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経済のブロック化にまつわる阿修羅投稿
http://www.asyura.com/2003/bd24/msg/722.html
「一つの市場、一つの通貨(One Market, One Money)」
http://www.asyura.com/sora/hasan3/msg/310.html
米国テロは「世界恐慌」再来の引き金となるか?!〜状況証拠はこれだけある、懸念される日本への影響(ウエッジ11月号)
(急速な所得と技術格差の拡大 グローバル化への反発も)
http://www.asyura.com/2002/war18/msg/399.html
朝鮮半島における日本の“国益” 投稿者 あっしら
http://www.asyura.com/2002/hasan15/msg/1151.html
Re:これで最後です 投稿者 スーパー銭湯
http://www.asyura.com/2003/dispute8/msg/1105.html
「ブロック経済の悪夢」
(ここには転載されていなかったので、ここで改めて転載する。実はこれがこの投稿の目的である。あっしらさんのコメントがある。イラク戦争直前、3月15日の記事である。)
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■ 『from 911/USAレポート』 第83回目
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「ブロック経済の悪夢」
イラク攻撃論をめぐる国連安保理の論議は、猶予期間の設定をめぐって論戦がもつれ
る中、今週中の攻撃という可能性は薄れたようです。13日の木曜日には、CIAに
よるイラク軍の無血降伏工作がうまく行きそうだ、という噂が市場を駆け巡ると、N
Y株式市場とナスダックは4%前後の暴騰を演じました。
社会の深層では本当に戦争回避の期待が増しています。勿論、反戦デモや、地方自治
体での攻撃反対決議など正攻法からの動きも続いていますが、その一方で、戦争を煽
る政府に対してもう世論が疲れてきた、時折ふっと気を緩めたくなる、そんな雰囲気
もあるようです。
例えば、12日の水曜日は夕方にユタ州で、誘拐されていた15歳のエリザベス・ス
マートという白人少女が無事保護されたというニュースで持ちきりでした。更に一夜
明けた13日の朝の各局は、涙ながらに娘の無事を喜ぶ父親のインタビューが、放送
時間の大半を占める騒ぎです。英国議会の論戦も、安保理の駆け引きもどこへやらと
いう感じです。
事件の背景には、ユタ州という山岳地帯ならではの、宗教的に純粋な人々の良い面と
悪い面の錯綜した、実に複雑な事情があるようです。一夫多妻制の妄想を抱いて、怪
しげな神の啓示で凶行に及んだ(らしい)流浪の牧師の存在など、ある意味ではアメ
リカの闇の部分に関係する事件かもしれません。
ですが、この「無事」というニュースにTVの電波が一斉にジャックされるという事
態は、「少女が無事に生還した」という「良いニュース」を多くの人が渇望していた
証拠のように思えます。テロと戦争のニュースにはうんざりというのが、世論の深層
にあるのではないでしょうか。
その一方で、余り油断してはいけないと思わせるニュースもあります。FOXニュー
スは、B−2ステルス爆撃機の編隊が、内陸ミズーリ州の巨大空軍基地から中東の
(ディエゴ・ガルシア島らしい)秘密の拠点に移動してゆく映像を流していました。
軍部の暴走は少しずつ速度を速めています。トルコがダメなら、ディエゴ・ガルシア
島の戦略的位置づけが高まる、もしもそんなストーリーがあるのなら、日本の自衛隊
も関与の深刻度が増してゆくかもしれません。
なぜならば、イージス艦「きりしま」など日本艦が直接の戦闘に巻き込まれる可能性
は高くなるからです。米軍としては、日本艦が「武勲」を上げても、「被害」に遭っ
ても、どちらにしても日本の世論を否が応でも北朝鮮問題に関する「軍事共同作戦」
への支持へと道連れにするのに効果的と踏んでいる可能性があります。
毎日が危険な一進一退の外交、軍事の舌戦です。第二次大戦前夜の状況になぞらえて
「心理戦」という言い方も聞かれるようになってきました。恐ろしいことです。です
が、間違ってはいけないのは、極端な「心理戦」の場合には、先に「切れた」方が負
けだということです。
もしかしたら、この僅かな猶予期間は「心理戦」の背後にある本質を見つめる機会な
のかもしれません。今回のイラク、北朝鮮危機の背後にあるもの、その正体は何でしょ
う。ホワイトハウスとペンタゴンの一国主義でしょうか。極端なシオニズムでしょう
か。文明の衝突論という妄想でしょうか。石油利権の争奪戦でしょうか。日韓、日中
離反の謀略でしょうか。EU統合への妨害でしょうか。
こうした解説のどれもが、一定程度は正しいのでしょう。ですが、その背後にうごめ
いている流れは、もしかすると「ブロック経済への誘惑」ではないでしょうか。グロー
バル経済の過度の合理性、過度の社会変革力を恐れる心理から、世界を大きな経済圏
に分ける。そして、自国のコントロールできる範囲を決めて、その内側と外側の間に
境界を引き、経済ブロックを作り上げる、そんな動きです。
誰かがはっきりそう言ったわけではありません。ですが、もしもこのままイラク攻撃
が米国単独、もしくは米英のみで行われ、中東が渾沌として流血のドミノ倒しになっ
たら。その際に、アメリカの動きに対して、独仏+中(露)がはっきり一線を引いた
ら。在韓米軍が撤退して、対馬海峡が実質的な対北朝鮮の最前線になり、日本が完全
に米英の陣営に引きずり込まれて、中韓+独仏と分断されたら。結果的に「ブロック
経済」ができ上がってしまいます。その可能性はゼロではなく、それによって得をす
ると考える一部の人間は、すでに意識をし始めているのかもしれないのです。
「ブロック経済」とは、第二次大戦の以前に世界で起きていた現象です。産業革命の
結果起きた生産過剰、第一次大戦の戦時経済の収束から来る不況に対抗するため、英
国のスターリング・ブロック、アメリカを代表に南北アメリカを括った米州機構、そ
してドイツ圏、ロシア=ソ連圏というような形に経済圏が分断されていきました。そ
の結果が第二次大戦という破綻に至ったということは、現在では多くの史家の指摘す
るところです。
現在の状況は、これに似ています。世界を覆うデフレ傾向は、日に日に色濃くなって
います。IT革命がもたらした事務の生産性向上は、物流管理や在庫管理、更に生産
管理を飛躍的に向上させました。コストが極小化される中で、企業向けにサービスを
提供する産業へ支払われたり、人件費として社会に還元されるマネーも又極小化され
つつあります。IT技術そのものも過当競争から明確なデフレ現象に襲われています。
IT「革命」とは言っても、圧倒的な技術による「全ての経済活動の合理化と極大化」
に至るには、まだほど遠く、現時点では、経済縮小効果ばかりが目立ちます。大量生
産品に至っては、日本の設計思想と生産拠点としての中国の生産能力向上が、これま
たデフレ効果の弊害をもたらしているという説があります。過剰な生産力が、直接コ
ストの極小化も実現してしまっているからです。ITが間接コストを極小化し、中国
などが直接コストを極小化する、その結果として全世界がデフレに陥っているという
説もあります。
その一方で、アメリカが得意とするバイオや薬品の分野では、せっかく開発した付加
価値が、収益にうまく結びついていないとも言えるでしょう。遺伝子組み換え食品は、
日本や欧州の抵抗でアメリカ国外ではなかなか普及しません。私は、安全性試験をサ
ボっているのが悪いと思うのですが、アメリカの業者は、それこそ文明の衝突論のよ
うに自分の正当性を主張するだけです。薬品に至っては、新しい特効薬も、効果があ
ればあるほど、生命は金で買えないからと、途上国でのコピー薬認可の動きが利潤追
求の動きを負かしてしまっています。この繰り返しに苛立つ業者も多いのでしょう。
結果的に、バイオや薬品も経済の牽引力にならないという雰囲気になってきています。
IT自体がデフレ、製造業もデフレ、消費も一進一退、信用を失って金融収支も怪し
いとなると、アメリカ経済の立つ瀬はありません。私は、こうした危機こそ、アメリ
カ資本主義のノウハウの見せ所だと思うのですが、もしかすると、こうしたグローバ
ル経済のもたらすデフレ効果に耐えられないグループも出てきているのでしょう。
そうした痛みから逃げたい、その一念からブロック経済を歓迎する向きがあるのかも
しれません。そして、日本の産業界の一部にも、同じような利害があるのかもしれま
せん。そう考えると、現在の複雑怪奇な現象も分析の手がかりが出てきます。自分の
属するブロック内は自由貿易にするが、他からの廉価な商品流入は規制する。そうし
て商品の売価を高値に維持してデフレを防ぐ、そんな考えです。
今回の国連での対立を、ドルとユーロの覇権争いにたとえるのは、ある意味で正しい
と思います。ですが、それは金融面での基軸通貨というだけではありません。それぞ
れのブロック経済圏の構築を、ある程度覚悟した動きという見方もそろそろ始めなく
てはいけないのかもしれません。
エネルギーという面ではどうでしょうか。今回の危機を石油エネルギーの争奪戦とい
うふうに考えるのは、やや単純過ぎるように思います。未来に枯渇の恐怖を先送りし
ているにせよ、石油はだぶついているのです。米英のイラク強硬論の背景には、石油
をもっと掘りたい、という動機ではなく、イラクの産出を抑えて原油価格を高止まり
にさせたい、という動機が見え隠れするからです。「2003石油ショック」という
言葉も、アメリカでは言われ始めていますが、それはそういう意味も含まれるようで
す。
問題は核エネルギーです。原子力発電所が生み出す使用済み核燃料は、核弾頭の原料
になるのです。北朝鮮の黒鉛式の原子炉稼働が大騒ぎになるのは、エネルギー欲しさ
の行動であっても、濃縮ウランという核兵器に転用可能な排出物が出てしまうからで
す。20世紀までは、核拡散防止条約が機能していて、とにかく平和利用の核開発を
核兵器に転用させる動きがあれば、国際社会が共同で阻止してきました。
ですが、エネルギー不足に悩む北朝鮮の政権がいつしか核兵器開発をチラつかせて、
ギャングの脅しのようなことを始めました。そんな悪夢のような経験をしてみると、
他の国々も不安心理にかられてもおかしくないのです。平和利用の核であっても、使
用済み燃料の行方を問われて「お前は怪しい」となると、いつの間にか悪者に仕立て
られる危険、不安とはそういうことです。
そうなると、「自分は善の側だ」ということを誰か強い存在に認めてもらわなくては、
この世界を渡って行けないという恐怖が出てきます。その時に国連の権威、IAEA
の権威が「お墨付き」として十分でなければ、「ブロック」のどちらかに属して、自
分が「善」だということをブロックの中で保証してもらいたい、そんな心理が出てく
るかもしれません。
日本が好例です。膨大な電力を原子力に依存している日本は、使用済み核燃料をフラ
ンスに依頼して処理してもらっています。まず、その海上移送に当たってテロリスト
の襲撃を受ける危険が増す可能性があります。また頼みのフランスがアメリカの陣営
から離れてゆくとなると、敵となるかもしれない「ブロック」にみすみす核兵器の原
料を渡していることにもなります。となると、日本は使用済み核燃料を自国で処理し
なくてはなりません。
さあ、大変です。日本も「核のならず者国家」と指弾を受ける危険が出てくるのです。
そうなれば道はただ一つ、アメリカとの強固な核軍事同盟に乗り、アメリカの力によっ
て「善」というお墨付きをもらわねばなりません。そうなると、相手の「ブロック」
との核冷戦を戦うしかなくなるのです。その中で、アメリカが抑止力の提供という核
攻撃リスクを低減したいと思えば、日本の独自核武装を認めるどころか要求してくる
可能性もあるように思います。
製造業はどうでしょう。電子、機械、化学などの分野での日本の高い生産技術は、そ
のまま軍事技術に転用可能です。長い間、民生品を中心に世界に大量生産品を売って
きた日本は、旧枢軸国の汚名と全方位外交、全方位セールスのための「武器輸出三原
則」を固守してきました。ですが、ブロック同士の睨み合いがエスカレートすれば、
そんなことも言っていられなくなります。
もしも日本が国策として軍需産業に傾倒していったらどうでしょう。残念ながら日本
の技術力は放置しておくには強過ぎるのです。抜き差しならない軍事同盟として、ア
メリカに徹底的に使われ、また危険となれば切り捨てられるでしょう。全方位外交、
全方位セールスなどということは、間違っても不可能になります。
恐ろしいシナリオです。が、全く現実味がないわけではありません。デフレに苦しむ
日本とアメリカの一部の産業には、このような流れによって短期的に得をするグルー
プが極く一部ながらあるからです。ですが、仮にそうなったとしても、この「ブロッ
ク経済」は長続きしないでしょう。なぜならば必ず破綻を招く構造になっているので
す。
太平洋戦争が秒読みとなった、1941年7月に当時は経済記者であった、後の総理、
石橋湛山が関西財界人に対して行った講演の中で次のような指摘をしています。
「私は広域経済は少なくとも今日考えられている所のものでは、とうてい世界に安定
をもたらすわけには参らないと存じます。只今考えられている広域経済の思想により
ますと、国防上肝要な物は出来る限り、自己の経済圏で自給自足することを、第一の
目標にいたしております。しかしそれでは、平時にはそれらの国防上必要な物は生産
過剰になります。また、さように国防上必要な物の生産に主力を注いでおれば、圏内
の民衆の生活を豊富にする物資の生産がおろそかになることは免れません。そこで平
時においては、その過剰になる物資を他国に輸出し、代りに民衆の生活に要する物資
を他国から輸入する。こうして平戦両時の備えを立てようというのが、今日の広域経
済の考えです。」(「百年戦争の予想」石橋湛山評論集から)
石橋の論旨は明快です。広域(ブロック)経済は、各ブロックが軍需品(いわゆる軍
需産業ではなく鉄鋼、機械、化学産業の製品全部)の生産過剰に陥り、それを平時に
は輸出しようとするならば、石橋の言葉を借りるなら「激烈な通商競争と通商妨害政
策とが、列国間に行われるでしょう。平和はとうてい長くは保たれないと思います」
という結果に至るというものです。
この結果とは世界大戦の危険であることは言うまでもありません。石橋は、これに対
して平和を維持する手段があれば「それは、ただ一つ、列強が真に協調して、全世界
を打って一丸とした広域経済を作ることです」と喝破しています。講演のタイトル
「百年戦争」とは、そんな理想に至るまでは、人類は百年間戦い続けなくてはならな
い、というその時点での悲観的なムードを反映したものです。
この「全世界を打って一丸とした広域経済」には、百年は要しませんでした。勿論、
石橋の恐れた世界大戦があり、おぞましい冷戦がありました。無残な犠牲を払った後
ではありますが、石橋のこの講演から50年弱を経て、曲がりなりにも人類は「グロー
バル・エコノミー」らしきものに辿り着いたのです。その最大の成果があるとすれば、
日本による全世界を市場とした自動車や電子機器の単一市場化であり、アメリカによ
る金融の民主化だったのでしょう。
そのアメリカと日本が、もしも「ブロック経済」の再現を考えているのなら、それは
歴史の皮肉と言わざるを得ません。皮肉というのは、流れが逆になっただけではあり
ません。アメリカと日本は、もはや部分的なブロック経済には戻れないのです。世界
のカネを金融市場に集めなくては、アメリカのキャッシュ・フローは破綻します。日
本の高コスト構造は、高付加価値製品の大量販売で初めて利益が出るのです。仮に世
界単一市場というものが分断されたとすれば、現在考えられる「ブロック」として、
独仏+中国という組み合わせの方が「平時」にははるかに繁栄する可能性が高いので
す。そして、優位に立とうと、これ以上の軍拡に進めばアメリカと日本の経済は、か
つてのソ連のように破綻するでしょう。
トヨタの奥田会長が、米英主導のイラク攻撃を支持するような発言をしましたが、勘
違いとしか思えません。このまま戦争になれば、裏切り者のドイツ製品はアメリカ市
場で嫌われ、高級車市場ではトヨタのレクサス・ブランドが一人勝ちになる、そう考
えたのなら誤解も良いところです。レクサスという車は、アメリカが繁栄し、お金持
ちの消費者がBMWやベンツとの間で「選ぶ楽しみ」がある平和な時代であって初め
て成功する商売なのです。その厳粛な事実を踏まえ、日米の政権を牽制するべきとこ
ろを、全く逆の発言になるのですから話になりません。
その日本の場合は更に別の危険が待っています。共和党政権と共に、抜き差しならな
い冒険に打って出た後で、(例えば北朝鮮への爆撃とか、中東での共同作戦とか、台
湾海峡での挑発行為であるとかを行った後で)アメリカにリベラルな政権が出来、そ
の新政権が中韓やEUとの協調を大事にグローバル経済の再建を図ろうとしたとした
ら、日本は完全に切り捨てられます。道義上も、軍事上も、経済上も、世界の主要国
から置いて行かれるに違いありません。
結論から言えば、日米同盟+英国、などというブロックが、世界の他の地域と競うな
どということが非現実的なことが分かります。改めて、日本とアメリカはグローバル
経済という原点に戻り、その上で南北格差や環境の問題に真剣に取り組むべきでしょ
う。デフレは、世界の民生品市場を相手に高付加価値製品を生み出し続ける知恵によっ
てしか、克服の道はないのです。13日木曜日の市場の暴騰は、そうした歴史の深層
に忍び寄る危機を、市場が感じ取った上での「ノー」であるとも言えるでしょう。
冷泉彰彦:
著書に
『9・11(セプテンバー・イレブンス)―あの日からアメリカ人の心はどう変わったか』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4093860920/jmm04-22