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バグダッド・リポート 03.07.26 No.018
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7月26日（月）
「人生、どうにでもなる」
１７日から５日間、妻と娘、妻の妹とでレバノンに旅行に行ってきた。旅行なんて言うと、呑気に聞こえるかもしれないが、妻と娘のレジデンスビザの書き換えでどうしても一度ヨルダンから出国する必要があったからだ。別にそんな言い訳をする必要もないのだが、NGOで活動する人間は、娯楽をすると批判される運命にあるみたいなので、一応言い訳。と言いながら私もこの活動に参加するまでは批判する側だったかも知れんけど。
アンマンと比べても日本食は抜群にうまく、刺身の種類も豊富でキリンビールもサッポロビールも日本酒も用意されている。結果、レバノン料理を一度も食べずにヨルダンに帰国する羽目に。しかし、日本食のレベルが非常に高かったのでまったく心残りはない。（日本人の場合、ヨルダンのは入国時２週間有効の滞在ビザがもらえる。２週間以上滞在する場合は、その期限内に地元の警察署に届け出て３ヶ月有効のビザをもらう。更にその期限内に延長手続きをすると１年間のビザがもらえるが、審査期間が二週間有る上に健康診断なども必要になる。３ヶ月の期限が切れる直前に延長手続きをするつもりでいたが、その際に１年間有効のビザの手続きが面倒だということを知った。ビザが切れている場合、一人につき１日1.5JDの罰金が課せられる。それにしても言い訳をするとどうしても長文になってしまうなあ。）
ベイルートから北方２０KMほどにあるジュニエという街のホテルに宿泊した。街全体がクリスチャンの居住区ということもあるのだろうけど、アラブの国とは思えない。大体どこでもお酒は飲めるし、女性は大胆に肌を露出している。世界の美人の産地だけあって、美人が多い。
レバノンに行って思ったことは、今更ながら日本食のすばらしさ（なんじゃそりゃ）。ホテルのすぐそばにある寿司バーはレバノン人が経営していて、従業員は例の如くフィリピン人だ。しかし、R.Aoki氏が経営するふざけた日本料理屋とは違ってなんともまともな店だった。日本食は、素材が命とかよくいうけど、それだけじゃあ不十分で、やっぱり優しさがセットになっていないと駄目なんだよね。
経営者はきっと日本で典型的な和食屋さんで食事をして、感動した人に違いない。おしぼりも紙じゃなくてきちんとタオル生地だし、割り箸の袋も「おてもと」だし、メニューにないものもアレンジしてくれる。箸袋に中国語が書いてあるだけでしらけてしまう、ということをよく分かってるんです。ビアジョッキも白々しいほどでかでかと「キリンビール」と書かれているが、アラビックに飽き飽きしている私にはとてもうれしい。そんでこの店は安かった。天ぷらそばが５ドル。温かいそばしか作ったことがないというのに、冷たいそばを用意してくれた。こういうのが何ともうれしいんです。残念ながら店の名前を忘れてしまった。すみません。
海外に出稼ぎに来ているフィリピン人に、日本人だと言うのがとても恥ずかしいのだが（理由はわかるよね）、彼らの許容量の大きさは私のちっぽけな自意識とか自己満足的な罪悪感なんかスポンジのように吸収してあっと言う間にからからに乾いてしまう感じ。
ベイルート市内では「東京レストラン」というストレートな名前の日本食料理屋に行ってきた。「地球の歩き方」にも載っているので、行ったことのある人もいるかもしれない。伴さんという北海道出身のおばあさんが４０年近くも同じ場所で経営している。地球の歩き方には「内戦中も経営を続けていた」と書かれていたが、どうやらそれは間違いみたいで、その時はバグダッドに栄養士として出稼ぎに来ていたそうだ。内戦中に、外国人への反感が高まる中、ご主人は殺されてしまった。それでも、日本に帰る場所はなかったんだろう。子供を抱えて経営を続けてきたらしい。
彼女についてはいろいろと書きたいことがあるが、バグリポなのでここは割愛しましょう。簡単に言ってしまうと、人生どうにでもなる、ということだろうか。勇気づけられた。人生に迷ったとき、ベイルートに行く機会があれば、是非立ち寄ってください。
さあ、ここからはバグリポ再開。
７月２４日にバグダッドに戻ってきた。ウデイ・クサイ（ウダイではなく、ウデイだよ。なんで日本語になると発音変わるの？）のアンインストール成功のニュースはアンマンで見た。最初に見たのはmbcのニュースで、豪邸にRPG（Rocket Propelled Granade）が撃ち込まれるシーンだった。本当にウデイとクサイなのか分からんけど、ちょっと興奮するニュースだった。サダムの従兄弟とされる男がアメリカ軍に通報して、賞金の３０００万ドル（約３６億円）を手にしたらしい。どっちかと言うと、その賞金を手にした人の今後の生活が気になるニュースだ。
その後、いろいろなチャンネルを見ていたら、サウジのテレビ局がまったく同じシーンを放送していた。ただ、同じ時間、同じ場所で撮影したにもかかわらず、ファインダーの対象物は違っていた。サウジのニュースでは、アメリカ兵が野次馬に機関銃を発砲するシーンがメインに置かれていた。何の娯楽もないイラクでウデイ・クサイのアンインストールはイラク人にとってかなりの大ニュース。地元の人間が集まるのは当然だ。RPGが撃ち込まれた後、いきなり野次馬に向かってアメリカ兵たちは発砲した。そりゃ、ビビッテたでしょ、アメリカ兵も。でも、何の脈略もなしにいきなり人を殺しちゃいかんよ。テレビに映し出されただけで３人の野次馬が死んでいた。子供のいるところに向けて発砲するんだから相当怖かったんだろうな。その夜のバグダッド市内では１時間も祝砲が続いていたらしい。
随分と予定を繰り上げて二人の死体の写真が発表された。レントゲンでウデイの足の傷跡の一致が報告された。歯形の一致も報告された。しかし、彼らの口から出てくる言葉は「やっぱり偽物だよね」だ（じゃあ、何で祝砲なんてやるんだろうか）。アメリカは呑気に、これでイラク人も新しいイラクをイメージしてくれるというようなこと言ってるけど、イラク人は用心深いよ。景気がいいのはいいけど、アメリカの株価がこれで上昇したのは、ばかばかしい話だと思った。
なぜ二人を殺したのか。家の中には２人を含めて４人しかいなかったんだろう？ 反撃があったってそんなものは知れてるよ。逮捕して手錠をかけて、しょんぼりしている２人の背中を押して軍用ハマーに押し込める画をイラク人に公開する方がよっぽど効果的だ。なんで殺す？ 取り調べいらないの？ というか、殺してしまってもいいものなのか？ 終戦したんだろ？ 具体的にどういう理由で殺してもいいことになってるんだろうか。ハテナマークいっぱいの出来事だった。
戦争中にパレスチナホテルに泊まっていたジャーナリストがアメリカ軍に殺された時と同じで、アメリカに目をつけられたら簡単に殺されて、あっと言う間に世の中から忘れ去られるどころか、その疑問を問う声も小さい。それらの凶暴性を捉えれば、人間の盾がいかに無意味なことか。本人たちもメディアもそのばかばかしさにさえ気が付かない。
アラブにも二種類のメディアがある。大部分は前述のサウジの様な右翼的なニュース。もう一つは、イラク国内のニュースチャンネル。これらの違いは、後者がアメリカのスポンサードを受けていることだ。イラク人が自分たちの資金力でニュース番組を作ることは今はちょっと難しい。IMN（Iraq Media Network）は、自分たち独自のメディアを持たないイラク人を気の毒に思ったアメリカが支えてくれている。なんと親切なアメリカ。
死体の写真が公開された後の報道の仕方も違った。生粋のアラブメディアはあくまでも冷静に２人の写真が公開されたことを言及するにとどまった。IMNは、生前のウデイの放蕩ぶりを公開した。ウデイが過去の人だという意味づけと、彼らの贅沢、馬鹿息子ぶりを公開することが目的だったように思う。後者の目的は十分達せられたようで、ウデイが可愛がっていたライオンや虎に肉を与えているシーンを見ていたイラク人は「俺たちは肉も食えなかったのに、こいつらあんなに食べやがって！」と本気で怒っていた。後はウデイ主催のパーティの様子。３０人くらいの女性の中に男はウデイ一人で音楽に合わせて踊っている。花火は打ち上がるわ、派手な電飾で飾り付けされた様子は写るわで、イラク人の失笑を買っていた。参加している女性たちの大半は確かに美人だったけど、４０歳以上と思われる女性が多かったのが印象的だった。彼の嗜好が分かったような気がした。
休日の金曜日。再開したという動物園に足を運んだ。
戦後は、転売目的や食べることが目的で、残った動物は３匹だけだったらしい。今居るのは、主に犬。動物園じゃなくて犬小屋を見に来ているような気分。人影はまばら。それでも子供連れの家族がいて、ここでは珍しいアジア人の私は彼らからの熱い視線を受け取った。今いる動物たちもほとんどは暑さにぐったりしていて、病気も患っているようで、悲しい気分になってしまった。ウデイが飼っていた虎やライオンもいたけど、檻から１００メートルも離れたところに居て、何がなんだか分からんかった。動物園を維持していくのはすごく金がかかるだろう。なんせ人間が食べていけないような状況なんだから。それでもオープンさせたのは偉いなと思う。
【Photo】
動物園の入り口。入念なセキュリティチェック。この中にはウデイが可愛がっていた動物たちもいる。 動物園内の滑り台。調子にのって滑っていたら転げ落ちそうになった。男の子はそれでいい。
自家用ホブス（窯焼きのパン）を分けてくれた。が、おいしくなかった。 スイカを満載にして横転したトラック。30人ほどで何とか運転手を引っ張り出した。頭部がパンパンにはれた運転手は動かなかった。
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