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From : ビル・トッテン
Subject : アメリカの政策と国益
Number : OW574
Date : 2003年5月16日
ニューヨークタイムズ紙に、オレゴンの高校が年間の授業日数を十七日短縮し、もうすぐ夏休みに入るという記事が掲載された。理由はオレゴン州の教育予算がないためだという。授業日数の短縮だけでなく、同学校区ではプログラムの削減、職員の解雇、学校の年間行事を減らすといった措置もとるという。富裕層を減税し、軍事費を増大し、その結果のしわよせが教育費削減となっている。
(ビル・トッテン)
アメリカの政策と国益
アメリカでは教育行政が国(連邦政府)ではなく州に委ねられており、各州に教育局がありその下に学校区があって、カリキュラムや始業日、終業日、休日などその学校区の裁量で決められる。
これまでオレゴン州は全米で最高レベルの教育を提供してきた州の一つだった。アメリカを襲っている不況のしわ寄せが国家の未来を左右する子供たちの教育制度にまで及び、学校で多くのことを学ぶべき高校生が州政府がお金がないという理由から早く家に帰されるという事態が起きている。大恐慌の時も、また第二次世界大戦の時にもアメリカで学校が閉鎖されることはなかった。今、アメリカでは教育という国家の基盤が軽視されている。
インテルをはじめとするハイテク企業を擁するオレゴン州では、税収の悪化などから州予算が激減した。全米平均の失業率6.4%に比べてオレゴン州は7.3%と全米で最悪を記録している。その結果、教育制度や健康保険、立法機関などに影響が及んだ。
これに先立って1月に、オレゴン州はこの事態を回避するために学校予算、病気や障害者といった、どうしても介護を必要とする人々のために使用するという特定目的のために、一時的に州所得税を増税する提案を行ったが、有権者はそれを拒否したのである。
国家とは永続的に存在するものとして、その国益を考える場合には子供たちや孫、ひ孫のことを考えて判断されるべきである。しかしアメリカにとっての国益は、大量破壊兵器を使ってイラクを攻撃して兵器産業を富ませ、中東の石油を確保することに尽きるようだ。
今、アメリカはここ半世紀で最悪の財政状況にある。食糧銀行に並ぶ国民の列はこれまでになく長い。アメリカのイラク攻撃による最大の被害者がイラクの子供たちであったように、アメリカ国内でも多くの子供たちが影響を受けている。アメリカの子供の16%、つまり6人に1人の子供は貧困の中で暮らしている。
これはアメリカ政府がもはや国民のためにではなく、特定の企業の利益だけを考えて国内政策も外交も行っていることの証である。もし真の国益となる国民のためを考えての政策であれば、安価な労働力や緩い環境基準を求めて海外へ生産拠点を移すのではなく、国民を貧困から救うために国内に雇用を、それもいくつ掛け持ちしても生活できないような最低賃金の職ではなく家族を養っていけるような賃金の仕事を国民に提供することを奨励してきたはずだ。そして人々がスムーズに仕事に就くことが出来るように、教育の拡充を優先させるだろう。
第二次大戦後、政府と政治家が自国の大企業、多国籍企業をもうけさせる政策が国益であり、国を富ませることになるとして国民もそれを素直に信じる仕組みが作られてきた。アメリカはそれを邁進し、日本もそれに倣って政策を行ってきた。
しかし、これが真の国民の利益につながらないことは両国をみれば明白である。増え続ける失業者、実質賃金の低下、政府の財政状況の悪化と累積する国家債務。豊かな国であるはずのアメリカや日本が財政危機に陥るのは、経済成長が鈍化し、国としての義務を果たすために必要な税収が得られないからである。
そんな中でブッシュ大統領は5月1日、空母艦上でイラク戦争の戦闘終結を宣言し、フセイン政権の打倒でイラク国民を「解放」した成果を強調した。そしてイラクの戦後復興を指揮する米復興人道支援室は暫定的な石油省の責任者を任命し、その顧問団トップに英・オランダ系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェル社の米国法人の元社長を任命した。イラクの石油をアメリカの国益にあわせて管理するためである。
ブッシュが解放し自由をもたらしたと誇るイラクで見られるのはアメリカに感謝するイラク人ではなく、抗議のデモであり、それを銃弾で抑制する米軍の姿だ。
4月28日、バグダッドの西のファルージャでは、中学校を接収した米軍に明け渡しを求めたイラク人に米軍が発砲、13人が死亡した。多くの記者が滞在していたホテルへ米軍が砲撃したときも、ホテルから攻撃を受けたと言い訳した米軍は、今回も武装した市民による銃撃戦を受け、自衛のために撃ったというおきまりの発表をした。
しかし現場にいたイラクのスンニ派モスク幹部は中学校に集まった群集の多くが子供と若者だったこと、そして住民側からの砲撃はなかったと話しているという(英BBCニュース)。
自国の学校教育を軽視する者には、イラクの中学校がイラク人にどんなに意味のあるものかも理解できないのであろう。それともアメリカ政府は、国民が無知なほうが支配が簡単だからと、意図的に教育をないがしろにしているのかもしれない。
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著作:株式会社 アシスト 代表取締役 ビル・トッテン
発行/翻訳/編集:株式会社 アシスト
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