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イラクの大量破壊兵器保有 根拠薄弱だった米の主張
斗ケ沢秀俊(北米総局)
◇戦争の正当性に疑問
イラク戦争開戦から1カ月以上たった今なお、大量破壊兵器が見つからない。「化学兵器工場の疑いのある施設を米軍が発見」との報道が相次いだが、空振りに終わった。開戦前から現在に至る動きを検証すると、ブッシュ米政権が主張した「イラクの大量破壊兵器所有」がいかに根拠薄弱だったかが浮き彫りになる。
フセイン・イラク政権の化学兵器使用を示す事件に、「ハラブジャの悲劇」がある。イラン・イラク戦争末期の88年3月、イラク北部にある少数民族クルド人の町ハラブジャで、イラク軍が化学兵器を使って、住民約5000人を殺害したとされる事件だ。パウエル米国務長官は2月の国連での報告で「クルド人に対するマスタードガスと神経ガスの使用は、20世紀の最も恐ろしい虐殺の一つだ。5000人が死亡した」と非難した。米政府広報誌にも同様の記述がある。
日米メディアはこの事件を明白な事実として報道しているが、疑わしい点がある。ハラブジャはイラク、イラン両軍の激しい戦闘の舞台になっていた。米中央情報局(CIA)分析官の経歴を持つペレティエ米陸軍大教授(当時)らは90年の報告書で「両軍が化学兵器を使った。現実にクルド人を殺したのはイラン軍の爆撃である可能性が高い」と指摘した。ペレティエ氏によると、死者はシアン(青酸)ガス中毒の兆候を示していたが、シアンガスを使っていたのは、イラン軍だったという。
死者数も疑問だ。化学兵器を搭載した爆弾を投下して、数千人を殺害することは難しい。神経ガスは拡散してしまうし、マスタードガスは皮膚をただれさせることが主作用で、致死性は低い。昨年10月のCIA報告書はハラブジャの事例を「死傷者が数百人」と記している。
イラク政府は当時、イラン軍への化学兵器使用を認めており、住民にも被害が出たことは疑いえない。しかし、「死者5000人」はイラクの非を誇張する目的の、虚偽の数値である可能性が高いと思う。
もう一つ例を挙げたい。昨年9月、ブッシュ大統領が国連演説した際に公表した文書「欺まんと反抗の10年」に、「イラクは95年、高級幹部の亡命後、スカッドミサイルの弾頭用として炭疽(たんそ)菌、ボツリヌス菌など数千リットルの菌を製造している事実を認めた」との記述がある。イラク政府が95年時点での生物兵器製造を認めたように読める。
CIA報告書にもほぼ同じ文面がある。ただし、最後に「湾岸戦争前に」と書かれている。91年の湾岸戦争前に製造していたことはイラクが認めていた。この一言のあるなしで、全く意味が違ってしまう。
ここに挙げた二つの例が意図的な誇張やわい曲でないとすれば、いかにもお粗末と言わざるをえない。
「イラクの大量破壊兵器所有」の根拠の薄弱さは開戦後、一層明確になった。3月23日、米FOXテレビが「米軍がイラク中部のナジャフで化学兵器工場の疑いのある施設を発見」と報じて以降、10件前後の「発見報道」があった。
いずれも化学物質を扱う施設に立ち入った軍幹部の推測を、従軍記者が検証抜きに伝えた報道で、短期間のうちに否定された。多くは国連監視検証査察委員会の査察チームが調査済みの場所で、米軍やメディアに多少の注意深さがあれば、誤報しなかったはずだ。
「大量破壊兵器は必ず見つかる」と主張していたラムズフェルド米国防長官でさえ「初期の報告はたいてい間違いに終わる」と報道陣に自制を促した。
イラクのサーディ大統領顧問は今月12日の投降前、ドイツの公共放送ZDFに「大量破壊兵器開発計画は昔の話だ。今は何もない」と断言した。95年に米国に亡命したフセイン大統領の長女の夫フセイン・カメル氏も「生物・化学兵器は廃棄した」と述べていた。
米海軍出身の国連査察官だったスコット・リッター氏は各地の講演で、「査察で大量破壊兵器を廃棄した。今もあるとは考えにくい」との見解を示している。国防総省の会見では「米軍が生物・化学兵器を持ち込む恐れはないか」と、ねつ造を懸念する質問さえ出た。
「大量破壊兵器の武装解除」は米政府が掲げた戦争の最大目的だった。日本が戦争を支持した表向きの理由も同じだ。大量破壊兵器の不在は、戦争の正当性に疑問を投げかけている。今後、少量の化学兵器材料が見つかったとしても、それは米政府が確かな根拠なしに開戦し、日本政府が追随したことへの免罪符にはならない。大量破壊兵器の有無に最後までこだわりたい。言い訳やねつ造に注意を払いながら。
http://www.mainichi.co.jp/index.html
http://www.mainichi.co.jp/eye/kishanome/200304/29.html