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本書は、「監訳者解題」で訳者みずから「反面教師」だと書き、ほとんど「読んではいけない」としている珍しい本である。海外の書評も、みんなボロクソで、ここまで酷評されると、かえって読んでみたくなる。著者はイスラム学の権威として知られ、米国のチェイニー副大統領と親しく、ブッシュ政権の「ネオコン」的中東政策の理論的支柱になっているといわれる。この意味で、米国の対外政策を支えているイスラム理解がいかに自己中心的なものであるかを知るうえでは、読む価値があるともいえる。
著者の「自民族中心主義」をエドワード・サイードが『オリエンタリズム』できびしく批判したことは有名だが、当時はまだ洗練されていたイスラム蔑視の思想が、 90歳近くなって書かれた(というか大部分は講演録)本書では、露骨に出ている。全体に繰り返しが多く、論旨にとりとめがなく、タイトルにある「なぜ没落したか」という問いへの答はなく、終章に至っても、いろいろな仮説が並べられているだけだ。
大筋は「初期のイスラム教には知的な革新性があったが、ソ連と同じように硬直化してだめになった」というものだが、そのイスラムがかつて世界で最も高い文化を生み出したのはなぜか、また神学的にはほとんど同じキリスト教が近代化に成功し、イスラム教が失敗したのはなぜか、といった肝心の問いにはまともに答えていない。しかも中東を「反ユダヤ的」とし、欧州の帝国主義による侵略やユダヤ人の入植は問題にしないで、「没落を他人のせいにする」中東の弱さを批判する。
本書にみられるのは、碩学の話というよりは、平均的なユダヤ系米国人の中東やアジアに対する差別意識と、近代科学や「自由」「民主主義」への無条件の信頼である。老化すると人は幼稚化するというが、著者のような知識人でさえこのような幼稚な文明論にしか到達できず、しかもそれを根拠にして中東を「解放する」ために戦争を行う米国というのは、いつまでたっても成熟できない国なのだろう。
http://www003.upp.so-net.ne.jp/ikeda/Lewis.html