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兵士の治療を助ける「バーチャル人体モデル」の開発を米国防総省が計画
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投稿者 エンセン 日時 2003 年 8 月 24 日 04:45:29:ieVyGVASbNhvI


兵士の治療を助ける「バーチャル人体モデル」の開発を米国防総省が計画
Noah Shachtman


2003年8月14日 2:00am PT  心臓、肺、肝臓、神経、血管、骨など、兵士の身体のすべての部分をデジタルで再現し、その情報をチップに収めて兵士の認識票に埋め込む――米国防総省がこのような技術の開発を計画している。

 同省の国防高等研究計画庁(DARPA)によると、この『バーチャル・ソルジャー』プログラムは、戦闘で兵士が受けた傷を衛生兵がより早く、より正確に診断するのに役立つものになる見込みだという。それが、兵士の命を救うことにつながると考えている。

 プログラムの対象になるのは軍人だけにとどまらない。将来的には、あらゆる人が自分の身体構造の電子的コピーを――早ければ10年後にも――持ち歩けるようになるとDARPAは述べている。

 「米国に住む人が1人残らず、自身の電子的な医療記録を持つことになるだろう」と語るのは、プログラムの責任者で、シアトルのワシントン大学で外科学の教授を務めるリチャード・サタバ博士だ。

 「ただし、文字で書いたものではない。その人の解剖学的・生理学的な特徴を再現した、動く画像だ。しかも、その記録は随時変化していく」

 だが、医療関連の技術者たちの多くは、早合点は禁物だとしている。バーチャル・ソルジャー・プログラムは、きわめて野心的な試みという表現でも控えめなぐらいだというのだ。この遠大なプログラムを実現させるためには、かつてない額の予算とコンピューターの処理能力を必要とする。

 サタバ博士の構想は、MRI、CTスキャン、X線や超音波を使って、人の体を医学的、電子的に再現したホログラムによる人体モデルを作り出すというものだ。このホログラムモデルがあれば、医師は患者の体の基礎情報、すなわち「元の状態」を知って現状と比較することができる。

 「患者が外傷を負っている場合、ケガをする前の体の様子がわかれば治療に役立つ。同じ銃のケガでも、ある人には致命傷となり、別の人にはそうならない。心臓が少し脇に寄っているとか、血管がある方向にねじれているといったことで変わってくるのだ」と、米国立医学図書館の副館長を務めるマイケル・アッカーマン氏は語る。

 だがサタバ教授は、このホログラム人体モデルを患者の解剖学的な履歴を描いた単なる静止画にとどめるつもりはない。超音波診断装置やX線、CTスキャンによる検査の結果を、そのつどすべて自動的に取り込むことで、今その瞬間、体内で何が起きているのか細部まで視覚的に捉えられる人体モデルを目指している。

 携帯用の超音波スキャナーは、すでに市場に出回りはじめている。これは『スタートレック』に出てくるトリコーダー[医療用の万能スキャナー]の実世界版とでも言うべきものだ。次世代の兵士の戦闘服には、兵士の脈拍や体温などがわかる医療用モニターが織り込まれるという。また、コンピューター・プログラムを使った患者の診断も研究が始まっている。こうした技術の進歩をホログラムの人体モデルと組み合わせれば、戦場で衛生兵が負傷兵を即座に自動的に診断できるようになるかもしれないと、サタバ博士は言う。

 また、この人体モデルに予測アルゴリズムが導入されれば、その人の体が将来どうなるか見ることもできるかもしれない。

 「ドリアン・グレイ[本人の代わりに肖像画が年を取っていくオスカー・ワイルドの小説の主人公]のように、65歳になった自分の姿を垣間見ることもできるだろう」とサタバ博士。

 こうした目標はどれも途方もなく遠大だと、医療技術の専門家たちは話す。米陸軍の『遠隔医療・先端技術研究センター』の責任者、ゲリー・モーゼス氏によれば、バーチャル・ソルジャー・プログラムは総じて「考え得るかぎり先進的な医学研究」だという。「だが、私も含め、多くの専門家がこのプロジェクトは実現できると考えている」

 一方、もっと懐疑的な専門家もいる。ビック・スピッツァー氏は、コロラド大学医療センターでもう10年以上も『可視化人体画像データプロジェクト』(Visible Human Project)に取り組んでいる。これは遺体を基に、詳細な画像による解剖学的データベースを作るというものだ。スピッツァー氏の研究チームは、膝の関節をコンピューター・モデル化するためだけに、この1年半をまるまる費やした。デジタル化した関節を動かすだけで、『ペンティアム』プロセッサーが64基も必要だ。

 「(ホログラム人体モデルを)実現するにはとてつもない大金と、山ほどのプロセッサーが必要になるだろう」とスピッツァー氏。

 ハリウッドはCGを使った生物の体の再現に巨額の費用をつぎこんでいるにもかかわらず、ただ1つの特筆すべき例外[『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』の『ゴラム』]を除けば、出来映えはぱっとしないのが現状だ。しかも、こうしたCGが見せているのは、デジタル・キャラクターの表面の皮膚だけであり、生きて呼吸をしている人間の体内の複雑に絡み合った臓器や筋肉、神経といったものを再現するのに比べれば、本当に初歩的なことに過ぎない。

 DARPAはここ数ヵ月、とりわけ市民的自由の擁護派によって、激しい批判にさらされてきた。非難の的になったのは『政策分析市場(日本語版記事)』)(テロ攻撃の可能性を取引するオンライン市場)、『ライフログ(日本語版記事)』(個人のあらゆる行動をデータベースに収める、きわめて詳細な日記のような試み)、『戦闘地帯監視(日本語版記事)』(都市を丸ごと見張る監視ネットワーク)などのプロジェクトで、その是非をめぐって論争が起こっている。だが、バーチャル・ソルジャー・プロジェクトはあまりに突飛なため、プライバシー擁護派の反応も控えめだ。

 「まだごく初期の段階にあることは明らかなので、(プライバシーの)問題を検討するまでもない」と、電子フロンティア財団(EFF)の専任弁護士、リー・ティエン氏は述べた。

 だがサタバ博士は、ホログラムによる人体モデルは人が思うほど現実から遠いものではないと断言する。バーチャル・ソルジャー・プロジェクトへの米政府の全面的支援が変わらなければ、今後10年以内には実用化されて自動診断が可能となり、衛生兵の役に立つようになると博士は見ている。

 「(懐疑的な人たちが)思うよりもずっと早く、このプロジェクトは実現するだろう。彼らは今現在どこまで技術が進歩しているかも知らない。なのに、今後5年から10年の間に何が可能になるか、どうしてわかるだろう。(コンピューターの処理)能力の向上の速さに、すっかり置いていかれているのだ」とサタバ博士。

 サタバ博士はまた、バーチャル・ソルジャーと、ライフログのような激しい論争を呼んでいるDARPAプロジェクトとの間に関連性も見出している。

 ライフログの目標は、人が見、聞き、読むものを把握し、その情報からコンピューター化した記憶の代替物を作ることだ。ホログラム人体モデルと組み合わせれば、ライフログは「その人が何をしてきたかということだけでなく、その人の健康状態についても」記録できるようになるとサタバ博士は言う。「これは(ライフログ・)プログラムをより意義深いものにするためのインフラの一部だ」

 とはいえ、サタバ博士の人体モデルプログラムは、まず、ブタの心臓のモデル化という、ごく小さな一歩から始まる予定だ。研究者たちはDARPAから18ヵ月間の助成金を得てブタの心臓をスキャンし、そのスキャン画像を基に小さなホログラムモデルを作成するという。

 次にこのバーチャルな心臓を使って、損傷に対する反応を見るシミュレーションが行なわれる。これは損傷を受けてから鼓動が止まるまで、どれだけ時間がかかるかを検証するものだ。心臓の電子的モデルが生体と同じ反応を示すという理論的な確証が得られれば、今度は実際に生きているブタを――本当の致命傷になるよう――傷つける。

 ブタには榴散弾が撃ち込まれる。心臓のホログラムモデルが正確であれば、生きたブタの脈打つ心臓は、バーチャル心臓と全く同じ経過をたどって鼓動を止めるはずだ。


[日本語版:長谷 睦/高橋朋子]


http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/20030822307.html

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