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イラク戦争には「陰の勝者」がいる。メディア王ルパート・マードック氏率いるFOXグループだ。戦争報道での視聴率で、湾岸戦争時の主役CNNを抜き去った。CNNと異なるのは「政権寄り」の姿勢だ。戦意をかきたてる番組づくりで、70%を超えるブッシュ大統領の支持率にも貢献した。FOXが米視聴者に植え付けたものは−。
ニューヨーク州キングストンに住むジョン・クックさん(77)は「ニュースはよく見るがFOXが一番信頼できる。最も真実を伝えている」と言い切った。
FOXは、イラク戦争の「特ダネ」争いで米メディアをリードしている。
バグダッドのフセイン宮殿に突入する米兵らを臨場感たっぷりに伝える「独占生中継」では、銃を構えて小走りする米兵らをカメラが、前から横から、あらゆる角度でとらえた。映画のような映像だった。
戦争を伝えるニュース番組のタイトルはずばり「イラクの自由」。米軍の作戦名そのままで、「FOX」のロゴには星条旗をあしらう。米軍快進撃の模様は繰り返し報道されるが、イラク側の犠牲者などはほとんど紹介されない。「イラクが生物兵器運搬に使用していた車両を米軍が発見」といった“特ダネ”は、いの一番に報じる。
かつて兵役を体験したというクックさんは「独裁者のフセインに殺されたイラク人が何人もいる。そのイラク人を助けている米国の姿を正しく伝えてくれている。米国人が最も欲しているのは平和な世界だ。そのために戦っている。われわれの意見をちゃんと反映している」と絶賛した。
フロリダ州デラリー・ビーチの会社員キム・ウィリアムさん(49)も「CNNはリベラルに傾いている。FOXは私たち米国人のためのニュース番組だと思う。会社の同僚もよく見ているし、特に若い人たちがFOXを見ている」と話す。
FOXグループのうち、ニュース専門のケーブル局「FOXニュース」は、イラク戦争開戦後一週間の視聴者数で、一日平均約四百四十万人を獲得し、CNNを約七十万人上回った。
グループは地上波のFOXテレビも持つ。こちらはバラエティー番組で愛国心をあおる。人気のオーディション番組「アメリカン・アイドル」では、最終選考に現役の海兵隊員が残り話題になった。海兵隊が「番組では海兵隊を代表してよく頑張っている」とコメントするほどだ。
最終選考に残った十人が番組内で「God Bless the USA」と題した愛国歌を合唱する場面もあった。この歌はすぐにCD化された。
■CNN抜き去り3大ネット崩す
ちなみに大衆受けする番組は十八番だ。四月中旬から開始予定のお見合い番組ではクリントン前大統領との不倫で知名度の高いモニカ・ルインスキさんを司会に登用する。
地上波の方も、最近では視聴率でABCを抜き三大ネットの一角を崩した。
米メディア評論誌「アメリカン・ジャーナリズム・レビュー」は今月号で「FOXは驚くべきスピードでライバル(CNN)を吹き飛ばした」と評した。
両局の人気トークショー番組「ラリー・キング・ライブ」(CNN)と「オライリー・ファクター」(FOX)がその違いを象徴しているという。
「キングはどんな人が来ても対立的ではないが、ビル・オライリーは口を極めて攻撃する。キングが思想を主張しないところで、オライリーは自分の見解をどっさりと盛り込む」
■映画会社ルーツ80年代「傘下」に
例えば、オライリーは戦争に反対している有名人を名指しし「彼らの映画やCDをボイコットすべきだ」と激しく批判した。
FOXグループは、一九一五年にハンガリー出身のウィリアム・フォックスが設立した映画会社がルーツだ。八〇年代にオーストラリア人のメディア王マードック氏のグループ傘下となり、まず地上波のFOXテレビが米三大ネットワークに匹敵する力をつけた。九六年にはケーブル局FOXニュースが創設された。
放送プロデューサーのデーブ・スペクター氏は、FOXについて解説する。
「地上波のFOXテレビは、娯楽性の高い番組が多くブルーカラーの視聴者が多いテレビだった。しかしこの戦争でテレビに娯楽だけを求める層を“米国応援団”として取り込んだ。FOXの視聴者は、若い世代の保守派が多い。世界各地で反米感情が高まる現象にいらだち、米国を応援したくてニュースにも目を向けるようになった」
その上で「CNNは、中立を維持するために八方美人的報道しかできず、しっかりした方向性を出せなかった。米中枢同時テロ以降、国粋主義的な考えが主流になっており『米国防総省の中から中継している』とからかわれるFOXの方に真実性を感じ支持されるようになった」とも。
明治学院大学の川上和久教授(メディア論)も「視聴者が求める面白さを追求する姿勢を貫いている。それに三大ネットでカバーできない田舎での視聴が多く田舎は保守的志向が強い。今回の戦争でキリスト教原理主義的な視聴者を獲得した。『強い米国を確認したい』という気持ちで所得層に関係なく支持された」と指摘する。
さらに「政府方針とFOXの放送が車の両輪になり愛国的な世論を形成していった。テレビ映像では、より単純に情緒に訴える手法が一番効果的だ。昨年の国連決議などからイラクと戦争になると確信し、愛国心をあおる放送を開始する目ざとさが印象に残った」
立教大学の門奈直樹教授(ジャーナリズム論)は、マードック氏の影響について言及する。
「“メディア商人”といえるマードック氏の手法とは、主義主張に関係なく、ビジネスに都合のいいように政府高官に言い寄る作戦だ。英国のサッチャー首相時代にはマードック氏が経営する英国の衛星放送は『マギー(サッチャーの愛称)のメディア』と揶揄(やゆ)された。労働党のブレア政権になってもうまく取り入り、メディアの寡占規制を緩和させる法案を勝ち取っている。最終的な狙いは中国市場で、中国政府に取り入るために、中国人女性と結婚している。広東省で認可を受けるなど、中国でも着々と地歩を固めている。米国政府べったりの姿勢も、米衛星放送最大手ディレクTVの経営権取得につながった」
■「編集と経営の分離原則破る」
「強烈な『エログロナンセンス路線』『大衆迎合路線』でニュージーランド、英国で大成功を収めてメディア帝国を拡大させた。大衆受けするなら何でも取り入れるという基本思想は今も変わっていない。メディアは経営権と編集権が分離されていたが、その大原則を破ったのがマードック氏だ。中立報道が望めるはずもなく『ジャーナリズムは死んだ』といわれるが、現実には、世界五十三カ国で事業を展開する帝国を確立している」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20030421/mng_____tokuho__000.shtml