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2003年3月26日の中国外交部定例記者会見に於いて、記者が
「世界各国でイラク戦争に反対する民衆デモが行なわれているが、中国政府もこの戦争に反対しているにもかかわらず、なぜこれに類似した民衆デモが起こらないのでしょうか?」
と質問したのに対し、孔泉報道官は、
「中国人民は様々な違った形式によって(反戦の)声を表現した。インターネットなども含めていろいろある。あなたの言うような方式が戦争に反対する唯一の方法ではない。(一部省略)」
と煙にまいた。
仏ロ独とともにイラク戦争反対を唱える中国で、なぜ大規模な反戦デモが起こらないのかという疑問は今までも広く内外で囁かれてきた。孔泉報道官のコメントは反戦デモが起こらないことへの説明には全くなっていないが、これは日本の小泉首相がよく「国民への説明責任を果たしていない」と野党などから批判されるのと同じ性質のものだろうか?違うとしたらどこが違うのか?反戦デモについてと同時に「説明責任」についても考えさせられる。
中国で反戦デモが起きない訳は、むろん政府が禁止しているからである。そしてその理由は説明が無くともだいたい想像がつくものだ(それに対する良し悪しの評価は別として)。また中国政府が独自の情況分析とバランス感覚に基づいたある程度、一貫性のある政治方針を持っていて、他国追随ではないという印象は、行動や声明を通して比較的明確に浮かび上がって来る。政治改革は必要だが、このうえ現状について会見を通して、政府の本音を事細かに国民に「説明」することが、本当の「政治」になるのだろうか?
日本政府の場合も事細かに「説明」することが必要なのではなく、もっと深い情報分析や結果予測に基づく独自の方針を持っていること、タテマエでも一定の原則に基づいて行動しているように見えることが重要なのではないか?それがあれば黙っていても少しは国民に伝わるものがあるはずである。「無い」ものを「ある」ふりをして事細かに「説明」しようとしても無理がある。それに比べれは「ある」ものを事細かに「説明」してしまっては身も蓋も無くなる、と言う方が「政治」の上ではまだ理解できるのである。
中国ではこれまで天安門事件以来、大規模な集会やデモを禁止・制限して来た。唯一の例外はユーゴ空爆時の中国大使館誤爆に対する米国大使館前での抗議デモだったが、その後は政治色のあるデモはほとんど聞かれない。法輪功問題が起こってからは治安当局は益々、団体の街頭活動に対して神経を尖らすようになった。法輪功は未だに国内外で政府と対立した活動を続けている。また近年来の果断な(あるいは容赦ない)国有企業改革などで一部労働者が団体抗議を行なったり、また失業者や内陸部の低所得者層の不満が政治運動に発展する潜在的要素も存在する。
中国はこうした諸問題を抱えながら、長期展望に立った経済発展を安定した政治環境の元で実現するため、今は刺激的なことを極力国内に持ち込みたくないのが本音だろう。今年3月の新指導部発足の前後に、盛んに使われている「小康社会」という言葉は基本的には、バブルを引き起こさない程度の安定した成長率と沿岸部・内陸部の格差の解消という経済的側面の指針であるが、急激な民主化よりもゆるやかな政治改革で安定した政権運営を、という共産党指導部の願望が込められた標語のようにも見受けられる。
イラク攻撃に対して世界中で数万から数十万という大規模な反対デモが巻き起こる中、その参加者の数の多さに驚かされるが、もし中国で完全解禁のもと、本気で反戦デモが行なわれたら、いったいどれほどの人数が集まるのか興味深いところだ。しかし3月30日以前は非常に限定されたもので、反戦活動は主にネット上や大学内などに限られ、目立った街頭での反戦デモは伝えられていなかった。
しかし中国でもイラク戦争に関する情報は今や日本と変わりなく「お茶の間」に届いている。ニュース報道はむしろ積極的に伝えているようで、ネット上の新聞サイトもイラク戦争特集を組むなどかなり充実している。独自の記者を中東に派遣し、また速報もはやい。そのような報道により世界各地で大規模な反戦デモが行なわれていることも、もちろん知れ渡っている。「なぜ中国だけ反戦デモが行なわれないのか」という疑問は中国国内でも広く一般的になっているはずだ。情報だけ与えられ、行動を制限されるのはひどくストレスが溜まるばかりである。
開戦直後の21日にも外国人による小規模なデモがあったらしいが、イラク戦争の戦況が激化し被害者が激増する中、3月30日になってようやく北京の米国大使館前で200人余りの反戦デモが行なわれたというニュースが流れた。これも外国人が中心となったもので、主に商社の駐在員・留学生・その他非政府組織のメンバーなど。国籍は米・英・スペイン・アイルランド・カナダ・ドイツなど戦争当事国や支持国・不支持国の区別無く参加し、パキスタン・エジプト・イエメン・シリア・アルジェリアなどのアラブ諸国出身者も集まって、それぞれの国の言葉で反戦の声を上げた。午前9時に日壇公園を出発し、デモ行進はしかし全体でも40分程度で終了。そのコース途中の米大使館前では、5分間停止してのみの抗議だった。中国はアラブ諸国等の途上国から留学生などを多く受け入れており、今回の反戦デモ一部許可は、比較的友好的なアラブ諸国の国民感情への配慮という見方もある。
北京大学でも、学生約150名がキャンパス内でイラク戦争に反対する反戦パネル展を開催し、その後低調なデモ行進を行なったという報道もあるが、実際のところデモ行進ではなく、反戦"宣伝"と募金活動に留まったらしい。王府井ではネットの呼びかけに賛同して集まったという参加者が反戦デモを行なおうとした。彼らの代表は3月25日に500名程度の反戦デモの許可を申請していたが、結局許可は下りなかったらしく、当日は即刻中止を求められ、従わないとプラカードを破られたり取り上げられるなどし、中には連行・事情聴取もあったようだ。そのほか朝陽公園や東単・王府井などの繁華街でも学生や市民による散発的な反戦活動が行なわれた。
今後、中国はこのような反戦デモをどの程度許可してゆくのか、あるいは抑制してゆくのか?民衆の反戦意識の高まりに対して、主張の場を与えないのは一種の抑圧である。米国・英国に於いて今まさに戦時体制を敷いた言論統制・メディア規制・情報操作が行なわれている一方で、中国ではまた違った事情による不自然な言論抑制が行なわれているのも奇妙であるが、これはある程度緩和できるのではないか?今後はそこそこガス抜きも必要だろうと思われる。皮肉だがかつてブッシュ政権発足当時、中国敵視政策の材料ともなっていた「人権と言論の自由の抑圧」を少し緩めてあげれば良いのである。
ただ中国において反戦デモが非常に制限されていても、その不満が爆発しない理由は、単に「統制がキビシイ」とか「みんなお金儲け(経済)に夢中」という理由では説明がつかない。これは中国政府が国連の場や多国間外交の場で、米英に反対する立場でいることと、査察継続中から開戦前・開戦後の各段階で声明として比較的明瞭に反対の主張を繰り返しているからではないか?米英に対し言うべき事は言ってきたという評価がいちおうは国民の間にあって、自国の政府の対応を「見ちゃいられない」というほどの不満には至っていないものと思われるのである。
現在世界を見廻してみても、米英のイラク攻撃を支持・賛成国の反戦運動の方が、激しい傾向がある。もちろん開戦後はこれらの国における戦争への支持率は上がってはいるが、反戦デモは激化または質的に切実になっているように思える。中国がもしアメリカ追従であったなら、反戦デモ禁止の政策はより大きな鬱屈をもたらしたことだろう。しかしイラクでの戦況が悲惨さを増す中、反戦の行動をこれ以上縛りすぎることはそれ自体への不満が増大し、安定維持に却って逆効果なのではないか?
ひとむかし前まで香港では天安門事件何周年などの政治的デモがよく行なわれていた。今回のイラク戦争への反戦デモに関してはかつてほどにはいかないだろうが、大陸部よりも少しは規制が緩いらしい。2月15日、香港島セントラルで宗教団体や環境保護グループなど約20団体が反戦集会を開き、700人(警察調べ)が参加。欧米人やインド、パキスタン人ら若い外国人の姿も目立ったということだ。3月15日にも数百人規模のデモ行進があり、3月21日には香港反戰聯盟などを中心とした反戦デモが行なわれ、米総領事館前でダイ・インと48時間ハンストを決行し、イラク戦争に抗議した。
その後も小規模の反戦デモはあっただろうが、例の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行で、空気感染の恐れも指摘されていることから、大勢の人間が集合することにかなりの抵抗を感じる情況なのかも知れない。これは中国全体についても言える事で、中国当局がSARSの感染防止を集会規制の理由として挙げ、利用することも考えられる。尤も逆にSARSについては社会的混乱を避けるためイラク戦争報道の陰に隠れる形で、あまり目立って報道されていないようだが。
一方、台湾では2月15日、台北の米国台湾協会の前で、やはり約700人が対イラク戦争に反対するデモを行った。平和財団、労働人権協会、漁民人権協会をはじめ約30の団体が参加。台湾政府がブッシュに協力しようとしていることを非難した。また3月20日、台湾平和促進基金会が戦争反対の四千人の署名を集め、米国在台協会に届けると同時に、同協会前で数十人がインターナショナルを歌ったりダイ・インなどで抗議を行なった。しかし台湾でも規模から見れば反戦デモは総じて盛り上がりに欠けるようにみえる。
中国は外交に於いて、台湾問題などに絡んでいつも既存政権の主権尊重と相互不干渉の立場をとる。イラク問題に対してもフセイン政権の主権を保障した上での査察強化を唱えて来た。中国は常任理事国であることとアフリカなどの多くの発展途上国との「外交網」を持っていることで、国連でこそイニシアチブをとり易い立場にある。その点ではフランスと似ている。この先も中国はときには仏ロ独と連携し、ときには独自で、戦争の即時停止など原則論での反戦を訴えたり、また石油の利権も含めて戦後処理を国連中心に引き戻すなどの働きかけを行なうだろう。
ただそういう方向にもってゆくにしても、中国はギリギリの対米批判をしつつ、決定的な米国との対立は望んでいない。戦争がかなり長期化する恐れもあり、今後どのように収拾をつけるかをめぐって国連安保理などでかなりの波乱や紛糾が予想される。また今後イスラエルとアラブの対立も益々激化してゆくと思われる。中国はややアラブ寄りの立場だが、微妙なバランスを意識した行動で、常に中間的なポジションをとり、選択肢を広く確保しようとしているように見える。そんな中で、現段階で民衆の反米デモの手綱をどこまで緩めたら良いのか慎重に計っているのではないか?下手に国民を煽った結果、逆に世論に手を焼く破目になる政権の愚をよく知っているのである。
戦争が泥沼化しつつある今、中国や仏ロ独など開戦に反対した国々はこの時期、戦争の即時停止を口だけで訴える以外に何かできることは無いのだろうか?(日本のことを棚に上げて言わせてもらえば)反対しておいて何の対抗措置も採らないでイラクを見殺しにするようでは、安保理の責任を果たしたとは言えない。イラクへの人道支援再開や石油と食糧の交換計画などよりも、戦争の即時停止を目指す決議を提出し、米英が拒否して通らない結果となっても採決にかけるべきである。アラブ諸国やその他戦争に反対している国連の多数派の国々と結託してできることをやって行かなくてはならない。
「停戦は無い」「暫定統治でも国連は脇役」などと公然と言っている米国らは、どうみても国連に対して挑戦しているとしか思えない。これはイラクだけの問題ではなく、将来に渡った世界秩序の危機なのだ。こうした超大国一極支配を頓挫させ、阻止することに身を挺して貢献しているのは皮肉なことに「悪」の烙印を押されたフセイン政権であり、犠牲となっているのはイラク国民と戦場の兵士たちである。今の国連では米英に制裁を加えることまでは無理かも知れないが、例えばIAEAが唱える米国の「イラクのウラン輸入文書」偽造の件を取り上げるなど、数々のウソを暴露してゆくような「情報戦」レベルでの「制裁」も、米英の戦争の正当性をボロボロに崩してゆく「武力によらない」有効な手段だと思うのである。
戦争の正当性の崩壊と被害者の増大が、戦争当事国の国民にしっかりと伝われば、国内世論は確実にネガティブに向かってゆく。米国らの政府にとっての痛手は、国内での支持率の低下と反戦運動の激化である。反戦運動では開戦は止められなかったが、過去に泥沼化した戦争を止めた実績があるのも事実である。米国などのそうした動きを後押しすることも、国連が今後イラク問題での主導権を引き戻すために必要なことなのではないか?だがそうした働きかけを行なう際、自国内の反戦デモを禁止・抑制したままの国では、理論的矛盾に陥ってしまう。中国はやっと一部反戦デモを解禁したとはいえ、まだまだ極端に限定的なものである。今後どの程度、反戦活動を許可してゆくのか分からないが、この辺に政治改革の遅れなど中国の抱える矛盾が顕れている気がする。
参照記事
■表達反戦心声形式不同 [牛股網]
(王府井反戦デモの申請書の内容あり)
http://www.nugoo.com/club/hui01_detail.php?id=12674&s=0&board=02&searchon=&keywords=
■北京でも外国人らがデモ イラク戦争反対のデモ行進 [共同]
【北京30日共同】北京市朝陽区の米国大使館前で30日午前、市内に住む欧米中心の外国人ら約200人余りがイラク戦争に反対する抗議のデモ行進をした。北京では21日にも外国人による反戦デモがあったが、米大使館前では初めて。
参加者は「覇権主義反対」などと書いたプラカードや横断幕を持ち、近くの公園と大使館前を往復。大使館前では「戦争をやめろ」などと声を上げ反戦をアピールした。
新華社電によると、同市内にある北京大学でも午前中、学生らによる抗議デモがあった。(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030330-00000057-kyodo-int
■北京首度核准反戰遊行 [Yahoo!奇摩]
http://tw.news.yahoo.com/2003/03/31/twoshore/infotimes/3903114.html
■京警阻市民反戰示威 [雅虎香港]
http://hk.news.yahoo.com/030330/12/qxe6.html
■北京巧打民意牌 中國評論 [雅虎香港]
http://hk.news.yahoo.com/030328/12/qwm9.html
■イラク攻撃反対デモの輪、世界各地をつなげる [朝日]
2003年02月16日(日)(前後省略)
香港では15日、中心部のセントラルで宗教団体や環境保護グループなど約20団体が反戦集会を開き、700人(警察調べ)が参加。欧米人やインド、パキスタン人ら若い外国人の姿も目立った。「宗教を戦争の道具にしてはならない。私たちの信じる宗教はみな、罪なき人を殺すな、と説いている」とキリスト教、イスラム教の信者団体が共同声明を発表。環境保護団体のメンバーは寸劇でイラク攻撃反対を訴えた。集会後、近くの米総領事館までデモ行進した。
http://news.goo.ne.jp/news/asahi/kokusai/20030216/K0015200708079.html
■香港での3月15日の反戦デモ(写真)
http://www.notwar.org/images/106-0644_IMG.jpg
■領館外紮營 48小時絶食 [反戰爭求和平委員會]
http://www.notwar.org/sar/3-21.htm
■台湾で反戦デモ [レイバーネット]
(前後省略)
2月15日、台北の米国台湾協会の前で、約700人が対イラク戦争に反対するデモを行った。平和財団、労働人権協会、漁民人権協会をはじめ約30の団体が参加した。中東や東南アジア出身の人々も参加した。無許可のデモで、警察から再三中止命令が出たが、約2時間にわたってデモが貫徹された。台北市の前労働局長や市民局長もデモに参加した。デモ参加者は、台湾政府がブッシュに協力しようとしていることを非難した。
http://www.labornetjp.org/NewsItem/20030218rj
■世界に広がる反戦の声 [中日新聞]
(前後省略)
【台北20日迫田勝敏】台北市にある米国へのビザ申請などを扱う米国の窓口機関、米国在台協会前に数十人が「イラク侵略戦争反対」などと書いたプラカードを持ってデモ。一部は路上に寝てインターナショナルを歌いダイ・インをしたが、混乱はなく、ビザ申請などの手続きも通常通り行われた。これに先立つ同日午前、民間の台湾平和促進基金会が戦争反対の四千人の署名を集め、同協会に手渡した。
http://www.chunichi.co.jp/iraq/030321004.html
■イラクの戦後復興の暫定統治、国連は「脇役」と豪首相 [CNN]
http://asyura.com/0304/war29/msg/365.html
■イラク戦争:フセイン後暫定政権、米国人が独占か 英紙報道 [毎日新聞]
http://asyura.com/0304/war29/msg/924.html
■【ウェブ請願で国連を動かせ】国連の「平和のための結集」決議377号を発動させて緊急国連総会で戦争を止めさせよう!
http://www.asyura.com/0304/war26/msg/231.html