現在地 HOME > 掲示板 > 戦争31 > 332.html ★阿修羅♪ |
|
◇バグダッド包囲網を狭める米軍◇
〜ワシントンDCから〜
米英軍が暗殺をもくろむイラクのサダム・フセイン大統領が生存している可能性が極めて強くなった。
4月4日のイラク国営テレビに登場した「フセイン大統領」は「おそらくあなたたちは、勇敢なイラクの農民が旧型銃で米軍のアパッチ攻撃ヘリコプターを撃ち落としたことを覚えているだろう。近づく米兵を、信仰の力で打ち破れ」と、国民に向かって訴えた。
米陸軍の攻撃ヘリがカルバラ近郊で行方不明になったのは、開戦後5日目の3月24日。この映像がそれ以降に撮影されたことは明白だ。そこで、声明を読む人物が大統領本人か影武者なのかが問題になるが、米情報当局は声の質などの分析から「本人の可能性が高い」としている。
米軍は3月20日、フセイン大統領や家族の所在を確認したとして、地下を破壊できるバンカーバスター爆弾とトマホーク巡航ミサイルを使い、大統領殺害を狙った。攻撃場所は、大統領の三女ハラ氏が所有する「ドラ農場」と呼ばれる施設。米情報当局は、フセイン大統領がこの施設にいたのは間違いないと依然として信じており、大統領は激しい攻撃にも大きなケガさえしなかったことになる。
これまで、ラムズフェルド国防長官やフライシャー大統領報道官らブッシュ政権幹部は「フセイン大統領が開戦以降、イラク国民の前から姿を消したのは興味深い」などと発言し、フセイン大統領が死亡したか、少なくとも重傷を負っていると強く示唆していた。
ホワイトハウス当局者は、「フセイン大統領の消息について確実な情報があったわけではない。イラク国民に対して『もうフセインはいない。蜂起しても大丈夫だ』とメッセージを送る意味合いが強かった」と率直に認めた。「フセイン死亡説」はプロパガンダ戦の一環だったわけだ。
ワシントンの軍事アナリストによると、4月4日のテレビ映像の前から、フセイン大統領の生存を指摘する声は強かったという。
同アナリストは、仮に大統領が死亡していたら、長男ウダイ氏と二男クサイ氏との間で権力闘争が起きたはずだが兆候が全くないことを根拠に挙げた。逆にウダイ氏が率いる非正規部隊「フェダイン」と、クサイ氏が率いる共和国防衛隊が、戦果を競うように攻撃を強めていた。「フセイン大統領が死んでいたら、両部隊が衝突する可能性さえあるのに、その事実はない」と同アナリストは分析する。
こうしたなか、米軍は4月4日朝までにバグダッド郊外のサダム国際空港を制圧、市中心部まであとわずかに迫った。
今後のバグダッド市街戦だが、その行方を占う際、参考になるのは英軍が担当しているバスラの攻防だろう。街を包囲した英軍は、無理に中心部には入っていない。支配政党バース党本部や非正規軍を狙うピンポイント攻撃を繰り返しながら、一般市民に援助物資を配給している。
バグダッドの米軍も同じ戦術をとるだろう。まず、フセイン大統領への反感の強いシーア派が多い市内東部に重点的に援助物資を配給して市民の支持集めを図ると予想される。その上でのピンポイント攻撃は、・イラク指導部がいる場所を特定し、周辺の数ブロックだけを完全に包囲する・一般市民だけを逃がす・暗視装置にすぐれる米軍の利点を生かし、夜間攻撃で狙いを定めた指導部の拘束、殺害を目指す――という作戦を繰り返すことになるだろう。限定した場所で市街戦を繰り広げるのだ。
しかし、問題は多い。共和国防衛隊のような戦闘相手への攻撃は国際法上認められるにしても、政府要人の殺害作戦が無制限に広がった場合、国際的な非難が大きくなる。
開戦前、米国はイラクの戦犯訴追対象者は10人程度の最高指導者に絞る、としていた。大統領と息子2人のほか、マジド元国防相、イブラヒム革命指導評議会副議長らだが、いら立った米国が殺害対象を広げる可能性がある。また150万人都市のバスラ包囲戦が終わっていないことから見ても、作戦は容易でないことが分かる。バグダッドの人口は500万人で、これだけの大都市を対象にした市街戦は歴史上あまり例がない。
市街戦では、犠牲者数と戦闘終結までの時間は反比例の関係にある。1945年、ナチス・ドイツのベルリンを包囲したソ連赤軍は、民間人の犠牲をほとんど考慮に入れずに進軍。数日でベルリンを陥落させたが、8万人以上の死者が出た・更
さらに、最大の問題は、「フセイン大統領ら最高指導者を殺害すれば、戦闘が終わる」との米側の前提ではないだろうか。ブッシュ政権は、開戦日のミサイル攻撃から今後の市街戦まで、一貫してこの前提が正しいとの想定で作戦を組み立てている。
米英軍はイラク国民に「解放軍」として迎えられるはずで、フセイン政権の崩壊が確実になれば民衆は米英軍支援に立ち上がるはずだとの楽観論である。現在のところ、その兆候はほとんどないが、ブッシュ政権高官の大半はこの前提を依然として信じ込んでいる。
冒頭で記したフセイン大統領のイラク国営テレビでの声明の数時間後、同テレビはバグダッドの街頭に現れた「大統領」の映像を放映した。数人の護衛を従えただけの「大統領」が通りを歩くと、数百人に膨れ上がった群衆は「血も心もサダムに捧げる」と熱烈に歓迎した。
映像の背景に黒煙が見え、開戦後にイラク軍が空爆対策として石油を燃やした煙であることは確実だ。開戦後の映像であることは間違いないが、米情報当局は映っている人物がフセイン大統領の「影武者」の可能性を否定してはいない。
米国防総省のクラーク報道官は4月4日の記者会見で、「テープに何が映っていようが、いつ録画されたものであろうが、問題ではない。大統領の生死よりもフセイン政権が権力を失いつつあるという事実が重要だ」と述べた。
しかし、これまで「フセイン死亡説」をほのめかオながら、生存の可能性が高まると「生死は関係ない」と主張するのは強がりに聞こえる。
米政府が宣伝した「フセイン死亡説」をイラク国民の大半が信じていない実態を冷静に見つめないと、ブッシュ政権のイラク占領政策が失敗する可能性がある。フセイン大統領がどんなに冷酷な独裁者であろうが、映像の通り大統領を支持する声がイラク国内に強いのもまた事実なのだ。
ライス米大統領補佐官(国家安全保障担当)は同日、フセイン大統領の殺害を待たずに、米国主導の暫定統治機構を樹立させる意向を明らかにした。政権崩壊を既成事実化しようとの試みの一つだが、イラク統治はフセイン大統領殺害よりさらに難しい仕事であるとの認識は、米政府内にはまだ薄い。
★在ワシントンDCジャーナリスト・森暢平=サンデー毎日4月20日号(4月8日発売)連載中。
http://www.mainichi.com/section.tpl?category=%83%8F%83V%83%93%83g%83%93%8F%EE%95%F1&RECORD=1