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月刊社会民主2003/1(2002/12刊行)
中川喜与志 緊迫する北イラク8
米国の戦争準備──亡命クルド人への軍事訓練
11月上旬、国連安保理での「対イラク新決議」採択、イラク側の受諾声明に続き、一二月に入った現在、イラク現地では国連監視検証査察委員会と国際原子力機関による大量破壊兵器査察が進んでいる。
米国ブッシュ政権は、この表舞台でのシナリオをみずからが中心となって描いておきながら、その実演をあざ笑うかのように単独での武力行使を公言し続ける。全世界を傘下に置く「ならず者国家」の総本家ともなると、この自己矛盾にすら気がつかない。気づいていても知らぬ顔をする。中東の武闘派独裁政権といえども、「蛇に睨まれた蛙」も同然だ。
一方、舞台裏ではブッシュ政権は着々と戦争準備を進めている。それは報道されている準備だけではない。米国は今、一〇月三日の大統領通達に基づき、亡命イラク人五〇〇〇人に対して軍事訓練を開始した模様だ。いったいどこから五〇〇〇人もの兵士をリクルートしたのか?
米政府はその実態を明らかにしない。北イラク現地でのリクルートではない。実は米国西海岸には、一説では六五〇〇人に上る亡命イラク人のコミュニティがある。その大半は、九六年に北イラクでイラクKDP(クルディスタン民主党)とPUK(クルディスタン愛国同盟)の武力衝突が起きたとき、米国が〃救出〃したクルド人の現地協力スタッフおよびその家族だ。この衝突の際、KDPが何と敵であるはずのイラク軍に支援を求め、イラク軍は湾岸戦争直後の反フセイン蜂起以来はじめて、北イラク=クルド人自治区に全面侵攻した。このとき、米国が現地に設置していた「軍事協力センター」や「外国災害支援米国事務所」などで働いていたクルド人スタッフがいち早くトルコに脱出。「対米協力者」としてイラク軍に摘発されるのを恐れてのことだ。
米軍はこのクルド人たちをまずグアム島へ、後に米西海岸へ移送した。それまでのクルド難民問題への対応とはまったく違い、実にすばやい救出作戦を展開している。当初、その数は二千数百人程度といわれたが、最終的に六〜七〇〇〇人に上ったようである。驚くべきは、湾岸戦争から五年経った時点でも、米軍は現地に拠点を置き、これだけの数のクルド人を組織し、さまざまな秘密工作を行っていたことである。
おそらく今回、米政府がリクルートした兵員の相当数はこの「元対米協力者」が占めると思われる。軍事訓練は米国内ですでに実施されている模様で、近々、訓練の場所を欧州(ハンガリーという情報が流れている)に移す。現地での地上戦、特に特殊部隊の作戦行動に不可欠な現地戦闘要員であることは明らかだ。費用は、九八年に米議会が可決した「イラク解放法」につけられた九八〇〇万ドルの予算のうち九二〇〇万ドルが充てられる。四年間でわずか六〇〇万ドルしか消化されてこなかったが、ブッシュ大統領は今こそこの予算を投入すべき時期と判断し、先の通達を発したのである。