンは言う)。これは現在にもあてはまる。
ナショナリズム的政策の連鎖は、市場の信頼と国際投資を損ない、自殺行為となりかねない。サミットで先進国指導者は、この危険の回避にあたるべきだ。ECBに大胆な利下げを、アジア諸国には保護主義的な通貨政策を放棄するよう促すのだ。
このドル安は、もはやアメリカが一手に世界経済を支えることはできなくなったことを示している。
他の国々が加速しなければ世界経済は推力を失い、墜落してしまうおそれすらある。そうなれば経済的にはもちろん、政治的にも大打撃が及ぶことになる。
経済ナショナリズムが
世界に広がるのを
防ぐことこそ
今回のサミットの
最重要課題であるはずだ
ニューズウィーク日本版
2003年6月4日号 P.35