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哲学クロニクル 第360号
(2003年3月25日)
ビンラディンの勝利
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●新しいメーリングリストのお誘い
いよいよ首都に迫るいきおいです。しかし問題はまだ始まったばかりです。
これから長い間をかけて、ぼくたちは情勢と世論の変化をみまもる必要があるで
しょう。そこで、新しいメーリングリストを用意しました。このMLは議論よりも
情報提供を主眼としています。戦争の問題だけでなく、グローバリゼーションの
問題などについて、新しい出来事や論評などを、みんなで紹介しあう場としたい
と思います。参加を希望される方は、実名を明記の上、ポリロゴス事務局までメー
ルをお送りください。よろしくお願いします。
さて、今回はローティの発言の一部をご紹介します。
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ビンラディンの勝利
(リチャード・ドーキンス、ガーディアン、2003年3月22日)
どんなにワイルドなことを夢みていたとしても、オサマ・ビンラディンは今回の
イラク戦争ほどまでは、期待していなかっただろう。わずか18ケ月前、ビンラディ
ンの攻撃で、アメリカには真珠湾攻撃以来、初めてというほどの世界的な同情が
集まっていた。ところが今、イスラームを信じない者たちは、イラクという罠に
向かって、まっしぐらに進んでいるのとである。
ビンラディンにとって危険だったのは、アメリカに世界的な同情が集まり、巨大
なサタンに対する聖戦という長期的な目標がついえてしまうことだった。しかし
心配は無用だった。ブッシュが権力にとびついてからというもの、砂漠のラクダ
でもその後のなりゆきの想像はついたはずだ。しかも戦争の成り行きは、どうな
っても構わないとのだ。
ビンラディンの歪んだ視点から、状況がどう見えているか、想像していただきた
い。アメリカが短期間で勝利を収めたとしよう。ブッシュはフセインを追い出し
て、まともなイスラーム政府を設置させるに違いない。そしてうまくゆけば2004
年には、ブッシュは再選をかちとるかもしれない。しかしそうなると、威張り返
ったブッシュは反感を呼び、殉教者が次々と登場するだろう。そしてテロのター
ゲットには、事欠かなくなるだろう。そう考えると、アメリカが血まみれになり
ながら、ゆっくりと勝利を収めるほうがましというものかもしれない。
この戦争は、大量破壊兵器をなくすための戦だという主張があるが、これは不正
直だし、無知に近いほど、洞察に欠いている。もし戦争がこれほど差し迫って必
要であったなら、2000年と2001年の選挙キャンペーンで、公約があってしかるべ
きではないか。ブッシュもブレアも、国民になぜ戦争の必要性を訴えなかったの
か。戦争について公約で語った主要国の首相は、ドイツのシュレーダーだけで、
しかも戦争の反対する公約を掲げていた。
なぜブッシュは、忠実なブレアを従えながら、突然のようにイラクに侵攻すると
脅し始めたのか。その理由は驚くほど単純だし、二人ともそのことに恥じている
気配もない。論理的でないし、子供っぽいとしか言わざるをえないが、2001年9
月11日からというもの、すべてが変わってしまったのだ。大量破壊兵器について、
あるいはフセインがいかに国民を虐待しているかについて、何が語られようと、
ブッシュがいま戦争を進めているのは、ブッシュを含めて十分に多数のアメリカ
人が、この戦争は911のテロへの復讐だと考えているからなのだ。
これは奇妙というよりも、まずい事態だ。人種差別だし、宗教的な偏見に満ちて
いるからだ。イラクがこの残虐なテロと関係があることを、信じられる形で証明
した人はだれもいない。要するに、アラブ人が世界貿易センターを攻撃した、そ
れだけなのだ。だから今、アラブ人に仕返しをしてやれと。911テロの犯人たち
はイスラーム教徒だっただろう? そしてイラクはイスラームだよな。だからわ
れわれは進撃し、痛い目をみせてやるのだというわけである。
ブッシュは世界は悪と善の戦場だと、本気で考えているのだ。そしてブッシュの
忠実な支持者のうちには、今回の戦争は、善と悪の最終戦争のために必要な序曲
のようなものだと考えている人もいる。ハルマゲドンの後に、歓喜が訪れるとい
うわけだ。われわれはブッシュはともかく、こんなことをまともに信じていない
ことを期待しなければならない。しかしブッシュは本当に、なんらかの悪の霊と
戦っていると信じているようだ。もちろんブレアはブッシュよりも知的だし、能
力がある。しかしブレアは自分はいつも正しく、他人はいつも間違っていると信
じ込んでいるので、神学的な雰囲気を漂わせているのもたしかだ。
罪や恐怖のように、悪は状態ではないし、霊でもない。反対したり、抑圧したり
すべき力のようなものでもない。悪は、きたない奴等がやりたがるきたない事柄
の集まりだ。きたない奴等はどの国にもいるし、愚かな屋釣り、狂った奴等もい
る。だからきたない奴等を殺すだけでは問題は片付かない。代わりがでてくるだ
けだ。こうした奴等が権力のトップに立たないように、われわれの制度、憲法、
選挙システムを改革しなければならない。
フセインについては、われわれ西洋の人間はかなり罪がある。アメリカもイギリ
スもフランスも、フセインを援助したり、ときには軍備を供給したりしてきたの
だ。ところで民主主義というのは、われわれが指導者を選ぶときに、破滅的な間
違いをしないような制度になってたのではなかったか。
アメリカには3億近くの国民がいる。教育水準も高く、才能があり、人間的な人
々も多い。ノーベル賞の受賞者ひとつをとってみても、世界で群を抜いている。
これほどの才能のある国民を抱えた国なら、最高の指導者を選べるはずだ。とこ
ろが実際にはどうなったか。一年近くの選挙戦の後に選ばれた指導者は、どんな
人物だっただろうか。ジョージ・ブッシュだ。もちろん、選挙戦がデッドヒート
になったのはたしかだし、ブッシュはまるでクーデタ−のような方法で大統領に
就任した。しかしこれは憲法に基づいたクーデターなのだ。このシステムは長年
にわたって、トラブルの種となってきたのだ。1票が、反対陣営に投じられた25
票よりも勝ってしまうようなシステムはまともなのだろうか。選挙資金の多寡が、
直接に選挙結果を左右するシステムはまともなのだうか。
会社が社長を選ぶとき、大学が学長を選ぶき、巨大な苦労をして、最善の人間を
選ぼうとするものだ。面接を繰り返し、経歴書と推薦書を集め、心理テストを行っ
た後で、秘密投票で選任されるものだ。このやり方は世界で最大の権力を握る人
物を選びだすには、民主的とは言えないかもしれない。でも考えてほしい。一年
もかけて、新しい社長を選任して、選ばれたのがブッシュだったら、そんな企業
と取引をしたいと思うだろうか。
フセインはイラクに災難をもたらした。しかしフセインの脅威は、近隣諸国にし
か及ばない。ブッシュは世界に災難をもたらした。そしてビン・ラディンには夢
を。
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ポリロゴス事務局
chronicle@nakayama.org
(c)中山 元
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哲学クロニクル
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