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http://www.zdnet.co.jp/news/0308/05/nj00_ibmtrl.html
自分の手で握りこぶしを作って胸の前に当てる。これが体内にある心臓とほぼ同じ「イメージ」そうだ。でも、2008年なったら、そんなことをしなくても「バクバク」動く自分の心臓を、天然色で見ることになりそうだ。
日本アイ・ビー・エム(日本IBM)が現在研究を進めている最先端技術の一端を報道陣に公開する「TRLメディアセミナー」と研究内容の展示会が日本IBM箱崎事業所で行われた。
「TRL」とは「IBM東京基礎研究所」の略称。IBMの先端技術というとPCユーザーの中には「大和研究所」という言葉がすぐに思い浮かぶ「ThinkPadフリーク」も多いだろう。TRLも同じ大和事業所に所属しているが、半導体、分散コンピューティング、プログラミングなど、より広範囲な分野の最先端研究に従事している。
今回のTRLメディアセミナーは、東京基礎研究所の存在を報道陣にアピールするもの。セミナーでは東京基礎研究所所長の鷹尾洋一氏による概要紹介や、現在行われている研究テーマから「Accessibility Technology」(障害者による情報機器操作補助技術)、「ライフサイエンスにおけるナレッジ・マネジメント」(生医学単語に特化した超大規模語彙辞書を利用したテキストマイニング技術)、「eCRMのためのプライバシー管理」(個人情報の自己管理、アクセス管理技術)について、説明が行われた。
セミナー終了後、参加者は別会場に設けられた研究成果の展示会場を見学。そこでは、セミナーで紹介された内容も含めた15テーマの研究内容がパネルとデモマシンで紹介されていた。IBMの最先端研究ということで、お馴染みの「オートノミック」「グリッド」も展示されている。
しかし、今回はちょっと目先を変えてみて、記者が個人的に興味を引き付けられたテーマ、今年から始まった京都大学との共同研究による「細胞・生体シミュレーション」について紹介しよう。
細胞・生体シミュレーションは、コンピュータの中に「生きている臓器」を再現しようとする研究。実物と同様のシミュレーションモデルを構築し、構造研究はもちろんのこと、挙動、薬などの化学的刺激に対する反応なども再現させ、薬品研究、治療技術研究などに役立てるのが最終的な目標となっている。
現在、心臓の3次元モデルを構築している段階。ベースモデルには「Kyotoモデル」と呼ばれる細胞レベルの機能を再現した心筋細胞シミュレータを使っており、これを拡張させて心臓の機能を再現しようとしている。
3次元モデルの形状基礎データになるのは、MRIで撮影した画像データ。MRIでスライス状に撮影された断面図を積層し、測定時に紛れ込んだノイズを「お医者さんが手作業で」(IBM側担当者 土井淳氏)で取り除いて、形状構築の基礎データとして使われる。
このようにして得られた基礎データと、心臓の物性データ(ばね定数、減衰係数、ヤング率、伝導率)や心臓の筋繊維構造や繊維配列情報を加味して、シミュレーションモデルが構築されることになる。ちなみに、IBMの土井氏によると、物性データや筋繊維関連データもMRIの測定によって得られる情報らしい。
基礎になるのはMRI測定から入手できるデータ。心臓の形状も物性データも筋繊維配列そろってしまうそうだ
MRI測定による実測値からシミュレーションモデルの構築データが得られるということは、「測定した個人個人の心臓を3次元シミュレータモデルで再現できることになる」(土井氏)
この研究では、シミュレーションモデルをメッシュ構造で再現している。従来、「不定形」な臓器の3次元モデルを構築する場合は、四面体メッシュを使ってきたが、東京基礎研究所ではここで六面体メッシュを採用している。
四面体メッシュとは、四角錐を組み合わせて3次元モデルを構成する手法。3次元グラフィックなどではよく使われているものだ。対して六面体メッシュは直方体を「縦横に並べて」構成する。この手法で構築された3次元モデルは、四角い積み木を真っ直ぐに何本も並べていくようなイメージになる。
六面体メッシュを採用した理由は「四面体メッシュよりも再現精度が高い」「筋繊維配列のような方向性の再現性が高い」。一方で頂点数が多くなる六面体メッシュでは、シミュレーションの演算処理が膨大になることが考えられる。
この点についてIBMは「四面体メッシュで六面体メッシュ並の精度を出そうとしたら、メッシュの数が膨大になるため、逆に演算数は多くなるだろう」と考えている。
ただし、縦横に伸びる六面体を組み合わせるので、臓器などの不定形を再現するのには適していない。現在の研究課題も、六面体でいかにして心臓の形を正しく再現するかにおかれている。実際には直方体を歪めて、曲線などを再現しているそうだ。
3Dモデルは六面体メッシュで構成される。もともと機械などの形のはっきりしたシミュレータに使われていた方法なので、ぐにゃぐにゃした臓器の形状を再現するのは苦手らしい
研究プロジェクトは5年計画で進められており、2005年には臓器シミュレーションプロトタイプを完成させ、2008年には生体シミュレータを製品化する予定になっている。2008年には、MRIを受けてからディスプレイで、ドックンドックン動いている自分の心臓を眺めることも夢でないようだ。
関連記事
グリッドとオートノミックはどこまで現実に近づいたか――IBM Forum2003
http://www.zdnet.co.jp/news/0302/27/nj00_ibmforum.html
関連リンク
日本アイ・ビー・エム http://www.ibm.com/jp/
[長浜和也, ZDNet/JAPAN]