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パレスチナ―忘れられた苦しみ
イラク戦争の陰で…
自治区 イスラエル軍が厳しい制圧
イラク戦争に世界の目が奪われている間にパレスチナの窮状は一段と厳しさを増している。イスラム、アラブ世界の戦乱の核はパレスチナ問題だ。この問題の公正な解決抜きに地域に平和は来ない。しかし、戦争とテロのこの元凶は悪化の一路をたどる。アラブ義勇兵をイラクへ誘う動機にもなっている。 (田原拓治)
■WFPの物資が自治区に届かず
中東キリスト教会評議会パレスチナ難民サービス局は三月二十日、次のような報告を発表した。「(パレスチナ自治区がある)ヨルダン川西岸はここ数週間、イスラエル軍の完全な制圧下にある。イスラエルが一方的に築く(両者の)分離壁のために自治区の土地は削られ、その壁で救急車の通行も妨げられている。三月に入り、パレスチナ側の死傷者も急増した。十九日までに子ども二十人を含む八十人が殺された」
イスラエルの人道団体「ベトセレム」からもこんなEメールが記者に届いた。
「ガザ地区南端アルマワーン村では、イスラエル軍の検問で世界食糧計画(WFP)の供給物資が入らない状態が続いている。通行できるのは男子は四十歳以上、女子は三十五歳以上で徒歩に限る。だが、しばしば長期の通行止めがあり、妊婦が検問所で出産する事態も起きた。住民は村外へ通勤できず、農作物も搬出できないため生活難に陥っている。村外の教師も来られず、学校は休校している」
イスラエルのシャロン政権は昨年来のイラク危機以降、自治区を一層絞り上げている。居住区からなかなか出られない結果、西岸北部アルヤヌン村では住民百八十人が職のある大きな町へ移住した。こうした自治区から住民を追い出す移送作戦とユダヤ人入植地の拡大が着々と進行している。
■「パレスチナ人 殺されている」
「人々がイラクに注目している間にパレスチナの兄弟姉妹が残酷に殺されている。彼らを忘れるな」。あるエジプト人からのメールはこう結ばれていた。
イスラム、アラブ世界の民衆の憤りの底には常にパレスチナ問題がある。だから、イラクのフセイン大統領は演説の最後に「パレスチナ万歳」と加え、ウサマ・ビンラディン氏も声明で「パレスチナの子どもたちは今も殺されている」という一言を忘れなかった。
それはブッシュ米大統領の父親も同じだった。パレスチナ問題の解決なくして中東に安定はない。ゆえに「パパ・ブッシュ」は一九九一年の湾岸戦争の終結から約半年後、旧ソ連も加えマドリード中東和平会議を開いた。
当時、湾岸戦争でフセイン大統領を応援し、四面楚歌(そか)に陥っていたアラファトPLO(パレスチナ解放機構)議長から大幅な譲歩を引き出せる状況にあった。パレスチナ側は実際、イスラエル建国前の土地の23%にすぎないガザ地区と西岸に「ミニ国家」をつくることで妥協した。
■イスラエル右派が和平プロセス壊す
しかし、この「ささやかな幸せ」も今のシャロン首相らイスラエル右派と、ブッシュ政権を操る米国の新保守主義(ネオコン)派は許さなかった。パレスチナのイスラム急進派などの抵抗を「テロ」と断定し、それを逆手に取って和平プロセスを頓挫させた。
西岸の自治区は現在、国連決議で返還されるべき全西岸の42%(ガザ地区と合わせ、イスラエル建国前の10%に相当)にすぎないが、シャロン首相は「これ以上は譲らない」と一方的に宣言している。それどころか、レバノン英字紙デーリー・スターによると、同首相は三月下旬、将来の国境になりかねない分離壁を「もっと(自治区寄りの)東へ移す」よう指示した。
一方で米国は昨年六月、新中東和平構想を発表。欧州連合(EU)やロシア、国連を巻き込み「パレスチナ建国」に至る「ロードマップ(工程表)」を作成した。英国のブレア首相はイラク戦争がアラブ敵視ではないと印象付けたいため、三月末の米英首脳会談でも内容の発表をせかした。だが、イスラエル側の抵抗で先送りされている。
■公正さ欠ける「建国工程表」
ただ、イスラエル各紙の暴露では、これも公正な代物ではない。国境は画定せず、国連安保理決議などに違反する西岸やガザ地区での入植地建設も「和平進展の折に停止する」という。
加えてパレスチナ側に制空、外交、地下水所有などの諸権利もなく、国防も軽武装の警察だけという制限付き。これでは、とても国家の体をなさない。
■シャロン首相次々訂正要求
シャロン首相はさらにイスラエル建国時に難民となったパレスチナ人の帰還権放棄など、百項目以上の訂正要求を準備している。
これにブッシュ政権があらがえるかというと、とても無理だ。政権中枢を握るネオコンとシャロン首相は一体で、反イスラエルを掲げるイラクやシリアなどの政権を次々とつぶすシナリオをともに描いてきた。
その蜜月ぶりを示す一例をヘブライ大学のマーチン・クレベル教授(軍事戦略論)はこう明かした。
「米軍は戦争直前、人口密集地バグダッドでの市街戦に備え、イスラエル軍が昨年四月、西岸自治区ジェニンをどう制圧したか、相談してきた。その結果、イスラエルが用いた改造ブルドーザー九台を購入した」
イスラエル側が「ロードマップ」の公表を「イラク戦争の終結後」(シャローム外相)と要求しているのも、(1)できるだけ引き延ばして入植地など既成事実をつくる(2)来年の米大統領選が近づくほどブッシュ政権はユダヤロビーに逆らえなくなる、といった計算が働いているためだろう。
■パレスチナに通じる義勇兵
一方で、アラブ義勇兵がイラクを目指す背景をシリア紙アッサウラのマルワーン記者はこう指摘した。
「湾岸戦争と今回は明らかに違う。前回はアラブ人の目にもフセイン大統領がパレスチナ問題を利用しようとしたのは明らかだった。だが、今回は敵がブッシュを牛耳るネオコンでパレスチナの構図と同じ、無実の市民が殺される状況もパレスチナと酷似している。だからイラクでの戦いはパレスチナに通じると感じているのだ」
当のパレスチナ自治政府の状況はどうか。静岡産業大学の森戸幸次教授(中東地域論)は「アラファト議長は沈黙を保っている。イラクに同情すれば、米国とイスラエルに罰せられる。米国に傾けば民衆から見捨てられる。もし、議長がこの綱渡りから落ちると、パレスチナは収拾がつかなくなる」と懸念する。
少なくとも「ロードマップ」にブレア首相が考えるアラブ民衆への鎮静剤効果は期待できそうにない。
むしろ、イラク戦争後、親米政権が誕生しイスラエルの独り勝ちが際立った場合はどうか。パレスチナに思いを寄せるアラブやイスラム圏の民衆の心はこれまで以上にざらつくだろう。
そんな結末に不安を抱いてか、エジプトのムバラク大統領は先週、こう漏らしている。
「この戦争はもう百人のウサマ・ビンラディンを生むことになるだろう」