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From : ビル・トッテン
Subject : アングロサクソンは人間を不幸にする
Number : OW572
Date : 2003年5月2日
2000年9月、私は「アングロサクソンは人間を不幸にする」という本を出版した(今年2月にPHP文庫版が刊行された)。本ではアングロサクソン(英米人)が作りあげた資本主義という経済システムを日本がやみくもに取り入れていることに対して、戦後、市場経済を標ぼうしながらも独自の経済システムを発展させ、その中で利益を大多数の国民に分配し、皆で共に豊かになる社会を築いてきた日本には合わない、国民が不幸になるだけだという内容のことを書き記した。そしてアングロサクソン流資本主義の申し子、アメリカ400年の歴史の中で、アメリカ国民にどのような「不幸」が積み重ねられてきたのかも検証した。 今、アングロサクソン、すなわち米英軍がイラクに行った軍事行動を目にして、アングロサクソンは人間を不幸にするというフレーズが私の中に再び沸き上がっている。
(ビル・トッテン)
アングロサクソンは人間を不幸にする
まず誤解のないよう最初に断っておくが、私はサダム・フセインやその独裁政権を支持しているわけではまったくない。イラク国民は抑圧され、民主国家とはほど遠い状況であったのは事実だろう。しかしいかなる国家もみずからの政体を選ぶことができる。他国の政府が非難したり、武力によって『米国流民主主義』をイラクに移植することなど不可能であるし、してはならない。イラクにはイラク固有の倫理があり、宗教があり、憲法があるからだ。
アフガン戦争の後、ブッシュ大統領は対テロ戦争の拡大と本土防衛の強化を強調し、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼び始め、中でもサダム・フセインに対しては極悪非道、怪物といった言葉を使って敵対心をあおり始めた。アルカイダやビンラディンとの関係を示す確証がないにもかかわらず「9月11日を忘れるな」がイラク攻撃をあおるスローガンとなった。武力だけでなく、今回の攻撃ではマインド・コントロールにおいてもアメリカの力は絶大だった。
イラク侵攻を正当化するために、アメリカがイラクの大量破壊兵器の保有を「ねつ造」する可能性があると私が思ったのも、1991年の湾岸戦争以後、国連監視の中、核兵器などの大量破壊兵器を開発・使用できる環境にはなかったというのが大方の専門家の見方だったからである。アメリカが国連も無視してその危険性を叫びながら爆撃を始めた、その大量破壊兵器はいまだに見つかってはいない。最初からなかったのか、それともどこかにうまく隠したのか、もはやそれもどうでもよいことなのかもしれない。なぜならイラク侵略の大義はいつのまにか「イラク国民の解放」となっていたからだ。
日本の新聞でも、在日イラク人の率直な声として「犠牲は自由の代償」などという記事を掲載したところがあった。この報道は何を意味するのか。自分が自由になるために、イラクに住むイラク人が米英軍に家族を殺されることは仕方がないと、そのイラク人はほんとうに語ったのだろうか。
今回、イラク攻撃の報道の多くはペンタゴンの発表だった。開戦まもなくアメリカ政府のおかかえメディアであるCNNにイラクが報道統制を行うと、それは「イラクは悪態をつきながら国外退去処分を我々にいいわたした」(CNNロバートソン記者)という記事となった。そのCNNテレビはバグダッドに向け進撃を続ける米陸軍の戦車部隊が砂漠を猛スピードで縦走する光景を生中継するなど、ハリウッド映画のような映像を提供した。
米英軍に属さず独自に取材をしていたイギリスのテリー・ロイド記者は、米軍戦車の砲撃を浴びてイラク兵十数人とともに死亡した。カタールの衛星テレビ局アルジャジーラのバグダッド支局は、米軍の攻撃を受け記者二人が死傷した。多くの記者が滞在していた「パレスチナホテル」へ米軍が砲撃して二人が死亡、三人が負傷した。米陸軍司令官はホテルからイラク軍の攻撃をうけたために戦車が砲撃したことを認めたが、多くの目撃者はホテル内から米軍への攻撃はなかったと証言した。
従軍記事者とは一線を隠して中立な報道を試みたメディアへの攻撃が意図的なものかどうか、もはやここで私が問うても仕方がない。全世界で反戦デモが行われる中、ちっぽけなイラク軍に向けて世界最強最大の大量破壊兵器を持つ米英軍が「衝撃と恐怖」の爆撃を浴びせる。市場を誤爆して民間人を殺傷し、住民の半数が子供の村を爆撃し、米英軍が誇らしげに解放したというバスラでは米英軍が水施設への電力供給を破壊し、イラクのバスラへの食料分配組織を妨害し、人々が餓死しつつある。アメリカが報道統制を必要としたことだけは間違いないからだ。
今回のイラク攻撃で米英の敵となったのは、イラク軍だけではなく戦争に反対する私や、その他世界の多くの人々だった。最新兵器が炸裂する場面ばかりを繰り返し報道し、いかに精巧な兵器であるかを強調しても、インターネットの時代に多くの負傷したイラク人や解放され喜んでいるはずのイラク人が米軍に立ち向かっていく姿を隠すことは容易ではなかった。そして私たちはアングロサクソン軍がイラクに対してとった行動の多くを知ってしまった。
昭和20年、戦争を終結させるという理由でアメリカは広島と長崎に原爆を投下し、多くの日本人を殺害した。ベトナム、リビア、イラク、アフガニスタン・・・。アメリカの政策はそれ以後もずっと変わっていない。今回、アングロサクソンの軍隊によってイラク全土は壊滅した。「早く核武装しなければ、やられる」。これがアメリカに敵対する国の政府に与えた教訓の一つになったにちがいない。
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著作:株式会社 アシスト 代表取締役 ビル・トッテン
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