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世界最高水準の日本の工業製品力の基盤を、高度な職人技術で支えてきた金型づくり。それが今、苦境に立たされている。注文主のメーカーが、経費削減のため海外に生産拠点を移すのに伴い、国内の金型業者の仕事は減る一方なのだ。この逆風下、金型業者が集積する東京都大田区や川崎市などの業者が、全国的にも珍しい共同受注グループを結成し、成果を上げている。
「デジタル機械で削っても、最後の磨きは指の感触で仕上げる。この技が一番大切です」
川崎市中原区にある金型製造業「モルテック」の工場。顕微鏡でのぞいた金型を布で丁寧に磨きながら、松井宏一社長(42)が説明してくれた。布に付けてあるのは、ペースト状にしたダイヤモンドの粉だ。磨きが一人前になるには、最低でも十年かかるという。
同社は、家電製品などの外観部分をつくる金型が得意。松井社長は「世界中で店頭に並ぶ商品を見て『これはうちの金型でつくった』と分かる。やりがいは大きい」と顔をほころばせた。
金型は、金属やプラスチック、ガラスなどの素材を成型し、同じ形の製品を量産するための金属製の型のこと。その重要さから「製品の生みの親」ともいわれる。高度な技術に裏打ちされた日本の金型は、世界に品質の高さを誇ってきた。
しかし、最近は元気がない。国の統計によると、生産額は一九九八年以降、減少傾向が続く。「メーカーが人件費の安いアジア諸国に拠点を移している。国内で金型の受注が減るのは自然なこと」と松井社長は話す。
しかも、「設計・加工のIT化は、熟練を要する加工技能が入る余地をなくし、アジア各国の金型製造技術を押し上げた」(大田区産業振興協会の山田伸顕専務理事)。技術力でもアジア各国が脅威になりつつある。
同区では、この十年間で約六百あった金型関連業者がほぼ半減した。
業界特有の課題もある。下請けの金型業者に出させた図面を、多くのメーカーが無断でアジアの業者に渡し、同じ金型を安くつくらせていたことが昨年、表面化した。経済産業省が流出防止の指針を示して事態は改善されたが、金型業者の知的財産権は軽視されたままだ。
厳しい状況のなかで、主にプラスチック用の金型業者二十六社が共同受注グループを結成、ホームページを開設した。今年二月のことだ。顧客の問い合わせに、単独かチームを組んで仕事を受ける。「元気のある名前を」と「金型熱血集団JAM=ジャパン・アグレッシブ・モウルド(金型)」と名付けた。
業界はこれまで、固定客の仕事がほとんどで、新規開拓の必要がなかった。JAMの会員「並木金型」(大田区大森西)の並木正夫社長(62)は「メーカーとのつながりが強すぎた」と振り返る。業者は一匹おおかみになりがちで、共同受注の発想自体がなかった。
しかし、固定客は次々と海外に移る。個々の会社は営業力がない。今回は自然と『共同でやろう』という話が進んだ。
反響は予想以上。多い週は十件以上の問い合わせが入り、既に二件受注した。
JAMの対外窓口役の松井社長は「金型は専門分野が細分化されており、発注側が業者をピンポイントで探すのは難しい。グループ化で探しやすくなった」と語る。
会員たちに共通するのは、日本のモノづくりの将来を憂う声だ。
並木社長は「メーカーは今、金型を安く買うことしか考えていない。もっと技術を見てほしい」と注文する。松井社長も「メーカーは、高度な金型を国内に発注し、海外と差別化してほしい。すべて海外発注すれば、日本で何かつくろうと思ったとき、何もできなくなる日が来る」と話す。
JAMの活動に刺激され、他地域でも共同受注の動きが出ている。危機感に突き動かされ、「金型再興」を目指す動きは活発化している。
JAMのホームページアドレスはhttp://www.east.jdmia.or.jp/jounan/
文・石井敬/写真・嶋邦夫、高瀬晃
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