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■彼さえいなければ〜週刊アカシックレコード030407■
エイプリルフールでもない限り、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記訪日の記事は書けない。彼は飛行機に乗ることを極端に恐れているが、それは、米軍などのミサイルに撃墜されて「事故死」するのがこわいからだ。もし「事故」が起きれば、北朝鮮は中国並みの改革開放経済も可能だが、彼が国内に居座り続けるなら「経営の常識」から見て、それは不可能だ。北朝鮮の経済危機克服の、最大の障害が自分自身であることは、本人もわかっているに相違ない。
【タブー】
03年3月28日深夜(29日未明)放送のテレビ朝日『朝まで生テレビ』で4AM頃、司会の田原総一朗氏は「この(イラク)戦争で米国はほんとうは何をたくらんでて、それが失敗するとどうなるかってのをCMのあと行きます」。
同氏は小誌の読者ですから「ほんとうは何を」と言えば、それは(石油利権などというだれでも思い付く低次元なことではなく)小誌が指摘してきた「米ドルvsユーロの通貨戦争」 < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/y2003/crises.html#02 > か「在米イスラム人口問題」 < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/y2003/pop.html > が議論されるものと期待……したのに、CMが終わると観覧席からのくだらない質問と、それに引きずられたパネリストたちの議論に終始。
CM中に何があったの? プロデューサーの横槍? やっぱり「ドルや人口問題のための戦争」というのは大手マスコミではタブーなんでしょうか。
【佐々木敏の小説『ラスコーリニコフの日』 本体 \1,800+α】
03年4月15日頃、紀伊國屋書店新宿本店ほかで発売(14日より前には発売されません)。
その内容は → < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/raskol/cntnt.html#cover >
宅配注文は → < http://www.kinokuniya.co.jp/04f/d01/sinjyuku.htm >
■金正日さえいなければ経済改革は可能〜北朝鮮に必要な「破産管財人」■
【前回のエイプリルフール特集 < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/03fool.html > とは関係ありません。】
●君子?豹変●
たとえば、北朝鮮の金正日総書記が、英明な政治家だ、いや、英明になった、と仮定しよう。
そしてある日突然、現在の社会主義経済体制を本気で改革し、中国のような市場原理を導入した、改革開放路線に移行する、と「英断」を下したとしよう。
そして、自分の部下に「西側諸国のエコノミストや経営者を招いて意見を聞きなさい」「彼らと話し合っていい改革案ができたら、どんどん提案しなさい」と言ったとしよう。
これで北朝鮮の破綻した経済は立ち直るだろうか?…………ダメだ。
金子勝・慶大教授(経済学)は、03年2月28日深夜(3月1日未明)放送のテレビ朝日『朝まで生テレビ』で(独裁主義のテロ国家である)北朝鮮と日本との間の問題を解決するには、援助や投資を通じて、北朝鮮に改革開放(市場経済化)を促すほかない(ブッシュ政権のように北朝鮮を、「悪の枢軸」などと呼んで、敵視するのは間違い)と述べた。
が、こういうのを(世間知らずの)学者の意見という。金子は経済「学」に詳しい学者「経済学学者」ではあっても、けっして「経済そのもの」に詳しい「経済学者」ではない。
金子説が机上の空論にすぎないことは、会社勤めをしたことのある者、とくにワンマン社長の経営する会社にいた者はすぐにわかるだろう。金正日の決断で市場経済化が始まり、西側のエコノミストが招かれたとして、金正日の側近がそのエコノミストの意見を金正日に上申すれば
「きさまはオレよりあいつのほうが偉いと思ってるのか!」
と怒られるかもしれない、と「推定」するので、結局、部下たちは西側のにんげんとはこわくてロクに口も聞けないのだ。
たとえ、金正日が心底「真人間」に生まれ変わっていたとしても関係ない。いままで、人権弾圧や政敵の粛清、テロなどの犯罪を繰り返し、毎年何十万もの自国民を餓死させてきた独裁者である。彼には「独裁者のペルソナ」しかないのだから(拙著『龍の仮面(ペルソナ)』 < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/dragon/cntnt.html#cover > を参照)急に「きょうから変わった」と言われて「ハイ、そうですか」と信じる外国人投資家が、北朝鮮国民が、金正日の部下が、いったい何人いるというのだ。
もし金子の言うとおりなら、02年4月に銀行オンラインシステムの深刻なトラブルを起こしながら居直った、あの、みずほ(ホールディングス)の前田晃伸社長を更迭する必要はないことになる( < http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/38/mizuho14.htm > )。いつまで経っても不良債権問題も業績不振も解決できない前田らの経営責任を問わず国有化もせず、みずほ銀行に、ただ公的資金(日本国民の税金)を注入しさえすれば、同行は力強く再生されるはずだ……が、この方式はすでに、98年3月と99年3月の、二度の注入で明確な失敗に終わっているではないか( < http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20030122mh11.htm > )。
日産自動車が20世紀末のどん底から立ち直れたのは、単に仏ルノー社の資本を注入したからではなく、ルノーの選んだ日産の「破産管財人」カルロス・ゴーンをトップに据えたからである。ならば、日本が北朝鮮に経済援助などの形で「公的資金」を注入する際、北朝鮮のトップの交代を求めるのは当然ではないか。
これは何も意地悪で内政干渉をしようというのではない。北朝鮮の経済再生に不可欠な、最低限の常識的な提案にすぎない。
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あの男を許してもいいのか!
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http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/raskol/cntnt.html#cover
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【桶狭間】 < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/raskol/okehaz.html >
●中国の怒り●
百歩譲って、日本や米国が、金正日の退陣を条件とせずに援助や投資を十分に与えたと仮定しよう。つまり、金正日の過去の犯罪と無能ぶりをすべて許し、違法な大量破壊兵器(WMD)を開発してきたことについても実効のある査察はせず、不問に付したとしよう。それでうまく行くだろうか。
とんでもない。日本が許しても中国が許さない。
中国は、失敗することがわかり切っている北朝鮮の「えせ改革」で半島情勢が不安定化するのを恐れ、そうした危険な動きは必ず未然に防ぐ。
否、すでに防いでいる。
02年9月、北朝鮮は中朝国境地帯の新義州に外国の資本や技術を受け入れる受け皿となる経済特区(特別行政区)を設け、その特区長官には、中国国内で事業を展開した実績のある、オランダ国籍を持つ華僑実業家の楊斌(ヤン・ビン)を任命した。が、翌10月、中国政府は中国国内にいた楊斌を脱税容疑で逮捕し、長官就任を不可能にした。
これにより「犯罪者」を長官にしようとした北朝鮮の「浅はかさ」が全世界に明らかになり、北朝鮮政府は国際的に大恥をかくこととなった( < http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2002/10/04/20021004000015.html > )。
市場経済の導入に関して中国は、同じ社会主義を奉じる兄弟国の北朝鮮を応援するどころか、実に厳しかった。なぜだろう?
●退陣なくして改革なし●
中国は、共産党(北朝鮮の場合は労働党)の一党独裁による社会主義国家体制を維持しつつも市場経済に移行した、改革の「先輩」だ。その先輩の目で後輩の北朝鮮を見ると、金正日の地位を安泰にしたままの改革開放など、ただの「甘ったれ」にしか見えないのだ。
66〜76年、中国では文化大革命(文革)という名の社会主義的「原理主義」の嵐が国内で吹き荒れ、独裁者毛沢東とその妻・江青らの「四人組」が、何千万もの若者を「紅衛兵」という名の暴力団に組織し、中国全土で知識人や、党や軍の幹部をリンチにかけ、一説には1000万人も殺したとされる。のちに中国の事実上の最高指導者となるケ小平も文革によって二度も失脚させられ、ケ小平の息子も「インテリだ」というだけの理由で紅衛兵に暴行されて下半身付随になった。
76年、毛沢東が死んで文革が終わると、翌77年、ケ小平はみたび権力の座に返り咲き、党副主席、第1副首相などとして権力をふるった。復権したケ小平は、毛沢東の隠し子と噂される華国鋒・党主席兼首相を失脚させ、さらに毛沢東の未亡人・江青を人民裁判にかけて死刑にし(のちに無期懲役に減刑され、獄中で自殺)さらに「毛沢東の晩年の指導には誤りがあった」という中国共産党の公式見解を発表した。つまり、神聖不可侵な存在であった建国の父毛沢東に、敢えて傷を付けたのだ。
そこまでしなければ、社会主義国家(独裁国家)には、市場経済化のような大改革は絶対に不可能だった。毛沢東の威光と遺族を排除して初めて、ケ小平は「社会主義市場経済」の改革開放路線をとり、少なくとも中国の都市部と沿海部だけは豊かにすることができたのだ。市場原理とは本来「反革命」であり、共産主義者にとっては命懸けでなければ不可能な、厳しい挑戦なのだ。
だから、北朝鮮が改革開放をしたければ最低限、神聖不可侵なはずの「偉大な指導者」の権威否定、すなわち金正日の退陣(引責辞任)は不可欠だ。が、彼は先代、つまり実父の金日成(キム・イルソン)の死後も数年間、党の総書記にも国家の最高ポスト(国防委員長)にもなかなか就任しなかったものの、実質的な権力は握っていたから、形式的な退陣ではだめだ。結局、彼が国外退去(亡命)するか、事故や病気や自殺やクーデターや暗殺で死亡・失脚するか、あるいは死亡したことにしてこっそり国外に逃亡するか、選択肢は3つしかあるまい。
●金正日が飛行機に乗らない理由●
金正日は、国家最高指導者に就任して以来、外遊した国は中国とロシアの2つしかないが、金正日は中露どちらに行くときも、鉄道を用い、けっして飛行機には乗らなかった。
この理由は、一般的には「鉄道が好きだから」とされている。
が、外遊は公式行事であり、最高指導者の政治日程は忙しいはずで、それなのに移動時間が短くて済む飛行機を使わずにわざわざ鉄道を使うのは、いかにも不自然だ。
理由は1つしかない。「事故死」に見せかけて殺されるのを恐れているのだ。
たとえば金正日を乗せた飛行機が離陸し、かなりの高度に達したところで、米軍の巡航ミサイル(または、北朝鮮軍幹部の「叛乱ミサイル」)が命中したら、どうなるか?……地上で鉄道に乗っているときに攻撃された場合は、目撃者も多数いるだろうし、鉄道車両の残骸も現場付近の地上に多く残るので「攻撃」されたことが世界中にバレる確率が高いし、金正日が車両から飛び降りて助かる可能性もある。が、高高度の空中で撃墜された場合、それを肉眼で目撃する者はほとんどいないし、残骸も地上、海上、海中に広範に散逸するので、関係各国の防空関係者が口裏を合わせて、レーダーなどの「撃墜」を示す情報を公開しなければ、真相が撃墜でも公式発表は「事故」となり、それで世界中通用してしまう(71年には、毛沢東に追い落とされた中国の政治家、林彪がモンゴル上空で「謎の飛行機事故」で死んだ例もある)。そのうえ、飛行中の爆発なら金正日が助かる見込みはほとんどないから、「事故」を起こすために敵側に内通した彼の部下も復讐を恐れなくてよい。
もし金正日の訪日が決まり、彼を乗せた飛行機が日本海上空でそういう「事故」に遭ったら……日米はもちろん、中国の、いや、北朝鮮の防空関係者まで口裏を合わせて「事故」と了解するだろう。
そうすれば、金正日亡き後の北朝鮮では、彼の後継者が「拉致もテロも覚醒剤密売も、残酷な同胞への仕打ちも、悪いことはぜんぶ先代がやったんです」「私は止めたかったんですけど、こわくてだめでした」と言うことができる。つまり、後継者はすべての悪事を前任者になすりつけ、無傷で権力を掌握できるのだ。もちろん、日本人拉致事件の被害者もその家族も全員日本に帰国させても、それによってどんな悪事があばかれても、後継者は痛くもかゆくもない。
この場合、たとえ後継者が金正日と「同じ穴のムジナ」だったとしても問題はない。とにかく歴史を歪曲してでもいいから「ぜんぶあいつが悪かった」ことにするのが肝要で、日本政府も、拉致問題の解決や飢餓に苦しむ北朝鮮国民の救済のため、後継者の罪については「不要不急」の真相追求は控えるべきだ(ちなみに89年の社会主義国家ルーマニアの「民主化」はこの方式による。独裁者チャウシェスクの後任は、彼の元部下で米諜報機関と「うまくやった」イリエスクだった)。
そうなれば、日本政府は喜んで北朝鮮に経済援助を「注入」するだろうし、世界中の投資家も安心して投資するだろう。北朝鮮の飢餓は解決し、多くの国民の命が助かり、半島の軍事的緊張もWMD危機も一気に解消される。
自分さえいなくなれば、みんな幸せになれる……それがわかっているから、金正日は絶対に飛行機に乗らないのだ。
●イラク戦争と北朝鮮の命運●
北朝鮮問題の(日韓中にとって)もっとも穏便な解決策は、03年のイラク戦争(WMDの強制武装解除)で米国がイラクを圧倒すること、または、米国の圧倒的な軍事力と、仏露を含む国連安保理常任理事国の賛同した武力制裁決議に怯えてイラクの独裁者サダム・フセイン大統領が戦前に逃亡することだった。そうすれば、金正日は「次は自分か」と震え上がり、米国がちょっと武力行使をちらつかせるだけで、退陣や亡命を考えざるをえなくなっただろう。
仏露両国は国連外交の場で国益のみを考えて「えせ平和主義」に走り、安保理での拒否権行使をちらつかせて米英が求めた武力行使を明確に容認する決議を葬り去った。とくに、開戦間際の03年3月13日に英国が示したイラク武装解除のための妥協案を、イラクより先に拒否するなど( < http://www.sankei.co.jp/news/030313/0313kok133.htm > )フランスの態度は悪魔的な異常さに貫かれていた。これが、サダムに「仏露などの『国際世論』を味方にすればなんとかなる」との幻想を抱かせ、彼の国外退去と平和的解決の可能性を減らしてしまったことが、心底悔やまれる。
しかし、金正日はフランスより賢いかもしれない。
金正日の動静は、03年2月13日から3月のイラク戦争開戦をはさんで4月2日まで、49日間も不明だった。毎年出席している北朝鮮の最高人民会議も初めて欠席し、労働党総書記に就任してからの5年半における「雲隠れ」の最長記録を樹立した( < http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2003/03/27/20030327000036.html > )。側近の軍幹部もともに欠席したことから、これは、イラク情勢を分析し「考え込んでいた」からに相違ない。
ぜひじっくり、引退後や「死後」の(国外での)隠遁生活について考え込んでほしい。
もちろん、より深く考えさせるには、日本が経済援助停止のほか、貿易停止や在日朝鮮人の渡航(再入国)禁止などの厳しい制裁を課すことも有効だ。北朝鮮を徹底的に追い詰めれば、金正日の部下たちが「総書記の現在の指導には誤りがある」「彼さえいなければ…」と考えて叛乱を起こす可能性も高くなるのだから(とくにブッシュ米大統領がイラク戦争の開戦48時間前に「サダムとその息子『だけ』が国外退去すれば、彼の部下はそのままでも攻撃しない」と宣言し、開戦後フランクス米中央軍司令官が「サダムの生死にかかわらず(政権打倒まで)戦う」と述べたことは、金正日の部下にとっては「開戦前に独裁者を始末しろ」という警告になる)。
独裁者をそのままにして北朝鮮にいくら援助を与えても、飢えた国民には食糧は渡らず、国民の惨状は援助獲得の口実に利用されるだけだ。イラク戦争で、イラク側の、学校や病院の隣に軍事施設を設けたり女性に自爆攻撃をさせたりする、非人道的な作戦のせいで、大勢の民間人の犠牲が出ていることでも明らかなように、イラクでも北朝鮮でも、独裁者は国民(民間人)を盾や人質として利用することになんの罪悪感も感じない。
「援助すれば改革が進む」などと、おめでたい幻想を抱くことは、学者には許されても政治家には許されない。
(敬称略)
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