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永田町新潮流
「俺がやらねば」
平成15年3月26日(夕刊フジ)
世界が進む同時デフレの道
渡辺喜美
恐怖と衝撃の戦争が始まった。フランクス中央軍司令官は、作戦の目的を@フセイン政権を転覆すること、A大量破壊兵器を押収し、廃棄すること、Bテロリストを捜索し、追放すること、Cイラク国民を解放し、自由と民主主義をもたらすこと、と語った。実に明確な論旨であった。
ではこれらの目的のため武力行使が容認されるのはいかなる場合か。まず大量破壊兵器による危険が米国の安全にとって切迫している時は、自衛権の行使として認められる。次に、国連安保理の決議によって武力行使が正当化されるケースである。今回の場合、日本政府は国連決議1441号等を根拠に正当性を主張しているが、苦しい説明だ。
アメリカが構想しているのは、もっとスケールの大きい話である。つまり、近代主権国家間の戦争のルールを定めたウェストファリア体制を根本的に変えてしまおうとするものだ。テロリストは相手が特定できない。そこに大量破壊兵器を保有した「ならず者国家」が結びつけば、致命的状況をもたらす。そのような敵対行動を挫き、予防するために先制攻撃もありうる。単独行動も辞さない、とブッシュ・ドクトリンは言っている。
こうした発想は、米国にとって望ましい世界秩序、「新アメリカ帝国」を作ろうという野望につながる。国民国家の枠組み以前のローマ帝国やサラセン帝国のようなものだ。自由と民主主義という普遍的価値のもとに、力による平和を実現しようというのである。
ではイラク戦争が終わればこの帝国が完成するのかと言えばそうではない。テロと戦争のくり返しで30年はかかると開き直る論者もいる。「冗談じゃない、30年もこんな調子で戦争やられたのでは経済はどうなるんだ」という問いに答えはない。
今、世界はイラク戦争の動向にかかわらず同時デフレの道をたどりつつある。株価の一時的上昇は、売られすぎの部分がリセットされているだけだ。その株価も高値のピークから最安値の下落率は、米ナスダック、ドイツDAXは、日本同様半値八掛け五割引きという状況である。米欧でも日本のようなバランスシート不況が始まっている。
世界中のお金をアメリカがコントロールする「ドル帝国」の崩壊が切っ掛けだった。マネー戦略がうまくいかなければ、圧倒的優位の軍事力を使った戦略で何をやるのか。70年前の大不況も結局最後は戦争だった。強制的に需要を追加し(軍需)、強制的に設備を廃棄し(爆撃)、強制的に債務切り捨てを行った(占領政策)。
日本はアメリカン・スタンダードを排除もしないが、盲信もせず、相対化する努力が必要だ。そして国益とは何かを常に考えた戦略的したたかさが求められる。