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朝日新聞から
バクダッドの博物館略奪は計画的との見方が強まる
【バグダッド=国末憲人】
バグダッドのイラク国立博物館が略奪の被害を受け、貴重な文化財が失われた事件は、専門知識を持つ組織による計画的な犯行との見方が強まっている。奪われた文化財は美術品の密売ルートに乗せられる恐れがあり、専門家は監視強化を呼びかける。国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、被害総額は「換算不能」。ただ、被害の実態にはまだ不明な点が多く、ユネスコは近く現地に調査団を派遣する。
博物館に21日、入った。略奪後に配置された米軍の戦車4両と米兵数十人が厳重に出入り口を固める。「荒れて足の踏み場がない」として本館には入れてもらえず、別館の内部に案内された。
別館の3階展示室は、壁が米軍の戦車砲弾に貫かれ、れんがとガラス片、展示品が床に散乱。兵士らによると、8日に戦闘があり、館内に陣取ったイラク軍側が別館屋上から米軍に発砲したため、応戦したという。
荒廃した館内の収蔵品のうち、特に専門家が心配するのは、シュメール王朝や古バビロニア王朝時代の楔(くさび)形文字の粘土板だ。計8万点が失われたとの説もある。古代メソポタミア文明研究にとって大きな損失となる。
AFP通信によると、国際刑事警察機構(ICPO)文化財・骨董品盗難問題の専門家カルル・ハインツ・キント氏は、収蔵品約20万点のほとんどが奪われたとみる。一方、博物館の重要な展示品は実はレプリカで、「本物は国立銀行の金庫に保管されていた」との説もある。紛失が懸念されたシュメール王朝の墳墓やアッシリア王朝の都市からの出土品は、金庫に残っている可能性が高いという。ただ、銀行自体も襲撃され、実態把握はお手上げ状態だ。ユネスコの呼びかけでパリに集まった専門家の間では、周到に計画された組織的犯行という見解が強まっている。「価値のある物を狙い、そうでないものには関心を示さなかった」「爆撃などに備え一部の収蔵品を保管していた地下室に、だれかが手引きした」。そんな形跡が報告されているからだという。
米シカゴ大学のマクガイア・ギブソン教授は略奪が2段階を経たと考える。まず、組織された窃盗団が混乱に乗じ、夜間忍び込んで金目の収蔵品を持ち出した。その後で市民や若者たちが乱入し、内部を荒らした。
盗品は日本や米国、湾岸諸国の個人収集家に売却されるケースが多いという。今回も、すでにフランス国境の税関でイラクからの可能性がある文化財が見つかった。
イラクの考古学者らは、博物館を守らなかったとして米軍への非難を強める。国立博物館勤務のドニー・ジョージ氏は「人類の将来に影響する犯罪だ。米国には、もっと大切なものがあったということだ」と述べた。
英オブザーバー紙は20日、米国防総省傘下の「復興人道支援室」(ORHA)が戦争中の3月26日、国立銀行に次ぐ優先順位で国立博物館を保護するよう米軍に要請していた、と報じた。同紙によると、ORHAは「収蔵品は貴重な宝で、数人の兵士と、1、2台の戦車で十分守れる」と主張したが、米軍側に結果的に無視されたという。
(朝日新聞4月22日朝刊)