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トフラー夫妻の地球を読む 読売新聞2003/06/01
「殺さぬ武器」の効用 「無力化」手段 軍にも必要
アルビン&ハイディ・トフラー(米未来学者)
イラクの首都バグダッドに米軍が侵攻し、サダム・フセイン政権に終止符を打った時、盗賊達が、政府の建物や病院はもちろん個人住宅まで襲い始め、手当たり次第に物を奪った。まだフセイン支持者の残党狩りに忙しかった米軍は、その略奪に対して、ほとんど手段を講じなかった。そして、イラク市民や世界中のメディアから、厳しい批判を浴びたのである。
別に驚くべき事ではないが、この結果として米政府は、「新たな厳しい治安措置の下に、在イラク米軍は、現場を見つけ次第、略奪者に発砲する権限を持つことになる」と発表した。これを伝えた米ニューヨーク・タイムズ紙によれば、米政府当局者の一人は、「米軍は手始めに数人の略奪者を撃った。これは見せしめのためだ」と述べたという。同誌は、「財産や自動車に対する襲撃、暴力犯罪などに対しては、致命的な力で対処することになった」と言い切った。
だが、これで批判が止むなどと考えるのは、無邪気というものだ。米軍は、戦火への市民の巻き添えを最小限にするよう努めていると明言してきた。その米軍が、仕事のない絶望した若いイラク市民を殺せば、もっと大きな街頭での暴力を誘発するだろうと言う声が、直ちに上がったのである。
米政府は及び腰で、状況をあいまいなままに放置しているという報道が行われ始めたのは、その直後である。だが、まだ誰も質問していない問題が一つある。それは、当局の対応策として、無作為と殺人の二者択一しかないのはなぜかという問いかけである。その答えは過去10年間の長きにわたる米国防総省の怠慢の中に存在する。
そもそも略奪者を殺す必要があるのだろうか?あるいはまた、人質略取犯や暴徒を殺す必要があるのだろうか?彼らを気絶させたり、一時的に病気にしたり、眠らせたりして、その間に警官や兵士が武装解除を行い、盗品と武器を回収した上で、彼らを留置するか、ないしは家に帰して穏便にすませることは、できないのだろうか?
ちょうど10年前、筆者は戦争と平和運動の未来に関する著書の中で、軍事面での大変化を予言した。テロをはじめ、世界規模の脅威をを精査した上で、米軍に限らずすべての軍隊は、「特殊作戦」部隊に、より大きな関心を向け、より多くの予算を投じることになると論じた。これは正解だった。アフガニスタン戦争でも、その後のイラク戦争でも、「特殊部隊」が、これまでより大きな役割を演じたのである。
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「無力化」手段 軍にも必要
■「非致死」には幅
筆者はまた、戦争において人工衛星と宇宙空間の役割がどんどん増すだろうと予測した。これも正しかった。未来のあらゆる戦争でロボットの活躍を見ることになるだろうと指摘したのも、やはり当たっていた。
しかし、相手に致命傷を与えない兵器、すなわち非致死性武器が広く使われるようになるだろう、という予測は外れた。これは、流血を増やすことよりも、限定するように設計された武器のことである。もしこれがあったら、バクダッドでの略奪は、最小限の死者数で鎮圧できたはずである。
「いま地球上では、新たな軍備競争が始まりかけているのかもしてない。それは、致死性お最大化させるのではなく、最小化させる武器の促進である」と、筆者は書いた。そして、ゴム弾や「ティザー」とよばれる高電圧線発射銃ばど以外にも、鎮圧部隊は徐々に様々な選択肢を持つ必要性があると指摘し、ワシントンで非致死性の対物・対人武器の研究開発が行われていることを説明したのである。
実は「非致死性」という用語自体にも論議がある。設計段階の武器の中には、本当に非致死性のものもあるが、使用法を誤ったり、例えばゴムで覆った金属弾のように、余りに至近距離で使うと死亡させかねないものもある。ほかにも、服用量で致死性の度合いが変わるものがある。服用量が少なければ非致死性だが、多ければ死亡に至るものである。
こうした武器の中には、人間それ自体ではなく、建物や、道路、滑走路などの物理的目標を無力化するものもある。その一部は化学兵器である。そして、敵の手の落ちれば、極めて危険な存在となりそうなものが多い。
■開発遅れの理由
イラク戦争の際、国防総省は、軍事作戦が短期で終わることを予測し、それは的中した。さらに、イラク周辺の中東諸国でアラブ大衆の抗議が爆発し、現政権を打倒するようなことはないだろうととふんだのも正解だった。だが、残念ながら同省は、戦闘終了後に発生する大混乱の複雑さと危険性に関しては、例によって箇所評価していたのである。
かくして、10年前に提起された非致死性武器の大きな可能性は、いまだに日の目を見ていない。その使用法や限界、あるいは技術的、政治的な危険性に関する適切な公開論議もおこななわれてこなかった。そして、文化的、科学的、政治的、財政的な理由から、こうした兵器の開発は遅れているのである・
第一に、数千年にわたる軍事文化は、致死性を減らすのではなく、増やす方向で進んできた。現在でさえ、兵士達は殺す訓練を受けている。
つい最近まで、民間人の死傷を最小限にすることは、兵士の優先事項の一番最後だった。そもそも軍隊では、最大規模の兵員と最も大型で高価な兵器システムを指揮する戦闘経験豊富な将校に、地位と権限が与えられるのが常だ。従って、非致死性の兵器開発に回される人員と予算の割合はちっぽけなものでしかなかったのである。
第二に、直面する科学的、光学的な課題は、大方の予測よりはるかに複雑なものであることが判明した。
第三に軍の外部には、小さいながらも激烈な反対論がある。非致死性の兵器は、政府や警察が反政府分子や市民的自由の抑圧のために使う道具だと見なす人々の反対の声である。
第四に、モスクワで起きた劇場占拠事件で、チェチェン人のテロ部隊に対して、催眠性のフェンタニール・がすいの用量を間違えて使用した結果、129人もの死者を出したことが、非致死性兵器に対する支持をさらに損なってしまったのである。
だが、最近になって英国で起きた事件を契機に、この問題は一躍脚光を浴びることになった。リバプール警察が、日本刀を振りかざす男を射殺した一件である。この事件を報じた地元紙は、女性警官の一人が、電気ショックを与えて一時的に相手を無力化させる「ティザー」銃をもっと広範に使用すべきだと語ったことを大々的に伝えた。
■テロ時代に備え
ティザー銃があれば、「警察は銃火器を使用する必要なしに、また深刻な傷を与えること無しに、武装した犯罪者を効果的に制止する能力をもつ事ができる」と語ったというこの警官は、勤続13年のベテランで、また射殺された男の実姉でもあったのである。
あれほど様々な兵器システムを駆使してバグダッドを攻めた軍隊が、略奪者に対処するために、適切な非致死性武器を欠いているのは不条理である。何もしないか、さもなければ殺すという二者択一であってはならない。これから訪れるテロばやりの時代に備えて、この二つの選択枝の間の落差を埋めない限り、国防総省に限らず、すべての軍隊は高価な代償を払わされることになるだろう。
========参考=========
ドイツ人考古学者からのバクダット便り 萬晩報
http://www.asyura.com/0304/war34/msg/554.html
米国土安全保障省 ・反テロ訓練場:町を買い取って使用 毎日新聞
http://www.asyura.com/0304/war34/msg/601.html
米国防総省、テロ対策として「市民を監視する」システムを擁護 hotwired
http://www.asyura.com/0304/war34/msg/602.html