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イラク戦争:明暗分かれる国際世論 英インディペンデント紙から
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フランスやドイツなど今回の戦争に反対した欧州諸国もフセイン政権の崩壊そのものは歓迎した。アラブ諸国では米軍がバグダッドを占拠したことへの衝撃が広がり、識者は「まもなく抵抗が始まる」と予想するが、アラブ諸国の独裁的指導者一般に対する市民の批判の声も出始めている。アジアのイスラム諸国の間でも反米感情が募っているが、米国は「勝利」の報道に沸きかえっている。英紙インディペンデントが4月11日に伝えた「イラク戦争終結」をめぐる各国の表情を再録する。(TUP速報=ベリタ通信)
■欧州とロシア(モスクワ発=ジョン・リッチフィールド&フレッド・ウェア)
フランスは昨日、フセイン政権崩壊を歓迎する一方で、イラクの経済と「完全な主権」の早期回復に国連が関与するよう呼びかけた。フランスは、国連のイラク戦争承認に対する反対の先頭に立ち、首尾よく要求を貫いたのだが、シラク大統領は昨日、イラク体制の崩壊を嘆いていないと明言した。
「フランスもあらゆる民主主義国家と同様に、フセイン独裁政治の終焉を良いことだと思っている。そして戦闘が早期に、首尾よく終結することを望んでいる」とエリゼ宮殿からの声明は述べている。
「完全な主権」にふれたことは、フセイン後のイラクにどのような政府が現れようとも、アメリカはそれに対する政治的・経済的影響力を維持しようとするのではないかというアラブ世界とも共通の、フランスの懸念を示している。
フランスはまた、イラクの政権転換が中東民主化のさきがけになるというアメリカの短絡的な見方から距離を置く姿勢を意識的にうちだしている。アメリカは今こそ、パレスチナ国家実現に向けての譲歩をイスラエルに迫ることにより、中東和平プロセスの再開に力を注ぐべきだとの考えを、イギリスとともに、示している。
フランスのドビルパン外相は、こう発言した。「サダムフセイン政権の崩壊とともに歴史の暗い一ページが閉じられて、我々は喜んでいる。今はイラク国民が心に抱いている願いが、やがてこの地域全体の願いへと発展すると、我々は請け合わなければならない。だから我々は、イスラエル・パレスチナ紛争の和解に向けて前進
することに重きを置くのである」
同様に独裁政権の終焉を歓迎するコメントは、ヨーロッパで戦争に反対した他の主要国、ロシアとドイツからも、発表されている。シラク大統領は今日、だいぶ前から予定されていたプーチン・ロシア大統領、シュレーダー・ドイツ首相との会談のためサンクトペテルスブルグに向かう。
イラク侵略の決定に反対するロシアの姿勢には、主にソ連とロシアの武器で武装したイラク軍があまりに早く壊走したことに対する驚きもないまぜになっている。
1990年代初めに副国防長官だったビタリ・シュリーコフは、「これは、ロシア軍部にとって厳しい教訓である。イラク陸軍はロシア陸軍に倣って作られたので、それが容易に敗北するとはロシア軍司令部は予想していなかった。現在、ロシア軍幹部はこのことに目を閉じており、現実を受け入れようとはしない。しかしイラク敗北のおかげで、ソ連が作り上げた軍事機構を解体しロシアのための軍近代化に取り組むべきだとする改革派の主張が力を得るだろう」
■アラブ世界(ラマラ発=サイード・ガザリ)
バグダッドの敗北はアラブ世界全体にわたって傷跡を残すだろう。ラマラのパレスチナ人にとって、今回の敗北がもたらした反響は、1年前の、イスラエル兵士が多くの難民キャンプを破壊したジェニーンでの戦いのとき、若者たちが広場で歌った歌よりも激しい。
アメリカ軍の戦車の助けを得て、バグダッドの広場でサダムフセインの銅像を倒すイラク人の映像は、ペルシャ湾からカサブランカに至るまでの2億9千万のアラブ人に衝撃を与えた。
「イラクの人々はこれまでの政権に対する憎しみと怒りを吐き出しているが、自分達の国土からアメリカが立ち去らなければ、じきに米軍と戦うことになるだろう」と、パレスチナ人の弁護士、ヤジード・サワフタは言う。
「これは地震だ」と、アルジャジーラの番組でアラブ問題のアナリスト、カサーム・ジャーフェルは語る。「フセイン政権はすぐに崩壊した。我々は現実的になるべきだ。バグダッドでこの変化を起こすのにアメリカの戦車はいらなかった」。人々は、サウジアラビアからエジプトまでを含めたアラブ諸国の政権にとっての、この敗北の意味をつかもうとしていた。
「フセイン政権の敗北は、全てのアラブ諸国のアラブ政権の敗北であって、アラブ諸国民の敗北ではない。アラブ諸国の指導者はみな嘘つきで、対敵協力者だ、泥棒だ」と、菓子店を営むパレスチナ人、ホスニ・アル・ゼインは言う。「私はアルザイームを信じない」。アルザイームとは、アラビア語で絶対君主を意味し、多くの人の口にのぼる言葉である。
「我が祖国はアルザイームのものではない」アルジャジーラ放送でジャーフェル氏が言う。「我が祖国は、国民と国民に選ばれた政府のものだ」
まもなく抵抗運動が始まるだろう、と何人ものアラブ人解説者は言う。「以前、イラク国民は“我々はサダム・フセインに魂と血を捧げる”と叫んでいた。しかし、明日からは“我々はイラクのために魂と血を捧げる”と叫ぶだろう」と、これもアルジャジーラの解説者の一人、マヘル・アブドゥラが言っている。
「これは全アラブ民族の敗北だ」ラマラに住むフドナ・ガネムの言葉である。「なぜサダム・フセインが戦わなかったのか、それがわからない」
その答えはロンドンで発行されているサウジアラビアの新聞アルシャルク・アルアウサットに見られる「サダムフセインは殉教者でもなければ、国民的英雄でもない。イラクよりも自分自身を愛したからだ。だから自分の国のためには戦わなかったのだ」
エルサレムに住むパレスチナ人、アブド・アルラヒム・アルバグダディは言う。「我々はフセイン政権の崩壊に泣いているのではない。我々が泣くのは、アメリカ軍がバグダッドを占拠したからだ」
カイロを本拠地とする日刊紙アルジュムフリアの中でサラメフ・アハメド・サラメフは書いている。「新たにアメリカ人統治者とその側近、イギリスの植民地主義者たちがイラクの資源を支配するようになれば、イラク国民の屈辱はピークに達するだろう。負った傷はあまりに深い。その重大な帰結は今後一世代にわたって続くだろう」
■アジア・オーストラリア(イスラマバード発=ジャン・マクガーク(イスラマバード)
昨日のアジア・イスラム教諸国の新聞の見出しや世論には、米国に対する強い不信感が現れており、この「植民地戦争」の犠牲者が焦点を当てられていた。
パキスタンでは、ザ・ネーション紙が「バグダッド中心部での米軍戦車・・殺人と破壊の正視に耐えない光景」を伝えている。同紙はその社説で「結局、イラク人には従属的な地位を、国連には中心的役割以外ならなんでも、という結果となる」と書いている。
「サダム・フセインはパキスタンの圧倒的支持を勝ち得ている」とするデイリー・タイムズで、解説者のイザズ・シャフィ・ギラニは、パキスタン国民の間にみなぎる雰囲気を「苦しみと怒り」と表現している。
イラク戦争に対する反対の世論はパキスタンで強く、最近の調査では対象者の85%がフセイン大統領が権力の座に留まるべきだとしており、89%がアメリカ製品不買運動を支持していた。
引き倒されたフセイン大統領像の上でイラク人が踊る写真は、インドネシアでも新聞の一面を占めた。インドネシアは、イスラム教徒人口が世界最大の国であり、大規模な反戦デモが行われてきた。
イスラム教徒向けの新聞レプブリカは、フセイン像の頭に星条旗をかける米国兵士の写真に、「この国を植民地化する兵士がバグダッドを占領」というキャプションをつけた。
マレーシアではマハティール首相率いる与党のベテラン党員アヌアル・ムサ氏が、イラク大統領の失脚は、アメリカ政府が世界を支配しており、国連の重要性が低下したことを示していると語った。「これはイスラム教国にとって、イスラエルにさからう者はアメリカから経済的・軍事的圧力を受けるだろうという、非常に悪い徴候だ」と彼は言い「マレーシアではイスラム教徒が喜びで躍り上がる光景は見られないだろう」と語った。
オーストラリアではシドニーモーニングヘラルドが、開戦前は世論が大きく割れていたが、「戦後のイラクにおけるオーストラリアの役割についてはこのような意見の相違はない」と報じている。
■アメリカ(ロサンゼルス発=アンドルー・ガンベル)
アメリカでの反応は勝利感一色だった。テレビと新聞の一面はファルドゥス広場でフセイン像が引き倒される象徴的な光景をいかにも嬉しげに伝え、中東全域の政治的転換をめざすブッシュ政権の野望を反映している。
「僕は今日、アメリカ国民であることをとても誇りに思います。ブッシュ大統領にこんなにも政治的勇気を与えてくださった神に感謝します」と、ニューヨークタイムズに載ったカリフォルニア州オレンジ郡に住むロン・ウォーカーの投書には書かれている。「未来のアメリカ人への教訓は、急進リベラル派がどんなに間違っていたかが明らかになったことでしょう」。投書した人々の多くはアメリカ軍の行為に対して、但し書きをつけているものの、ラムズフェルド国防長官がベルリンの壁の崩壊になぞらえたことをあまり否定的に評価する声はなかった。
ロサンゼルスタイムズは「いにしえの地に新しい日が」という見出しを掲げた。ワシントンポストはバグダッドから「輝かしい映像」が来たと書いた。ニューヨークタイムズは「至る所で善意の人々の結束が見られ、イラク人の行く手には、よりよい、より自由な、より健全な暮らしが待っているという希望が感じられる」と報じている。
右派のワシントンタイムズは、一部のテレビ局がフセイン像の上に星条旗をかけた軍の行為に疑義をさしはさんだことを強く非難して「1945年に硫黄島に星条旗を掲げたことに新聞は疑義を唱えなかった」と書いた。
とはいえ、誰もが「イケイケ」だったわけではない。ブッシュ大統領の故郷テキサス州ですら例外ではなく、ヒューストン・クロニクルは「もしアメリカが言動に注意しなければ、そして国連の十分な関与がなければ、中東諸国の多くはことさらに、イラク解放を新しい形の植民地化政策と解釈しようとするだろう」と、書いている。
オレゴン州のロバータ・パーマーは、ニューヨークタイムズへの投書にこう書いた。「大統領宮殿のがれきの中を歩き、サダム・フセインのいすに座り、銅像を倒す米軍兵士達の報道を見ていると、解放軍というよりも、ローマを略奪した西ゴート族に見えてきました」
(翻訳:乾真由美・荒木由起子・萩谷良)
http://news.independent.co.uk/world/politics/story.jsp?story=396040
World opinion divided between jubilation and dismay
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200304190240506