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イラク戦闘終結:米国流正義に疑問 大義問われる日本  [毎日新聞]
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投稿者 あっしら 日時 2003 年 5 月 03 日 03:19:27:


 ブッシュ米大統領が1日、米空母艦上で行ったイラク戦争での「戦闘終結」宣言は、世界最強の軍事力を背景にイラクに親米政権を樹立し、アラブ世界に「自由と民主主義」を広げ、中東和平問題にも同じスタンスで臨むという強いメッセージだった。しかし、戦争の大きな目的だった大量破壊兵器除去では、同兵器自体が見つかっていない。もう一つの目的だったイラク国民解放も、民主政権樹立の道筋は見えていない。大統領の米国流正義は、イラク攻撃を正当化する「つじつま合わせ」の側面を否定できない。その正義に乗った日本政府の米国支持も改めて大義が問われることになりそうだ。

 ブッシュ演説の奇妙な論理は、あまりにも歴然としていた。

 イラク戦争を支持してきた米紙ワシントン・ポストも2日付朝刊1面の記事で、大統領が「自由の大義と世界平和のために戦った」と主張し、戦闘勝利を「テロとの戦争」における決定的前進と位置付けたことに疑問を提示した。大量破壊兵器を発見できない問題を回避する強引な論理が際立っているからだ。

 だがその強引さは、それ自体がメッセージであるとも言える。

 ブッシュ大統領は演説で、イラクに親米政権が樹立され安定するまでは米軍が保護する方針を明示した。と同時に、01年9月の米同時多発テロの直後に打ち出した、国際社会を敵と味方に二分する論法を繰り返した。

 「テロ集団と関係し、大量破壊兵器を求める無法者政権は、文明社会にとって重大な危険であり、(米国との)対決に直面するだろう」

 これをポスト紙は「シリア、北朝鮮、イランなどへの警告」と解釈した。だが、それだけではない。大統領は「アラブ世界を含む地球上の誰であれ、自由のために働き、犠牲となる者は米国に誠実な友を得る」とも述べた。米国が振る「自由」の旗に従わないなら敵だ、という意味にもとることができる。

 大統領はさらに「我々はアフガン、イラク、平和なパレスチナでの自由に献身している」とも語った。米国はパレスチナ国家樹立とイスラエルとの平和共存に向けた「ロードマップ」を公表したばかりだが、パレスチナが自爆テロを続けるなら許さないという文脈だと解釈できる。

 チェイニー米副大統領は1日、大統領演説に先立ってワシントンで講演し、91年の湾岸戦争に続いてイラク戦争で示された米軍の圧倒的な力量を絶賛。「人民の、人民による、人民のためのイラク政府は、ほかの中東諸国に対する劇的な模範となる」と予言した。

 「親米的なイラク政府は」と読み替えれば、その意味がもっとはっきりするだろう。【ワシントン中島哲夫】

 ブッシュ大統領の誇らしげな「戦闘終結」宣言とは裏腹に、イラクの新政権づくりは難航必至の情勢だ。米国が呼びかけた反フセイン各派の会合は政権崩壊後、すでに2回開催され、「4週間以内に暫定政権作りのための全国会議が開けるよう全力を挙げる」との声明を出している。だが、これは一種の「努力目標」に過ぎない。大統領が掲げた「イラクの人々による、人々のための政府樹立」の道は遠い。

 バグダッド中心部の喫茶店員、バーシム・アリさん(25)は「街中のあちこちに米兵がおり、イラクの占領が続いているようでは、戦争が終わったとは言えない」と話した。「市内では襲撃事件が頻発するなど、治安は最低だ。これではフセイン政権の方が安全だった」と不満気だ。

 新政権づくりが難航する背景には、イラクで多数派を占めるイスラム教シーア派教徒の思惑がある。シーア派組織「イラク・イスラム革命最高評議会」(SCIRI)バグダッド事務所のマーハル・アルハムラ所長補佐(47)は、ブッシュ演説に対して、「次の政権下ではすべての宗教的自由が認められ、イスラム教徒の統一が成し遂げられるだろう」と一見、前向きな反応を示した。

 だが、フセイン政権下では冷遇されていたシーア派の中には、イスラム的統治の実現を夢見て、それを嫌う米国のやり方に反発する声も強い。「反フセイン」では一致しても、米国とは同床異夢の状態だ。

 また、シーア派組織や共産主義者らは国連の関与を求めるが、クルド組織には「フセイン政権時代、国連は何もしてくれなかった」とする感情があり、反フセイン派が国連主導でまとまることも考えにくい。

 暫定政権づくりを支援する米軍筋は「フセイン政権下で24年にわたり、民主的手続きを経験してこなかったイラクの人々にとって、話し合いで結論を出すのは簡単ではない」と打ち明ける。「最後は米国の考えを、ある程度押し付ける形でしか暫定政権はできないのではないか」(外交筋)という見方もあるが、米国がうかつに圧力をかければ、反フセイン派の緩い連帯を台無しにしかねないのが実情だ。【バグダッド小倉孝保、竹之内満】

 テロリストに渡る前にイラクの大量破壊兵器をたたくという米のシナリオに乗った政府だが、開戦後、米国は「フセイン政権打倒」の方に力点を置いた。一方、日本の本音もイラクよりむしろ北朝鮮の大量破壊兵器の脅威だったことが鮮明になった。終結宣言を歓迎する政府の対応からは、この戦争の「大義」が日本にとっても様変わりしたことがうかがえる。

 開戦日、小泉純一郎首相は談話で「大量破壊兵器の拡散防止が極めて重要」と強調した。

 ところが、ブッシュ政権の戦争の大義名分は次第に「イラクの人々の解放」に移り、「フセイン政権打倒」「中東の民主化」に変わった。

 フセイン像が引き倒される前日の4月8日、小泉首相は「(大量破壊兵器は)ま、いずれ見つかると思います」と淡々と語ったが、既にこのころから日本は復興に向け走り出し、戦争支持の正当性は置き去りにされた。終結宣言の2日、茂木敏充副外相は記者団に「大量破壊兵器の捜索は始まったばかりだ。イラクに大量破壊兵器がある疑いは濃く、今後も注視していきたい」と強調。政府関係者も「米軍は農園など大量破壊兵器の隠し場所を把握している」と自信をのぞかせたが、楽観論の背景にあるとみられる米政府情報の正しさが果たして立証されるかは定かではない。

 イラクで米を支持した代わりに、北朝鮮問題では米が日本の立場に配慮してくれる――。政府はこんな展開を描いた。先月下旬の北朝鮮の「核兵器保有」宣言はまさに試金石となるが、核保有発言は逆に、日米両国内で強硬派と柔軟派の綱引きを激化させている。

 こうした中、アフガニスタンの対テロ戦争をめぐって防衛庁は1日の日米調整委員会での米側の要請を受け、自衛隊のアラビア海派遣期間を半年延長して11月1日までとすることにした。ところが同じ1日、ラムズフェルド米国防長官はカブールで対テロ戦の終結を宣言した。防衛庁幹部は「作戦全体が終わるわけではなく状況が劇的に変わることはない」と自衛隊の対米支援を続ける方針だが、イラク戦争もアフガンでの対テロ戦争も、なし崩しの対米追随の懸念をはらむ。 【及川正也、宮下正己】

 【アテネ前田浩智】小泉純一郎首相は2日午前、イラクでの戦闘終結について、「予想していた中でもっとも短期で終結してよかった。米英をはじめたとした連合国に敬意を表したい」と歓迎した。「日本も廃虚の中から、国民の力と国際社会の援助によって、今日の発展をみた。この戦争にめげず、自由な環境の下で国づくりに立ち上がるイラク国民の意欲をできるだけ支援したい」と語った。アテネ市内のホテルで、記者団の質問に答えた。

[毎日新聞5月3日] ( 2003-05-03-00:36 )


http://www.mainichi.co.jp/news/flash/kokusai/20030503k0000m030121000c.html


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