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従軍記者に便宜を図る米軍の思惑
<03/17/2003>毎日インターナショナル
◇湾岸戦争時の「取材規制」を転換◇
〜ワシントンDCから〜
イラクへの武力攻撃に同行する「従軍記者」は500人を超える。米国防総省は、記者やカメラマンを最前線に連れて行き、戦闘を取材させる方針だ。湾岸戦争やアフガニスタンでの戦いで米軍の活動がうまく伝わらなかった、との評価から、今回、方針を転換した。
「心が揺れる空母乗組員」(『朝日』3月10日夕刊)、「連日昼夜なく作戦飛行」(『毎日』11日朝刊)、「緊迫、海の要塞 もう戦争は始まっている」(『読売』10日夕刊)――と最近、ペルシャ湾の米空母「キティホーク」の乗艦ルポが相次いで記事になった。日本のメディアを含む「従軍記者」たちが活動を始めたのだ。
国防総省は今回、事前に許可された記者、テレビクルーに空母や前線での取材を許す「エンベッド(埋め込み)」と呼ばれる方法をとる。許可されたのは、米メディアが約400人、それ以外が約100人。米国以外は欧州各国、日本、韓国など、国ごとに割当数がある。どの社を選ぶかは、国防総省側の裁量だ。
化学兵器防護マスクや救急キット、天然痘の予防接種、宿泊、移動、食料など、ほとんどを米軍が提供する。最大限の便宜供与と言えるだろう。
12年前の湾岸戦争。サウジアラビア・リヤドに米軍の会見場が設営され、記者たちは戦況の説明を受けた。緑色の閃光が走る音のないテレビゲームのような映像はここで提供されたものだ。
当時も、プール(代表)制で前線取材が許されることがあった。しかし、機会が限られていたうえ、苦痛に陥っている人々の映像がないかなど、米軍側が送稿前の写真やビデオをチェック。このため、メディアの不満は強かった。
一方、米同時多発テロ(一昨年9月)後のアフガニスタンでの戦闘では、厳しい規制はなかったが、積極的な便宜供与もなかった。ある国防総省幹部は、
「アフガン北部の要衝マザリシャリフの陥落、カブールの解放と、劇的なシーンが何度かあったのに、プライムタイムのニュースを見る米国民に生の情報が伝わらなかった。あの場面がテレビ映像で流れていたら、今回の対イラク戦争への米国民の支持も今より強固になっていただろう」と悔しがる。
米軍は昨年初夏、希望する記者をアフガンの戦場へ同行させた。しかし、主要な戦闘が終わった後だったうえに、カナダ軍やアフガン人の民家への誤爆など、米軍にとって好ましくない事件が相次いだ。「逆効果だ」「メディアへの対応が悪い」との批判が、ブッシュ政権内で持ち上がったと言われる。
◆従軍訓練に泣いた女性記者
こうした反省を基に、国防総省は今回、早い段階から「対イラク戦争ではメディアを同行させる」との方針を確定。昨年10月から月1回のペースで、同行を希望する記者向けの5日間の従軍訓練を実施している。
短期間とは言え、訓練は本格的なものだ。57人が参加した2月上旬からのコースを受けた米地方紙記者は、
「実施場所は、ワシントン郊外のクアンティコ海兵隊基地など。25キロの荷物を背負って10キロを歩く訓練では、途中で敵を装った米兵が化学兵器や機関銃で襲う想定があった。模擬弾とは言え、本気でこちらを撃ってくる。目をつぶってガスマスクをかぶるように命じられたが、パニックでうまくいかず、『実戦ならあなたはもう死んでいる』と言われた。あまりの恐怖に泣き出す女性記者もいた」と振り返る。
彼によると、兵舎の簡易ベッドで就寝し、起床は午前5時。訓練の中には、戦場での簡易トイレの掘り方、同僚が撃たれて腹から腸が飛び出した場合の対処法まであったという。
国防総省当局者は、
「記者には足手まといになってもらいたくない。もしも生物・化学兵器が使われたら、兵士は自分たちの対処で手いっぱいで、記者の面倒を見ていられない。訓練の意味はそこにある」と説明する。
しかし、「足手まとい」の危険を冒して報道陣を最前線に連れて行くのは、軍側も「見返り」を期待しているからだ。つまり、イラクとの情報戦で報道機関を利用したいとの思惑である。
湾岸戦争時、イラクは「米軍の空爆によって、病院や孤児院が破壊された」と盛んに宣伝した。国防総省は「今回もイラクは民間人の死傷者をバグダッドに残るメディアに報道させ、国際世論に訴えようとするだろう」と予測。米側の従軍記者は、その対抗手段と考えられている。
◆ギブ・アンド・テークの関係
先の当局者は、
「司令部でトミー・フランクス米中東軍司令官がほぼ毎日、記者会見する予定だ。ただ、彼が説明するより、テレビカメラが現場を映した方がより事実が伝わる。イラクのプロパガンダには、より客観的な報道で対抗する必要がある。一方で、メディア側も取材アクセスを得られるメリットがあるのだから、ギブ・アンド・テークだ」と、「見返り」期待を素直に認めた。
双方の利害が一致した米軍とメディアが「協力関係にある」のが現状と言える。したがって「ギブ・アンド・テーク」の前提が崩れた場合が問題になる。
ベトナム戦争を思い返してみよう。前線に入った記者、カメラマンが報じた戦闘の真実――例えば空爆を背景に逃げまどう裸の少女の写真――は、国際世論を刺激し、最終的には米軍のベトナムからの撤退につながった。米軍にとっては苦い思い出で、湾岸戦争で自由取材を認めない報道不信の元になったと言える。
例えば、今回の戦闘でも、米側の死傷者が想定以上に増え、同行記者がそれを報じ始めたらどうだろう。軍は報道を厳しく規制するか、従軍自体を見直すかもしれない。
国防総省は「事前の承認さえあれば、記者はどこでも取材できる」とオープンさを強調する。しかし、現状でも従軍報道は全く自由ではない。米軍の作戦計画、展開状況、負傷者、敵軍の態勢……と、軍事機密に関する報道はできない。そして規制に同意して署名することが求められている。
国防総省は「検閲はしない」と約束しているが、規制を守らなかった報道機関の従軍許可を取り消すような措置はとるだろう。
このような規制の中の報道だから、真実が伝わってこない可能性もある。私たちはそのことを疑いながら、記事やテレビ画像を見なければならない。
★在ワシントンDCジャーナリスト・森暢平=サンデー毎日3月30日号(3月18日発売)連載中。